3 【小鬼《ゴブリン》は現状を知る】
「今回の子達は優秀なようだな……母体が良かったからか?」
開口一番に入ってきた雄の中鬼がそんな事を呟いた。
俺は直感でこの中鬼が親なのだと思った。それは生物の本能なのか、或いは前世の俺が両親と疎遠になっていたからだろうか?自分でも驚くほど自然と納得できた。
(母親は誰か知らんが……まあ挨拶は別の機会にして、とりあえず話を聞こう)
「えっと…ここは…どこ?」
きっと俺の父親なんだろうがいまいち父親という実感が湧かず、前世でも父親と話した記憶なんて5、6年間くらいない。
(……いや、そもそも他人と話した記憶もない…)
久しぶりの会話に四苦八苦していると、父親中鬼は驚愕した顔でこちらを凝視した。
「何と!?驚いた……生まれて2日目でもう自我を持っているとは……普通の小鬼は1週間で自我を持てば優秀だというのに……」
どうやら俺の人生では珍しく…優秀な部類らしい。
まあ小鬼の中で優秀と言われても嬉しくないが。
変に目立って転生そうそう忌子として殺されたくないし、逆に神子として崇拝なんかされたくない。
忌子とか神子とかなんかありそうじゃん小鬼だし。
(……よし決めた、俺が求めてるのは『自由』な暮らしだ、暫くは拙い言葉でやり切ろう…)
この世界での目標を心に刻んで、驚愕の表情でこっちを凝視する父親中鬼に怪しまれないように次の言葉に耳を傾ける。
「まぁいいか!俺様の子なら優秀なのは当たり前だしな!俺様は小鬼集落の長、中鬼お前の父親だ!!」
やはりこの中鬼は俺の父親らしい……なんか不安になってきた。
(…自信満々で暑苦しいな……これからコイツのことはホブ父って呼ぼ…)
ホブ父は聞いてるだけで頭が痛くなるような大声で自己紹介をした。
「……小鬼集落って?」
「あぁ!そのことか!ちょっと待っていろ……長補佐はいるか!いるなら早急に来い!!!」
ホブ父は驚きながらも、息を吸って物理的に吹っ飛びそうな大声で、ある人物?いや、小鬼だから鬼物と呼んだ方が正しいのか?を呼んだ。
しばらくしてコツン……ペタリペタリという一定のリズムが穴の奥から聞こえて来て、こちらに近づいて来る。
「呼んだかのぉ?長よ……」
と言ってホブ父の言葉に吹けば飛んでいきそうな弱々しい声で返事をして、穴から顔を出した。
(見た感じ強そうには見えないけど……結構な年寄りっぽいし……コイツのことはこれからゴブ老って呼ぼ…)
きっとこいつが長補佐なのだろう。
木でできた粗悪な杖と身体を小刻みに振るわせ、立っている姿から今すぐにでも死にそうだ。
身体は当然だが全身緑色で、これまた粗悪な布1枚を腰に巻いている。
(うわっ!ジジイのイチモツが……)
震える拍子にプラプラとしたイチモツが見えそうになる。懸命にどういう訳か生まれたばかりだというのに、もう首の据わった首を90度捻る。
「来たか…信じられないと思うが!どうやら俺様の子は生後2日目でもう自我を持っているらしい……!」
「なっ何と……それは真か?」
「こんなつまらん嘘を俺様は言わん!」
ホブ父のその断言する姿が珍しいのか、ゴブ老は俺を珍しいモノを見る目で凝視した。
(……やはり俺の存在は…異端らしい)
2鬼してこちらを見てくる小鬼の目には、どういう風に成長していくのかという期待と、この世に存在しないものを初めて見たかのような恐怖が伺えた。
(……これは一歩でも踏み間違えたら詰みだな)
俺は、この瞬間がこの世界での生き方を左右する正念場だと改めて覚悟を決める。
「長補佐よ信じられないと思うが!それを検証するために…アレを持ってきてくれ!」
「……分かったアレじゃな、すぐに取ってこよう……」
そう言って、ゴブ老は入ってきた穴をそそくさと出ていった。
ホブ父がこちらから視線を外さないので、元より変な動きをするつもりもないが、下手に動けずにいると…
ーーコツン…ペタリペタリとさっきよりも早いリズムが出て行った穴から聞こえて来て、ゴブ老が再びこの広間に戻ってきた。
よく見るとゴブ老の左手には、白いガラスのような石?が握られていた。
(……ん?何だろうアレ……)
何かの鉱石か何かだろうかと思っていると、直ぐにその正体を知る機会が訪れる。
「……長よ、待たせたのぉ『鑑定石』を持ってきたぞよ」
(……鑑定石?)
そう言ってゴブ老は、息を切らしながらホブ父に白いガラスのような石?を手渡した。
「持ってきたか!長補佐それじゃあ……【鑑定】するぞ!!」
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・個体名ヒデオに・技能【鑑定Lv1】が行われました。ステータスを表示します。抵抗し非公開にすることも可能です。
・抵抗しますか?〈はいorいいえ〉
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そんな昨日寝る前に聞いた声が脳内に響いたかと思ったら、目の前に電子パネルのようなモノが出現し、視界を埋め尽くす。
しばらくあり得ないこの状況に放心していたが、現実に頭が追いついた時、俺は絶句した。
(……おいおいもしかして……これって完全に俺の個人情報じゃん!)
目の前の電子パネルに記載されていた内容は全て俺の個人情報であった。
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個体名・ヒデオ
種族・小鬼(成体)
性別・雄
Lv・1
称号・〈優等種ノ小鬼〉
個人技能・【解析吸収】
技能・【小鬼言語Lv10(MAX)】・【夜目Lv10(MAX)】・【絶倫Lv3】
武技・無し
魔法・無し
魔術・無し
加護・詳細不明
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なぜこれが俺の個人情報だと確信できたかというと、どういう訳か個体名欄のヒデオは俺の前世の名前だからだ。
(こんなのもちろん非・公・開だ!)
やはりプライバシーを尊重している文明国家から転生して来た身としては、いくらこの世界の父親にだとしても知られたくない。
(しかも個人技能っていうのもあるし、詳細は分からないが、なんかやばそうだし……だって個人な訳でしょ?後はこの加護欄の詳細不明ってところ……加護が無いわけじゃなくて、どこかの神様に加護を頂戴してるってことだろ!)
以上の理由から、僕は最後に出た選択肢の画面で〈はい〉を選択する。
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〈はい〉が選択されたため抵抗を行います。
成功率60%……成功しました。
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「……ん?長補佐この鑑定石は本物なのか!?」
「おや?此奴のステータスがみえんの……」
「まさか長補佐……ボケた訳じゃないな!?」
「何を失礼な事を!ワシはまだまだ現役じゃて……ほらここを見てみるがいい」
そういってはゴブ老は自分の腰に巻いてある、粗悪な布をまくって自分のイチモツを出して見せてきた。
(ぎゃーー)
詳細は言わないし、考えたくも無いが、何で異世界転生早々にジジイのイチモツばかりを見ないといけないのだろうか?
「……さっさとその粗末なモノをしまって新しい鑑定石を取ってこい!」
「……粗末とは失礼なやつじゃ、まあいいワシも此奴のステータスが気になるからのぅ……」
そう言ってゴブ老はまた穴から出て行った。ホブ父と俺の間に微妙な空気が辺りを満たすなか、ホブ父が使えなかった(実際には使えたんだけど……)鑑定石を投げ捨てた。
俺はさり気無く手を伸ばして、それをホブ父にバレないように回収した。
しばらくして、ゴブ老がまたガラスのような白い石を持って来て、「ほれ、新しいのじゃ」と言いながらホブ父に手渡した。
「今度こそは大丈夫だろうな!?」
「当たり前じゃ」
「……分かった、なら早速【鑑定】だ!」
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・個体名ケイゴに【鑑定Lv1】が行われました。ステータスを表示します。使用された鑑定石が粗悪品のため、抵抗し非公開or偽装することも可能です。
・偽造しますか?〈はいorいいえ〉
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さっきとは違った選択肢が出現した。何と自分のステータスを偽造出来るらしい。
(……これは願っても無い誤算だ)
どうやら鑑定石が粗悪品だったため今度は偽装出来るらしい。
俺は迷うことなく即決した。もちろん〈はい〉だ。
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〈はい〉が選択されたため偽装を行います。
成功率30%……成功しました。
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そんな声の数巡後、俺の前に先程と似た電子パネルのような物が現れた。
(…危っねー成功率30%って……)
内心どきどきしながらステータスを確認する。さっきとは違い誰でも見ることが出来るらしい。
その証明に俺にも見えるし、ホブ父もゴブ老も俺のステータスを凝視している。
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個体名・ヒデオ
種族・小鬼(成体)
性別・雄
Lv・1
称号・〈優等種ノ小鬼〉
技能・【小鬼言語Lv5】・【夜目Lv2】・【絶倫Lv3】
武技・無し
魔法・無し
魔術・無し
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「何と……これは…すごいのぅ……」
ゴブ老は、弱くなっている俺のステータスを見て、先ほどの俺みたいに放心状態になったらしい。
「……流石は俺様の息子だ!生まれた時から『名持ち』か、どうりで自我が目覚めるのが早いわけだな!しかも『称号持ち』とは恐れ入った!!これで俺様らの種族は安泰だな……」
ホブ父は驚愕しながらも俺を褒めちぎる。
2鬼の反応で、僕のステータスが2鬼の想像のさらに上にいったのだと分かった。
そして、物凄く素っ頓狂な顔で俺のステータスを凝視していた。
(…ふぅ…なんとか偽装出来たが、偽装してもこの反応とは……)
多分小鬼にしては知性を持つのが早かったから何か秘密があるのかを調べたのだろうが、俺はそのお陰で2つの疑問ができてしまった。
驚愕していたホブ父だが、直ぐに立ち直って俺に初めて笑いかけて来た。
「まぁいいか!俺様の子に変わりないんだ!今日からお前も家族の一員だ!よろしくなヒデオ!!」
「……よろ…しく」
俺は前世を含めた、久しぶりの忖度の無い好意に身体が少しくすぐったかった。
顔は少し凶悪な小鬼の顔面だが、この世界での俺の父親に間違いない。
そのためか反射的に返事してしまったが、しかし悪い気はしなかった。
色々な事があったが、今は何とか転生先でも生きていけるという事に心の底から安堵していた。