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バベルの翻訳家〜就活生は異世界で出会ったモフモフと仕事探しの旅を満喫中!〜  作者: 天壱
Ⅳ.着地

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34.移住者はのる。


「ここがエルフ族の集落……」


人間族の集落から逆走して、街の入り口まで戻った私達はエルフ族向けの看板を頼りにそこへ辿り着いた。

ルベンとサウロがそれぞれ言葉を返してくれる中、もう入り口を過ぎたところから圧巻させられる。街並みこそ人間族の集落と似たようなものだけど、なんというか煌びやかさが違う。

キラキラと宝石みたいな装飾品がそこかしこに飾られていて、歩く人も全員がキラキラしている。

そして、その行き交う人全員が耳の尖ったエルフだ。


「本当に彼らは……エルフ、なのか……?」

サウロの戸惑いの声がぽつんと放たれる。驚くのも無理はない。私もこうやって見て顎が外れそうだ。

エルフも今まで読んだ本とかで大体は想像ついていたけれど、今回は全く期待を裏切らない。長く尖った耳と人間族に似た身体つき。そしてこうやって行き交う人を見るだけで、誰も彼もが凄まじい美形揃いだ。今ならサイラスさんがサウロをエルフだと思い込んだ気持ちもすごくよくわかる


「すげー……どいつもこいつもサウロみてぇ」

サウロの肩の上でと同じような感想を言うルベンに、私も頷きだけで返す。

ただ、身長……というか身体つきだけはちょっと違う。サウロの方が明らかに背も高くて身体つきもしっかりしているし、体格で言えば目の前にいるエルフ達はファッションモデル体型でサウロは海外俳優体型の違いというか。

あとは顔色もサウロの方が圧倒的に白い。エルフはまだ血色は感じられるし、白人程度の白さだ。……まぁどっちにしても私達のお上りさん感は否めないけど。


見るからに人間族の私と獣人族のルベンもそうだけど、サウロも服装だけみたら周囲から浮いている。ルベンなんて服ボロボロの継ぎ接ぎだし、サウロだって野性的なワイルドファッションだし。

そして道行くエルフは皆、流行の最先端と言わんばかりに全員お洒落の権化だ。装飾品まで当然のように身に着けているし、耳が尖っているのと建物さえ気にしなければ元の世界に戻った錯覚さえする。

これは是が非でも早く二人にもお洒落服を用意しないとと私の中で緊急性が強まった。


行こう、と一歩踏み出せばサウロも続いてくれる。斧を背負えているお陰で両手が開いたサウロに手を伸ばせば、無言で繋いでくれた。

サウロにも自分と似てはいても異種族であるのには変わらないけれど、私にとっては始めての異種族大集合へのダイブだ。今ならサウロが人間族の中で心細かった気持ちもよくわかる。


サウロと手を繋ぎ、美男美女の間を通りながら私達は服屋を探す。

建物の造りが似ているとは思ったけど、こうやって歩いてみると店の系統配置も結構似てる。エルフの服装は人間族の私の目から見てもお洒落だし、色々と感覚とかも人間族寄りなのかなと思う。……かと思えば巨大な御神木みたいなものが聳え立っていて、見上げれば木の中にエルフ達が寛いだり買い物しているのが見える。看板を見れば、どうやら高級集合住宅だ。どうやら大都会でもエルフは木造住宅を好むらしい。


屋台エリアを通り抜け、出店からしっかりとした建物の店が多いところに出る。

建物的には商店街という感じだけど、装飾と美男美女でお洒落指数がぐんと高い所為か〝メインストリート〟と言った方が似合う雰囲気だ。

大勢の人が行き交う中、異種族は見渡すだけだと私達だけだった。いや、この中に人間族の美形が歩いていたら綺麗に紛れるかもしれない。顔だけじゃなく今だけは自分の足の長さがすごく恥ずかしい。


私達が通り過ぎる度に物珍しそうな眼差しや奇異の目をやっぱり向けられた。

身体が大きいサウロも見かけは一緒でも体格や服装が違うから目立ったし、私とルベンは言うまでも無い。時々失笑や馬鹿にするような眼差しも向けられるからちょっとだけカチンとくる。

人が多すぎて煩いから聞こえないけど、確実に「なんだあのダサいの」「足短いぜ」とか言われてる気がする。物語によっては野性的な格好をしているパターンもあるエルフなのに、ここにいるエルフは全員モデルさんファッションだ。いっそどこかの王族とかも紛れ込んでるんじゃないのと思う。


「でも、お洒落ってことは服屋さんもたくさんあるとも考えられるし……」

悪いことばかりじゃない。

自分に言い聞かせるように呟きながら、周囲を見回す。そうじゃないと都会指数の眩しさに心が折れる。

てっきり人間族の服屋さんと同じような配置にあるかなと思ったけれど、全くみつからない。お洒落エリアには見えるけど、装飾品とか身の回りの商品ばっかりだ。

服はまた別のエリアにあるらしい。ここは覚悟を決めてお店の人にでも聞いてみようかなと、私は人の良さそうな店員さんのいるお店を探して見回




「へー、人間族ってこんなとこにも居んのかよ」




タン、と。

突然私の目の前に影が止まった。見回す為に足を止めてたから良いけれど、そうじゃなかったらぶつかっていたほど眼前だ。

真っ直ぐ顔を向けている時点では、相手の胸元しか目に入らない。取り敢えず声とそこで男の人だなということだけ理解する。

なんとも軽い口ぶりにこれは絶対嫌なヤツだなと顔を見る前から確信し、顎を上げる。

背後でサウロがカチャリと斧に手をかける音やルベンが唸りが聞こえる中で、私は二人の握った手のまま一歩下がった。


少し距離を置いて顔を見上げれば、嫌でも目がチカチカする。長くて尖った耳と整った顔にモデル体型。そして彼ら特有のお洒落ファッション。間違いなくエルフだ。胸に片手を当てている仕草も合わさってパッと見は執事にでも良そうな雰囲気だった。服装も第二ボタンまで開けたワイシャツにズボンとシンプルな装いが余計に好青年感がある。首にかかっている金色の派手なペンダントだけがちょっとチャラい。

にっこりとさわやかスマイルを浮かべている彼は、さっきの発言後は口を閉じている。だから余計にさっきの台詞は聞き違いか他の雑踏からかなと思えてくる。

どっちかというと「お嬢様お茶でもいかがでしょうか」と言いそうな顔だ。ええと、とそれでも金色の目を私からにっこり外さないエルフに戸惑っていると、ゆっくりとその口が開かれた。


「うわー、すげぇ不細工。アンタこんなのよく連れてるなぁー、ペット?従者??ていうか絶対愛玩用だろー。あ、ペットとは違う意味な?いくら田舎モンでもそれぐらいの意味はわかるよな?でもそうだったらそれで趣味悪過ぎじゃね?人のペットにとやかく言う権利はねぇけど人間族はおすすめしねぇぞ?悪い事言わねぇから今のうち変えとけって。なんならもっと良い奴隷安く紹介してやるよ人間族の女なんて餌やる価値もねぇ馬鹿ばっかだぜ?大体俺らエルフのツラみればヘラヘラする馬鹿ばっかだしよー。ほら今も何言われてるかわかってねぇからこの間抜けツラ。絶対褒めてると思ってるぞコイツ?褒めてねーからなクソミソに馬鹿にしてるからな??見る目ねぇぜマジアンタ」


……全部聞き取れてますけど。

にっこりと綺麗な笑顔からすっごく汚い言葉が発せられる。まさかの言葉がわからないと思っての絡みだ。

確かに何言ってるかわからなかったら、本当に「初めまして。この辺ではみない顔ですね。旅行者ですか」とか何とか言ってくれていると勘違いしかねない。

実際、マシンガントークをするエルフを前に、ルベンもサウロも「なんだこいつ?」「ソー、彼は何を言っている」と警戒する素振りすらない。


多分エルフの方は私ではなくてサウロを同族だと勘違いして言っているのだろう。

あまりの口の動かしようにサウロがエルフ語を話していないのにも気付いていない。というか絶対誰の話も聞くつもりないこの人。なんか凄く面倒なキャッチに掴まったような気分にまでテンションががっくり落ちる。


大体、仰るこの間抜け顔も褒められていると思っているんじゃなくて、急に悪口を言い出したことに驚いているだけだし。ていうか、仮に私に伝わってないとしてもこの発言絶対サウロにも失礼でしょ。

サウロが何も言わないことを良いことに、ぺらぺらこけ降ろしてくるエルフにいらっとする。こういう残念な人、日本にも海外にも一人はいた。向こうが言葉通じないとわかってわざと本人の前で嫌な言葉や悪口の往来をしてくる人。私も海外研修中に屋台のおばさんにもやられたことがある。こういう時は……

「ご主人チャマ~とか縋ってくるのかもしれねぇけど、絶対こいつらエルフだったら何でも良いと思ってるぜ?何なら賭けるか?一晩俺に貸して見ろよ。確実に明日の朝には俺にベタベタして尻振ってやがるから」



「『一晩だろうが二晩だろうが貴方なんかこっちからお断りです!!』」



貼られた笑顔を真っ直ぐ睨み返し、相手の鼓膜を破る勢いで声を張り上げる。

その途端、さっきまで流暢だったエルフの口がぽかりと開いて固まった。まさかエルフ語で言い換えされるとは思わなかったのだろう。こういう人は反撃されたら大概こうだ。

金色の目を丸くしたまま固まる彼に、私は自分から鼻を近付け上目のまま睨みあげてやる。黙っている内にこっちからの反撃だ。


「『人の美醜についてとよかく言う暇があるなら自分の性格の汚さを先に見直した方が良いんじゃないですか?大体私に通じなくても、彼に対しても確実にその発言は失礼です。サウロが本気になったら貴方なんて三秒もしないうちにペシャンコなんだから!見ず知らずの相手のパートナーを侮辱した上に言葉も最低。私達人間族の女性が馬鹿なら、人の外見でしか計れない貴方も大馬鹿です。大体、私の目から見れば貴方なんて他のエルフと美醜で言ったら大して変わらない普通顔だし!そんな普通の顔でよくそんな偉そうな口が叩けますね?感心します。ついでにこれは悪口ですが、貴方の頭でも理解できれば幸いですそれではさようなら!!』」

フン!!と一気に言いたい言葉でまくし立ててやってから鼻息を吐く。

目玉が落ちるほどに丸く見開いたエルフは、茫然としたまま何も言わない。私よりもよっぽど間抜けな顔をしている彼に背中を向けて、「行こっ」とサウロの手を引く。

ぐっと強めに引っ張って、エルフが言い負かされている間にこの場を去ろうと、……したのだけれど。


「?……あれ?サウロ??」

ぐぐっと引っ張ってもサウロが動かない。

ちょっと待ってここはさっさと退場しないと格好もつかないし、何よりも逆上して面倒になる可能性も!!

せっかくスッキリした筈の胸の内がまたヒヤヒヤと滑っていく。もしかしてサウロもあまりの私の口の強さに驚いちゃったのかなーと思って振り向けば、……瞬足で胃の中が縮んだ。

いつの間にか背中のケースから斧を出したサウロが、悪口エルフに斧を突きつけていた。

肩の上では、ルベンがグルルルルッとさっきとは打って変わって凄まじい呻りで歯を剥いている。ちょっと待ってどうしたいきなり?!

あまりの豹変ぶりにエルフもピシリと固まっている。目が今は私じゃなくて真っ直ぐと首に突きつけられた刃に向いていた。若干顔色が悪くなって血の気が引いているのがわかる。


「ちょっ、ちょっとサウロ?!ルベン?!」

「この男がお前を侮辱したのか。ソー、こいつをどうすれば良い?」

いや何もしなくて良いから!!

心の中でそう叫んだ直後、言葉でもそう訴える。ルビー色の瞳がギランッと光って完全にドラゴン狩る時よりも滾っている。私のことを悪く言ったのを怒ってくれているみたいだけど、ここで騒ぎを起こす方がまずいから!!


「サウロ!不可侵条約……ええと、取り敢えず異種族間での喧嘩は駄目なんでしょ!それ以上やったらサウロが捕まっちゃうよ!」

「ばーか。先に向こうが危害加えてきたら戦闘防衛だろ。こいつソーに変なことしてこようとしたんだし、有罪だろ有罪」

ルベンまで!!

あまりにも戦闘種族な二人に悲鳴が出そうになる。向こうは悪口でこっちはギロチンって過剰防衛だし!!

良いから!もう怒ってないから!と何度も二人に訴えながら両手でサウロの腕を引っ張る。

繰り返しの訴えになんとか落ち着いてくれたのか、静かに背中のケースに斧を再びしまってくれた。ほっと一息吐けば、次の瞬間にエルフが腰が抜けたようにズカッと尻餅をついて崩れた。まぁ、いきなりあんな大型刃物突きつけられればそうなる。

鋭くした眼でエルフを見下ろすサウロと、べーっと舌を出すルベンはそこまで見てやっと私の方を向いた。いつのまにか周囲のエルフも歩きながらちらちらこっち見ているし、このまま騒ぎになる前に逃げようと思ったけど、完全に威勢を折られたエルフにふとちょうど良いことを思い出す。


「『あ、ちょっと』」

サウロの手を引いたままもう一度エルフに歩み寄る。

見開いた目で私を映した彼に私は去り際の挨拶代わりに尋ねる。


「『オーダーメイドとか服を売ってる店はどこ?』」

もう敬語にはせず、若干答えろと命令系にも聞こえるように強めに尋ねればエルフは、急に媚を売るような笑顔と早口でこの先の大通りを二個左に抜けたエリアの店を教えてくれた。

どうも、と軽くだけお礼を伝え、最後は高身長の彼を立ったままの私で見下ろした。ルベンに倣ってあっかんべーでもしてやろうかと思ったけど、もう充分に脅した彼に私は今度こそサウロ達と一緒に背中を向けた。


結局、エルフでも人間でも異種族でも善人も反対もいるのだと改めて学んだ。


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◆◇コミカライズ連載中!◇◆


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