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バベルの翻訳家〜就活生は異世界で出会ったモフモフと仕事探しの旅を満喫中!〜  作者: 天壱
Ⅳ.着地

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採寸し、


「では、そちらの殿方には民族衣装のデザインとエルフ族のデザインのもの。ソー様にはエルフ族のデザインでということで宜しいでしょうか。もし、ご希望でしたらお履き物の方も合わせてお仕立てすることができますが」

簡単に私の希望を纏めながら、プラスアルファの購入を誘うエルフさん。本当に有能だと思う。

指し示すように私とサウロの足元に視線を落とした。ルベンは常に裸足だから良いけれど、私とサウロは一応素足にブーツだ。確かに、サウロのは言うまでも無いし私も結構ここまで歩いてきたりドラゴンの血を吸い込んだりしてボロボロになっている。良い機会かもしれない。


「サウロ、サウロの靴も頼んで良い?」

「動きやすくて丈夫であれば、何でも良い」

ルベンは要らねーからな、と。続いてルベンからは断りが入った。

まぁ、今までずっと裸足族だったのに急に靴を履くのは抵抗があるだろう。それに答えながら、改めて私は有能エルフさんに向き直る。


「『じゃあ、二人ともお願いします。なるべく丈夫で動きやすいものを。できればどっちの服にも合うようにお願いします』」

「勿論でございます。民族衣装の方はデザインから始めるので仕立てに数日頂きます。靴とエルフの方は、最初からデザインさせて頂く場合でしたら数日と、既存のものからお選び頂けるのであれば今日この場で身体の大きさに合わせて調整することも出来ますが、いかがなさいますか?」

やっとセールストークの調子が掴めて来たのか、引き攣った笑顔が自然なものになっていく。

つまり最初から作って貰うのと既存の布やデザインからサイズだけ合わせて貰うということだ。二人にそのまま返すと、どっちでも良いという答えが重なって返ってきた。

なら、やっぱりエルフ族の服だけでも早い方が良い。次に服を取りに来るときは少なくとも街に浮かないで済むし、靴も指摘されたら早くボロボロじゃないものが欲しくなった。

早速エルフ族デザインの方と靴は既存のものから選ぶことを伝えれば、そのまま私達は採寸に入ることになる。


「『あ、因みにここ宝石とかの現物払いって可能ですか?』」

「一定の価値がある宝石であれば可能です。鑑定人が在中しております。仕立てる服は全て前払いとなりますが、宜しいでしょうか?」

勿論です、と私は元気良く答える。よし、取り敢えずこれで支払い問題も突破した。

心の中でガッツポーズをしながら、私はルベンを肩に乗せるサウロの背中を押して試着室へ向かう。これから採寸だと話すと二人して「採寸……?」「なんだそれ」と疑問が投げられた。先ずそこから説明しないといけないらしい。


「二人の身体に合った服を作るために身体の大きさを測るんだって。順番にやるみたいだから、最初ルベン行っておいでよ」

「ルベンから?!」

先を譲った途端、ルベンが耳から尻尾まで逆立てた。キシャーッと威嚇する猫みたいな反応に思わず笑ってしまう。

別にそんな怖いものじゃないよと手で示せば、丁度準備を終えたエルフさんがメジャーを手に呼んでくれた。私から「ほら呼んでるよ」と言ったけど、ルベンは一向にサウロの肩から降りようとしない。

採寸といってもピンとこないから警戒しているのだろう。サウロもあまり前向きではないようだ。仕方ない、と私は息を吐き、エルフさんに問い掛ける。


「すみません、採寸ってこのままでもできますか?」

「ええ、今回の注文でしたら御三人とも服の上からでも問題ありませんので」

エルフさんの言葉に一息胸をなで下ろす。なら、やっぱり私が先にやっちゃおう。

二人に「見ててね」と声を掛け、先に一歩前に出た。ウエストとか太さ計られるのはちょっと恥ずかしいけれど、まぁ二人ともそんなに人間族の平均値とか知らないからいっかと考える。私が前にでた途端に、女性のエルフさんに採寸役が代わってくれた。


さっきの美形のお兄さんもそうだけど、こっちのお姉さんも凄い美女だからちょっと緊張する。

私より背が大きいのに、顔が小さくていっそ測られるのを見られるよりこっちの方が恥ずかしいかもと思ってしまう。

採寸自体はエルフさんに言われた通り、姿勢を正して両手を広げたり足を広げたりと簡単な動作だけで終わった。……胸囲だけは測っているのをまじまじ見られて少し恥ずかしかったけれど。何となく目線を二人から反対に反らしてしまった。いや、別に二人ともどうせ興味ないのはわかってるけど!

ありがとうございましたとエルフのお姉さんの合図を受けて、ゆっくりと両手を閉じて息を吐く。ルベン達の方を見れば、二人とも目が「それだけか」と言っているかのようだった。まぁ私は基本何もしていないし。


「ね、怖くないでしょ?ルベンも見ててあげるから行ってきなよ」

「すっげーつまんなそう……」

警戒心が解けた分、すごく気怠そうだ。

釣り上がった目と一緒に眉も寄せたルベンがそれでも自分からサウロの肩から降りてくれた。ストンと殆ど音もなく着地すれば、エルフさんの方に歩み寄った。

今度はまたさっきのエルフのお兄さんだ。ちゃんと男女で分かれているのがまた丁寧だ。ルベンの背相手に寸法を測るお兄さんは、片膝を付いてメジャーを広げながらルベンの鼻の長さや尻尾の太さまでしっかり確認していた。

時々「では足を肩幅まで」とかは、ルベンに通じないから私がその場から声を掛ける形でお願いした。

「こんな長さまで測って何に役立つんだよ……」と時々不満そうな声を漏らしながらも最後まで大人しくしてはくれた。測り終わって戻ってきたルベンは、大きな口を一文字に結びながらサウロを見上げる。次は彼の番だと言いたいのだろう。

ルベンのサイズを記載し終えたエルフさんも呼んでいる。


「じゃあ次、サウロね!ちゃんと見ているから安心してね!」

「……嗚呼」

若干まだ乗り気でないサウロの背中をぐいぐい押しながらエルフさんの方へと向かわせる。

一応ルベンと一緒で私から「両手あげて」「反対向いて」という指示には従ってくれたサウロだけど、エルフさんの一方的なセールストークには少し困っている様子だった。どうやらエルフさんはエルフさんでまだサウロが同族だと思っているらしい。

「可愛らしいお連れ様ですね」「背が高いですね。こんな背の高いエルフは初めて見ました」と言われても、オークのサウロには言葉が通じないから仕方が無い。

サウロだと身体の大きさからして違うから、時々一人ではなくさっきの私を測ってくれたエルフのお姉さんとの二人掛かりで測っていた。

やっぱり身体が大きいとこういう時大変だ。オーダーメイドのお店にして正解だった。しかもサウロ、背中に背負った斧は背負いっぱなしだから余計にエルフさん達も測りにくそう。


「お疲れ様でした。それでは次は当店の既存デザインからお選び頂きます」

サウロも無事終えて、全員測り終わった私達は、また最初に座っていた椅子に戻される。

希望だったら布も直接見せると言いながら広げてくれたのはカタログだった。なんか、どの服も良い感じにエルフが着こなしているイラストがある。どれも凄く格好良い。……まぁこういうの、自分が実際に着ると微妙、っていうことはしばしばだけど。

サウロとルベンに説明しながら一枚一枚捲って見せる。女性物はすごく煌びやかで可愛い系統から格好良いのまであって悩むけど、男性物も負けてはいない。


「どうする?二人とも気に入ったのとかある?」

「………………めんどくせぇ……」

「私は、ソーが選んでくれたので良い」

「ルベンも~。こっちはエルフのなんだろ?動きやすけりゃもうなんでも良いよ」

ルベン!昨日は自分で選ぶって言ったくせに!!

そうは思いながらも、これだけ沢山の服があったら疲れちゃう気持ちもわかる。

私も普通並には服も好きだけど、ファッションリーダーみたいに毎日キラキラお洒落しろと言われたら確実に心が折れるし。仕方ない、ここは私の独断と偏見で決めさせてもらおう。


とはいっても、私一人じゃやっぱり荷が重いからエルフさんに「動きやすくて且つ二人へのお勧めってありますか……?」と相談しながら決めることにした。

できれば洗いやすくて汚れにくいものと希望しながら、お兄さんと二人で相談して何とか決められた。最後の二つに絞った時にはサウロもルベンもなかなか暇そうで、サウロはぼんやりと私に視点を固定したまま呆けているし、私の反対隣に座っていたルベンも欠伸三昧だった。

さっきみたいにサウロの肩にぶら下がっていないでソファーにいる分、余計に眠くなっているのだろう。

端の席に座る私の隣にルベン、サウロとなんかショッピングに子どもを連れて来たお母さん気分だ。


最後に、私の服を選ぶところに入ればやっと気も楽になった。

エルフのお兄さんに動きやすさや女性人気とか流行りとか色々アドバイスをして貰いながらデザインを選ぶ。

承知しましたと頭を下げてくれる中、やっと終わったという達成感が強かった。正直私も結構疲れた。

エルフのお兄さんが一度奥に下がっていくのを見届けてから、ソファーの背もたれに身体を預ける。人前じゃなかったら両手を放り出して伸びをしたいくらいだ。

ピョコリと尖った耳を立てたルベンが、顎を私の膝に乗せるようにして覗き込んでくる。


「ソー。これでもう終わったのか?」

「うん、多分。あとは出来上がりを待つだけだって。もうどうせだからこのまま着て帰っちゃおうよ」


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