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バベルの翻訳家〜就活生は異世界で出会ったモフモフと仕事探しの旅を満喫中!〜  作者: 天壱
Ⅳ.着地

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支払い、


「サウロもこれでどうかな?匂いとか気になるのあったら止めとくけど」

「問題ない。……むしろ、落ち着く……」

「すげー格好良い!!もうこれしかねぇだろ!!」


まるで自分の物のように背中に背負ったままベルトを握るサウロは、もう馴染んだのか今は柔らかな表情だった。昔の仲間の匂いがするのが逆に良いのかもしれない。久々の同族の匂いだし。

ルベンも目をキラッキラさせてベルトが掛かっているのと反対の肩の上で拳を握っていた。武器を装備されている感が出たサウロは本当に戦士みたいで格好良いから興奮する気持ちはわかる。


「やっぱり大丈夫みたいです。あと、さっきのクロスボウもちょっと見せてもらっていいですか?彼に合うのがあれば是非」

サウロの買い物が決まったところで、今度はルベンの買い物を引き続きお願いしてみる。

振り返ってみると、おじさんは目を丸くして私を見ていた。よく考えると、突然異種族に話しかけちゃったから正気を疑われたのかもしれない。しかも普通に「大丈夫みたい」と通訳してしまった。

丸い目が寡黙な口以上に色々言いたがっていたおじさんに諦めて「私のスキルなんです」と一言答えると、目だけじゃなく口まで顎ごと外れてしまった。わかってはいたけど、天下の城下も翻訳スキルは知られていない。


そのままポカンとしたまま足だけを動かすおじさんの背中に続いて、今度はクロスボウを見に行く。サウロはもう大分気に入ったのか、お買い上げ決定のそれに剣を差したまま続いた。

後戻りしおじさんがクロスボウエリアに近付けば、ルベンが我慢できないように駆け出した。私の横を走り抜け、おじさんのすぐ背後から覗くようにして商品棚を眺める。

おじさんが「この獣人族のに合いそうなのは……」とルベンを凝視しながら思案する間に、本人は早速手を伸ばしてしまった。


「あっこれ!これかっけぇ‼︎」

「あーそれは無理だな。大きさが違い過ぎる。もっと小さいのじゃないとサイズが合わない」

「あとこれとか‼︎ソー!これ買ってくれよ!」

「おぉ、それなら確かに身に付けられるな。ただ、装着には時間が……」


……すごい。会話が噛み合っている。

ルベンの身振りや手に取った様子だけで説明してくれるおじさんは、やっぱりプロだなと思う。大きさ関わらず、デザイン重視で目移りしまくるルベンに私はおじさんの説明を通訳して伝える。

取り敢えずルベンが扱えそうなのは、山の中でも七つまでで、その中でも一番デザインが気に入ったのはルベンの装着に時間がかかる。

最終的には二番目に気に入ったデザインで尚且つ機能性も高いのをお買い上げすることに決まった。

前のクロスボウよりも装着が簡単で、三本まで補填することができる。一度に三発は射てないけど、連続で三発射てることはルベンもかなり喜んでいた。


「お嬢ちゃんは良いのか?ペットやお付きにばかり武器持たせないでアンタも何か護身用に一つ」

「あ、いえ、私は……。二人が居てくれれば充分心強いですから」


手近な棚に並べられた拳銃を進めてくれるおじさんに、そこは控えめに断る。

銃刀法がある日本で生きてきた私には残念ながら武器を持つ習慣は全く無い。銃の撃ち方がわからないどころか、そういうのを持つだけで落ち着かない。

ルベンとサウロはいつも一緒だし、二人が武器装備してるなら私まで持つ必要はないかなと甘いことを考えさせてもらう。代わりに武器代は全部私持ちだからそれで許して欲しい。


そうかい、とすんなり引いてくれるおじさんに会釈で返しながら店の受付へと戻る。

前方では意気揚々と新しいクロスボウを早くもバックにいれるルベンがいた。まだ買う前なのにとは思うけど、どうせおじさんも買うこと決めたのは知ってるし良いかと思い直す。前の世界だとレジを通す前に鞄の中にいれるなんて万引き扱いだけど。


「斧ケース一点と、小型獣人用クロスボウ一点……と。付き人やペット用の武器を買う客なんて稀だから在庫が減って助かったよ」

斧の方は中古だから安くしといてやる、と受付に座り直しながら言ってくれるおじさんに苦笑で返す。

言わないまでも付き人とペットということになっている。でも、お互い買いたいものと売りたいものが一致したなら円満ということで良いのかなと思う。

そろばんで合計金額を弾き出すおじさんが紙に流し書きした数字を確認しながら、私はリュックの中を探る。サウロの肩に登り直したルベンが気になるようにテーブルの上にあるその紙を覗き込めば、次の瞬間には「うげ?!」と声が上がった。


「こんな馬鹿高いのかよ!?ソー!この店ぼったくりじゃねぇのか?!」

「この数字はそんなに高いものなのか……?

値段にドン引きしているルベンにサウロが訝しげな声を漏らす。

そういえばこの世界って数字はちゃんと共通なんだった。山暮らしのサウロはともかく、街生活のルベンはきっかり値段の意味がわかるらしい。

確かになかなかの良いお値段だけど、武器って結構これぐらいが相応なんじゃないの?と思う。前の世界でも銃とか刀ってすごい高価だったし、二つとも専用武具だったらこれくらい当然だろう。

サウロの肩で「ぼったくり!!」と叫ぶルベンにおじさんが「何か文句でもあるのか?」と眉を寄せて覗き込んできた。本当にこの人ルベンの言葉わかるんじゃないのと思ってしまう。

私から首を全力で横に振って、文句がないことを早々に示す。


「買います!買います!!ちなみにこういうお店って貨幣じゃなくて宝石とかでも支払いはありですか?」

「価値さえわかれば別に構わないが。なんだ、お嬢ちゃん金は持ってないのか」

いや、ある。あるけど、ここで金貨銀貨を使うと、早速手持ちの貨幣が殆どなくなってしまう。また宿に取りに行くのは面倒だし、できれば宝石類で支払いを済ましちゃいたい。


リュックの中から敷き詰まっている服を手で押しのけ、宝石の方の袋を取り出す。昨日、換金所で大量に買えて貰った宝石だ。

ルベンのチェックも入ったし、全部ちゃんと本物の筈。袋の口を開いて、テーブルに一粒ずつ並べて見せる。正直細かい価値なんてわからないけれど、取り敢えず大粒目の宝石と同じような小粒の宝石いくつか。価値の低めの宝石だし、そんなに大量に出さなくても良いはず。

そう思って、五粒程度で宝石を並べる手を止めると、おじさんは注意深く一つ一つ確認してから「まぁ良いだろう」と頷いてくれた。

上目で私を覗きながら「釣りは良いんだな」と尋ねられたから、押されるままに頷いてしまう。ちょっと高く払いすぎたかもしれない。でも物々交換して貰うのだし、それくらいは仕方ない。


「まいどあり。また買いたい武器があったらうちの店で頼むよ」

宝石五粒を手早く回収したおじさんは、座ったまま軽く手を振ってくれた。無事交渉成立だ。

ありがとうございます、と私からも頭を下げてから、リュックを背負い直して店を出る。後に続くルベンとソーも、値段はびっくりしていたけど今は何も言わなかった。取り敢えず買えたからかもう文句はないようだ。

お店の扉を閉めてから大きく伸びをする私は晴れ晴れとした気分で二人に投げかける。


「良かったねー二人とも良い物見つかって!これで安心して服買いにいけるし!」

もう門前払いされる心配もない!お陰で今はその安心感で身体も軽く感じる。

お店も獣人族とエルフのエリアに行けば買えるって行ってたし、早速このまま向かっちゃおう。

ぐぐぐっと背中を思い切り反らすように伸びをして、返事のない二人に振り返る。今は私の発言より新調した武器の方で頭がいっぱいなのかなと思


「……ソー……。ルベン、あんなの払える金ねぇぞ」

「そんなに高価な物だったのか…………?」


まさかの、二人のテンション急転直下。


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