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そして成立する。


「さっきから中身を見せたいとは思っているんだが、ここだと風が強くてなぁ。無風になるまで待とうと思ったんだが、良かったら船の中か風の当たらないところまで付き合ってくれるか?」


風? ゴブリンの言葉に私は周囲を見回す。

確かに潮風がビュウビュウ吹いているけど、袋の小麦が零れるのがそんなに嫌なんだろうか。ちょっとくらい良いじゃないと言いたいけれど、向こうにとっては大事な商品なのだから仕方なくもある。

船の中に入るのは正直怖いけれど、建物の中ならとおじさん達がどこか貸してくれるかもしれない。「聞いてみる」と答えた私は、その前にもう一度確認をする。


「『結局中身は何ですか?』」


今度は一言で返事が返ってきた。

それを聞いた瞬間、私は目の前の積み荷の存在に一歩引く。荷車に溢れんばかりに高々と積まれている荷袋を前に、思わず周囲まで見回してしまう。この人達、そんなもんをこんな風に積むとか正気?!


「何考えてるんですか!」

彼らの言語で思わず叫んだ後、私はずっと無言でこっちを眺めていた港のおじさんへ振り返る。

「すみません!」と断ってから、彼らが商品を見せる為に建物内か船の中まで付き合って欲しいと言っていることを伝えた。「一体何なんだ?あれ」と私が子鬼語を話せていたことを確認したおじさんは、同じ疑問を投げかけた。


答えようとしたけれど、流石に大きな声で言えずにコソコソと耳打ちする。

すると、みるみるうちにおじさんの目が驚愕に見開かれていった。「ハァッ?!」と大きな口で叫んだ後、やっぱり私と同じようにゴブリンと高々と積まれた積み荷を見比べる。

そう簡単には信じられない様子のおじさんは罠の可能性も鑑みて、自分が所有している港の倉庫まで案内すると言ってくれた。「すぐそこだ!」と上擦った声でブンブンとサンドラさん達のいる場所の背後にある、窓のない小さな建物を指さしてくれた。


「『彼がそこの倉庫を貸してくれます。是非見せて欲しいと言っているので、ご同行願えますか?』」


ゴブリン達からすれば驚いているのか踊っているのかわからないおじさんに代わり、私から彼らの言葉でお願いする。

取引を前向きに見ていると判断してくれたゴブリン達は、小休止していたゴブリンと積み荷を一つ背負ったゴブリンがその荷のまま一緒に来てくれることになった。やっぱり彼らも彼らで警戒しているらしい。そりゃあ密室に連れ込まれそうになればどんな種族だって警戒する。

サンドラさんには待っててもらい、ゴブリン二匹と私はおじさんに連れられ倉庫へ向かった。重たい筈の荷袋を小さい身体で軽々と抱えるゴブリンに関心しながら、私も彼らの前を歩く。

本当に信用できるのか?と港のおじさんに眉を潜める小休止ゴブリンに、私は正直に「多分」と答えた。サンドラさんの紹介だから大丈夫だと思うけれど、私だって初対面だ。

窓のない無風の倉庫で行われた貿易取引。

布袋の中身を見せてもらったおじさんは、ひっくり返るほど叫んだ後にすぐ取引を決めた。

まぁ当然だろう。だって小麦が入っていると思っていた布袋の中身は全部


砂金だったのだから。


ゴブリンの話だと、自分達の集落で採れるものだと。在処は教えられないけれど大量にあるらしい。

基本的に農業と狩猟で生きている彼らは、この砂金がただひたすら邪魔だった。本当はそこに畑を作りたいのに種を撒いても望む植物は育たないし、耕すのも一苦労。取り敢えず邪魔な分を袋に詰めて、廃棄場に放っていた。完全にプラスチックゴミと同じ扱いだ。


最近になって、ゴブリンの集落を偶然通りかかった異種族の冒険者が金色の指輪や武器を持っていたのを見てもしかしたら塵だと思っていた〝金色の粉〟が売れるんじゃないかと思って売りに来たらしい。

その冒険者が恐らく人間族だったから取り敢えず人間の集落を狙って売りに出たけれど、どの港もあまりに潮風が強くてなかなか布袋を開けられない。船に来いと手を引けば逃げられる。

一度、別の港で思い切って少しくらいぶちまけても良いかと袋の口を開けたら砂金を一瞬で港中にまき散らし、その途端大勢の人間にもの凄い形相で詰め寄られて叫ばれて身の危険を感じて逃げたらしい。本人達は未だに何故怒られたのかはわかっていないと。……多分それ、怒ってたんじゃなくて「俺に売ってくれ」とか「どこから」とかそういう質問か交渉だったと思うんだけれど。

まぁ意味もわからない言葉で怒鳴られたら怖いし逃げる気持ちはわかる。


《スキル発動。自動翻訳補助機能、単位互換共有します》


「塵どころか上質な金だぞ……?!€€€(グラム)でいくらで売ってくれるんだ?!」

おおおおぉぉぉお!と興奮を抑えられない様子のおじさんは、砂金を顕微鏡みたいなもので確認しながら叫ぶ。

おじさんが言ってる単位もきっかりと私が知る単位でいうグラムだと理解できた。これもスキルの一つだろうか。


因みに相場はいくらなのか尋ねてみると、この世界……というかこの国では最低でも一キロで一千万はすると言われた。思わず私まで悲鳴が上がる。

予想はしていたけれど、こんな高級品をあんな無防備にドサドサ積み上げていた彼らが信じられない。積み荷一つでも確実に数十キロかそれ以上の重さがあると考えるともう恐い。

震える手でガクガクと口を押さえながら、ゴブリンにいくらで売ってくれるのか尋ねてみる。


「基本的に俺達は人間族とかみたいにバンバン買い物しねぇからなぁ。代金貰って、またそれで別の食料買ってだと労力もかかる。……因みに相場だとこの一袋で、どれくらい貰える?」

「『最低でもこの一袋で貴方達の船が沈むくらいの食料が買えます』」

おじさんには悪いけれど、ここは正直に答えさせてもらう。

どうやらゴブリン達にはお金の概念自体あまり浸透していないのか、集落自体も自給自足現物供給がメインらしい。私から彼らになるべくわかりやすく砂金の価値を彼らの買い取っている食料や作物の種と比べて説明すると、またみるみる内に彼らの目まで丸くなった。やっぱりそこまでは想定していなかった。


あまりにもの高額に驚いた様子のゴブリンも少し考え出した。

少なくともその額ではこの場で別の商品と取り替えても彼らの小ぶりは船には積みきれない。今、船から出している分だけでも相当な額だろう。

そして彼ら自体は代価は欲しいけれど、砂金自体は要らない。

暫く考え込んだまま沈黙を続けたゴブリンは、途中でちらりと私を見た。返事をするようにこちらからも見つめ返せば、ゴブリンはテーブルに広げられた砂金を指さした。


「取り敢えずこの一袋は丸ごとやるから、代わりに船に積めるだけの保存食と鉄をくれ。残りの積み荷は一度持ち帰る。次からこの半量に詰め替えて一袋ずつ持ってくるから内密に取引をしてくれ。代わりにアンタらとだけ取引をするし、額は相場の三割で良い。その額に相応した食料と上質な鉄と交換だ」

と説明してくれるか?と、頼まれる。

このゴブリン、太っ腹なように見えて結構やり手だ。一度に積み荷全部を手放さないのもそうだし、取り敢えず目の前の一袋で今回の金粉の口止めと内密な取引の交渉までしている。少しずつ小出しにするのも正しい。

半分の量でも相当な額だし、その度に食料や生活に必要な鉄が貰えれば彼らの生活も安定する。しかも彼らの代わりにおじさんが品物を用意してくれれば、彼らはその稼ぎでまた商品を買うという手間もしなくて済む。


私からおじさんにゴブリンからの取引を説明すると、当然ながら飛びついた。

「三割?!」と叫んだ時には見事に倉庫中に響き渡っていた。あまりの大音量に私が両耳を塞いだ時には、おじさんは両手でゴブリンと握手を交わしていた。交渉成立、と私が説明しなくてもわかった。


今すぐ食料と鉄を手配すると叫び、出口に向かうと倉庫の外にいる他のおじさん達に呼びかけた。

第二倉庫の保存食と第三倉庫の鉄をありったけ!という指示に複数の駆け出す足音が聞こえた。再び戻ってきたおじさんはもうウハウハ状態に頬が緩んで、顔が興奮でピンク色だった。

これだけみると怪しさ満点だけど、ちゃんと商品は用意してくれているしやっぱり悪い人ではないだろう。


おじさんがこれからありったけの商品を彼らの船に運ばせてくれることを説明すると、ゴブリン達はテーブルに置いた一袋の砂金を置いて先に船に戻ることにした。

船に戻って交渉成立したことを仲間に伝えたゴブリンは、出した積み荷を船に戻すように指示を回す。取引の成立内容を聞いたゴブリン達は、全員目の色を変えて喜んでいた。


「急いで埋め立て地からも掘り起こさねぇと!」

そう叫ぶのを聞くと、まだまだ塵として処分されていた砂金もあるらしい。

これで食べるのにも生活にも困らないと喜ぶゴブリン達が、遊園地に来た小学生みたいに見えた。微笑ましく眺めていると、不意に取引を行ったゴブリンが私に笑いかけてきた。


「ありがとうな嬢ちゃん。お陰で面倒事なく良い取引ができたよ。これ、今回の駄賃だ」

どさっと。私の目の前に置かれたのは、彼らが今船に運び直そうとしていた積み荷の一つだ。その布袋の中に何が入っているかは、もうよく知っている。

えっ、は⁈とゴブリン語も出ずに叫んでしまう私は、積み荷と彼らを見比べる。

ゴブリン全員が「とっとけとっとけ」とまるで親戚の子どもにお年玉を渡すくらいの軽い笑顔を向けてくれた。けれどお年玉どころじゃない!!


「いえっ、でもこれは‼︎」

思わず人間語で叫んでしまう。

おじさんが右往左往と騒ぎ出したのに気がついたサンドラさんが、私の隣に並んで「なに?小麦?」と尋ねてくるけれど今は恐くて答えられない。

確かに今私は無一文だし、お金があるに超したことはないけれどあまりに高額過ぎる!!

なのにゴブリン達はにこにこ笑いながら、さっさと残りの積み荷を船に運び直し始めてしまった。

「ここ、大当たりだったな」「後ろのは嬢ちゃんの母親だっけか?」と言いながら、さっさか積み荷と一緒に船へ消えていく。


「これくれたの?」

サンドラさんが尋ねてきて、やっと私は頷いた。

あまりの額の大きさに遠慮どころか、まだ彼らにちゃんと返事すらしていないと今気づく。「あのっ」と声を上げ、積み荷を担ぎ並んで振り返るゴブリンに頭を下げる。


「『あ、りがとうございます……。私、無一文でお金に本当に困っていたので、本当に凄く助かります』」

正直な感想だった。

この異世界で生きていくのにずっとサンドラさんに甘えっぱなしじゃいられない。多過ぎるとは思うけれど、ここはちゃんとここは素直にお礼を言っておかないと。


するとゴブリン達は片腕で軽々と積み荷を担いだまま手を振ってくれた。

「こちらこそ」と返してくれた言葉は本当に柔らかくて、子どもの体格なのに本当の親戚のおじさん達みたいだった。

一度積み荷を担いで船の中に消えていく彼らに頭を下げた後、背中を見送ってから私は目の前の布袋に手を掛けた。まだ目の前にはゴブリン達が運びきれていない積み荷の山があるけれど、取り敢えず自分の分だけでも回収しておく。……指をかけた瞬間、ずしりとした重さに「あ、だめだ」と気付いた。

あまりに重すぎた。これじゃ運べないと思いながら中腰状態で固まっていると、サンドラさんが「持とうか?」と手を貸してくれた。


「うわ、なにこれ鉛?」

よいしょーっと両腕で抱えたサンドラさんにも重かったらしく、若干ふらついていた。それでも落とさず抱えてくれて、乗ってきた馬車まで運んでくれた。中身については帰りの馬車の中で話そう。

取り敢えずこれでサンドラさんに生活費とか洋服代とかも早々に返せそうで良かった。


ゴブリンの船に本当に積めるぎりぎりまで食料と鉄を積み込んだおじさんは、彼らが出向する間際にまた両手で握手を交わしていた。もうここまでくると、本当に言語は要らない。

ゴブリンの方も清々しい笑顔で、溢れんばかりの積み荷に上機嫌で出向していった。

地平線の先に見えなくなるまでゴブリンを見送ったおじさん達に、改めてお礼を言われた私は報酬にと言って両手で抱えきれないくらいの食料を貰えてしまった。

最初は「砂金の分け前をやる」と言われたけれど、既に一袋まるまる貰っているし受け取れない。

改めてゴブリン達とは正当で内密な取引を続けて貰うようにと私からもお願いをして、サンドラさんも釘を刺してくれた。おじさん達もそのつもりで胸を叩いて了承してくれた。


今度はサンドラさんと一緒に両手から零れそうな食料を二人で運び、馬車で港を後にした時にはもう昼がとっくに過ぎていた。

どっかで食べに行こうか、と言ってくれたサンドラさんに取り敢えず馬車の中のヤバイ物を家に避難させてからとお願いをして、そっと念の為に布袋の中身を説明した。

流石のサンドラさんも開いた口が塞がらない様子で、暫く布袋の中の砂金に顎が外れていた。サンドラさんの家に着いた頃にやっとその口が閉じたけれど、それでもまだ瞬きは少ない気がする。


「間違いない。貴方もやっぱり爺さまと一緒で稼げるタイプだわ」


降りる為に馬車の扉を足で開けながら、サンドラさんは重々しく断言した。

いや今回が運が良かっただけだと言ったけれど、サンドラさんは砂金の袋を抱えたままそれ以上は返してくれなかった。「すごい子来たな~」とどこか鼻歌交じりに呟く声だけが、玄関に入った瞬間にうっすらと聞こえた。

こうして、私の異世界初仕事は成功に終わっ……




「なぁ、お前」




玄関を、閉めようとした時だった。

聞き覚えのある、ここではまだ特徴的な言語のその声に振り向けば、思った通りの人物が立っていた。

馬車を降りたときは気づかなかったのにどこかに隠れていたのか、今は私がさっき馬車を降りたところに佇んでいる。

モフモフの白い毛と、毛でモフモフ膨らんだ尻尾。そして釣り上がった眼差しが私を真っ直ぐ捉えていた。昨日会った狐のモフモフだ。

何だろう。サンドラさんにまた用事だろうかと考えていると、真剣な表情のモフモフは再び口を開いた。


「……ちょっと話せよ」


そう言って肉球のついた手で手招きされる。

口はわりと悪いのに眉をぎゅっと真ん中に寄せている彼は、どこか怒っているようなむくれているように見えた。


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