食べ合い、
「サウロは?何が一番美味しかった??」
「この中で言えば、……これか、これか、……これも美味かった」
「あ!ルベンもそれ美味かったぞ!!特にやっぱそれ!」
「嗚呼、これは本当に美味かった。今までも鳥や猪や熊や異種族以外なら何でも食べたが……これは、特に」
お肉談義は完全に意気投合している。……ていうか、オークも猪は食べるんだ。
サウロも心なしか少し言葉数が増えている気がする。指を指して教えてくれたお肉は鳥の唐揚げとか、トンカツとか肉の種類自体は幅広かったけどやっぱりどれも肉の塊系料理だ。
そして二人が一番美味しいと言ってくれたのが、やっぱり一番良いお値段のした牛串。……二人とも初めて食べたわりには高いものを選ぶとか、実は私より良い舌をしてるんじゃないかと思う。確かにこの牛串すっごい美味しいけどさ。
今度頃合いを見てサイラスさんも誘ってステーキとか食べに行くのも良いかもしれない。極厚ステーキとか出したら皆凄く良い反応してくれそう。
「だが、一番美味いと感じたのは……」
いつもよりすぐにルベンへ応答してくれるサウロが、一度そこで口を閉じた。
さっきまで二人のお肉談義を横で聞いていた私をテーブル越しにじっと目を向けてくる。チラッとルビー色の目を光らせる彼に、一瞬だけ肩が上下する。まさかこの期に及んで私が一番美味しそうとか言わないよね??
異種族は食べたことないっていってたし。いやでもそういえば良い匂いって言われたこともあったような……。
意味深なサウロの眼差しに私の危機管理能力が猛働きする。
ルベンも途中で言葉を切られたことに「なんだ??」と続きを促した。食べこぼしのついた長い鼻をサウロに向け、次に彼の視線が注がれた私へと向ける。お願いだからここで私が巨大な牛串に見えたとかやめて欲しい。
すると、おもむろにサウロが椅子から腰を上げて浮かせた。突然襲いかかってくるわけじゃなく、ゆっくりとした動作だったけど大きな身体のサウロだとそのまま前のめりになるだけで首がにゅっと正面に座る私まで伸びてくる。
思わず鳴らした喉を反らしてしまうけど、その間もじっと赤く光る瞳から目が反らせない。お願いだから何か言って!と思いながら蛇に睨まれた蛙気分を味わっていると
パックンと。
……一口で、食べられた。私の手に握られた牛串が。
さっきまで一口しか口につけずにいた牛串にめがけて首を伸ばしたサウロは、逃がさないように握る私の手に片手を添えた。そのまま大きな口を開くとパックンと上手に串だけ残して残りのお肉を頬張ってしまった。
間近で私の顔よりも低い位置にサウロの顔が下がり、短く切った髪が垂れ、男性なのに長い睫の本数まではっきり見えてしまった。
反射的に驚いて私が手を引いてしまいそうになると、添えていたサウロの手がぐっと指の力だけで押し止めた。口を開いてから食べきるまですぐだったけど、何故かすごくゆっくりに感じてしまった。
綺麗に食べ終え、やっぱりすぐに喉に通してしまったサウロはまたゆっくりと顔を上げた。「嗚呼……」と低く呟く声が妙に艶っぽく聞こえてしまう。
「……やはりお前の手で食べる方が、……ずっと、美味い」
そう言って嬉しそうに頬を綻ばせたサウロは、間違いなく柔らかな笑顔だった。
ルビーの目が溶けていると言っても過言じゃないくらいに緩んで、にっこりと下からのアングルに笑い掛けてくるから凄く心臓に悪い。バクバクと急に血の巡りが良くなって内側から心臓が蹴り上げてくる。
サウロにあーんしてあげたことは何度もあるし、気にしなかったのに急にもの凄く恥ずかしいことをやっていたような気分になる。しかも私の食べかけだし!!
すぐには言葉が出ず、唇に力をいれて引き絞る。この美男子顔やっぱりなかなか困ったものかもしれない。確実にこの子天然でやってるし!!
最後にまた串までポリポリと私の手から直接食べきった彼は、代わりを返すようにテーブルから新しい牛串を私に差し出してきた。
いやもうお腹も胸もいっぱいです、という言葉を許さないくらいに緩みきった顔に今だけはイエスマンになって受け取った。この幸せそうな笑顔に却下できる人がいるなら見てみたい。
「共に美味いと言えることは、……嬉しいな」
静かな声で語るサウロはちょっとだけ最後に抑揚が出た。
フフッ、とちょっと笑ったようにも聞こえる声を漏らしたサウロはまた料理に手をつけた。微笑んでいた口が大きく開けば、ちらりと牙も見えた。がぶりと大肉を軽く囓りきれば、今度は丸呑みせずにちょっと味わうように租借した。
目を閉じ、しっかりと味わうように租借する姿はそれだけみるとレストランでの食事風景に見えてしまう。美男子はこれだからずるい。実際は素手で齧り付いているだけなのに。
「……やはり、違う」
さっきより味わった後に見えたのに、それでもちょっとだけ楽しそうに呟くサウロは料理に顔ごと視線を落とした。
そのまま目だけでちらっと私を見るサウロの瞳が意味深に映ってしまう。もしかしてまた食べさせて欲しいってことかな。
なんかちょっとむず痒い感じがした直後だから少し悩んでしまう。すると
「ほらサウロ!食うか??」
ルベンが思いついたように手近な串焼きをサウロに突き出した。え、ずるい、私もまだルベンからあーんなんてして貰ったことないのに。
ちょっと場違いなことを思いながらそれを見ると、サウロも頷いて口を開いた。ルベンにどうぞされた途端、大きく開いた目が嬉しそうにまた緩んで、パクンと一口でまた刺さっているお肉を咥えて串から抜ききった。
もぐもぐと租借している間にルベンが「うまいか??」と目をきらきらさせて尋ねると、サウロも口を閉じたままコックリと頷いた。
なんだか男子二人で凄く打ち解けた感が伝わってくる。ルベンもサウロが食べてくれて嬉しそうだし、サウロも自分で食べる何倍もやっぱり美味しそうだ。
その様子に、つまりは自分の手じゃなくて人の手で食べさせて貰う方が嬉しいことかと納得する。頭洗うのを手伝って欲しいとか、頭を撫でて欲しいとか、食べさせて欲しいとか、やっぱりサウロって意外と子どもっぽいなと思う。それも含めて可愛いけど。
やっぱり他者と関わったことが少ないから、こういう関わり一つ一つが楽しいんだな。
「ルベンも、こっちの方が好き?」
ふと、以前のことを思い出して思いつくままルベンに投げかける。
三人で初めて川に入った時、ルベンがサウロと同じように自分もやってもらったことないから洗いあいっこしたいと話していたことを思い出した。それならもしかして、食べるのもサウロと一緒で私とかサウロからの方が嬉しいかなと思う。
試しにテーブルからアップルパイをもう一切れ持って差し出しながら尋ねてみた。その途端、こっちを向いたルベンは返事の前にバクンバクンとパイの方をあっという間に完食する。
「んー……ルベンはどっちも一緒だな。けど、サウロやソーからのもんなら食ってやっても良い。他の奴らからは出されても滅多に食わねぇけど」
「?なんで??」
「毒入ってるかもしんねぇだろ」
さらっと。
何とも言えないことを当然のように言うルベンさん。今まで毒入り食べさせられたことあるのとか、鼻が良いからわかるんじゃないのとか言いたいことはあったけど、あまりにあっけらかんと言われて突っ込めなくなる。
ていうか今まで私があげたのはわりとすんなり食べるからそこまで警戒心がしっかりしているの気付かなかった。
つまりはそれだけ私やサウロのことは信用してくれてるのかなと思うとちょっと頬が緩んでしまう。
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