41.移住者は沈む。
── ごめん……ごめん……ごめん…
コポコポ……と閉じてる筈の口の端から気泡が漏れては上がっていく。
水の中で目を開くなんて苦手だった筈なのに、気泡が向かっていく先へ目が離せない。逆光でよく見えないけど同じように沈んでくるのは多分ルベンだ。
どうしよう、全然泳いでないし動いてない。逆光じゃ血がどれくらい出てるのかもわからない。水上に押し出したくて手を伸ばしても、届かない。
ルベンの方がまだずっと水上に近い。このまま浮いていって欲しいのに、少しずつこっち側に近付くように沈んでくるのがわかって怖くなる。なんで、こんなことになっちゃったんだろう。
──誘うんじゃなかった。
ルベンを誘わなきゃ、今頃サンドラさんと一緒にいつも通りあの町にルベンはいられたのに。
不安だからって、一緒の方が楽しいからって、簡単な気持ちでルベンを巻き込むんじゃなかった。転移者だってもっと自覚を持つべきだった。
考えれば考えるほど閉じてないといけない口が苦しく歪んで、また大きな泡が溢れて逃げた。お願いだからルベン、起きて逃げて。サウロを助けて。
──連れてこなきゃ良かった。
あの時森で、私が連れてくなんて言わなきゃサウロだってあんな目に遭わなかった。
何年もずっとあの森で一人で生きてこれたサウロなら、死ぬこともなかったのに。あれ、なんで連れてきたんだっけ。……あああ駄目だ頭が上手く働かない。考える部分が潰れて暗い。サウロは生きてる?私が見間違えただけで生きてる?何か、なにか、理由で生き、生きて
── 調子に乗った私のせいで。
転移者で、……すごいスきるでたぶん特別だと思ってた。そんな気ないみたいに考えながら、思いながら、振るまいながら、大丈夫だと思ってた。
優しい人にたまたま当たって、るべんがいてさうろがいてなんでもうまくいくと思い込んでた。いつだって都合良くうまくなんとかなるとかバカみたいに。転移するまであんなにあんなにうまくいかなかったくせに。さんどらさんに会うまでるべんあうまで、このせかいにくるまでてんいするまで
『問題なく〝神野奏〟を終了致します』
……?
なんだろう、今の。
神野奏と、その名前をきくのも久々で。どこかで、きいた。思い出せないけど絶対きいた。あの時そう言われた。……どの時?
わからない、思い出せない苦しい。いつ言われた?なんて言われた?誰に言われた?どんな声で、どんな意味でどんな言葉で??
あ、あ、あああ、あああああああああああああぁどうしよう苦しいわからない考えれない。本当に、もう。
思い出して今更足をバタバタしても、緩く交差するだけでどうにもならない。それがまた苦しくて、飲み込んでたいのに出しちゃいけないのに閉じてる方が辛くなって口が意思とは関係なく開こうとする開けたら死ぬってわかるのに。
どう、しよう。どうしよう、どうしよう、どうしようどうしようどうしよう助けてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてだれか、だれか、だれか!
── ルベン、サウロ
コポ……コポッ……
くちから、もれる。こぼれる、さんそがぜんぶ、もう。
《スキル発動》
「 ……」
耐えきれなくなった大きな気泡を最後に、視界が白に染まった。




