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バベルの翻訳家〜就活生は異世界で出会ったモフモフと仕事探しの旅を満喫中!〜  作者: 天壱
Ⅳ.着地

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26.移住者は買い食いし、


「サウロは何か食べたいものとかある?」


好きなものとか、と。私は軽く振り返りながら投げかける。

無事換金を終えた私達はとうとう少し遅い朝食へと、出店の多い大通りを通ることになった。本当はカフェとかお店に入っても良かったんだけど、サウロとルベンが抱えてくれている大荷物でカフェはちょっと難しい。そして私の腹の虫がどうしても宿に一度荷物を置きに行くまでを待ってくれなかった。

ぐーぐーと今も小さく呻くお腹を押さえながら、なんでも良いから先ず詰めたい。リュックに入れていたお菓子も置いて来ちゃったことを本気で後悔する。ルベンは甘いものかお肉を買えばいいとして、サウロも好きな食べ物があればと良いんだけど。


「何でも良い。……オークは基本何でも食べれる」

いやだから好みとか聞きたかったのに。

淡々と答えるサウロに、もしかしてあまり食に興味はないのかなと思う。旅中も全く希望がなかったし。

せっかくの城下町だし何かちゃんとした料理も食べさせたあげたい。あの部屋にキッチンがあったら私が料理しても良かったんだけど、……いやでもそしたら匂いがベッドにつくのはちょっと嫌。いつもは気にしないけど、折角の絢爛豪華な部屋が食べ物の匂いなのは色々と台無しな気がする。それならいっそサイラスさんと同じルームサービスを取ってみるのも良いかもしれない。

来た道をそのまま戻る形で大通りに入れば、とうとう食べ物のエリアに入った。ここだけみるとサンドラさんの街をなんだか思い出してしまう。もうあの街を出てひと月も経ったけど、サンドラさん元気かな。


「あ!ソー!ソー!!あれすっげー甘い匂いする!!」

重たい袋を持っているにも関わらず、飛び跳ねたルベンが指差す先はパン屋さんだった。

店頭販売専門の店なのか、お店の向こうからも酵母の香ばしい香りがする。特に一際存在を主張しているのが、今出来上がったばかりなのか店頭に剥き出しのまま積まれたシナモンロールだった。すっごい美味しそう!!

甘い香りが余計お腹の虫を刺激してくるし、一度この香りに気がついたら引き込まれるのは当然だった。シナモンロールに一度も目が離せないまま近付けば、お店のおばさんが次々とパンを紹介しながら勧めてくる。

こっちも焼きたてとか、こっちはサンドイッチとか、こっちは一番人気とか。あまりに美味しそうなラインナップに、取り敢えずシナモンロールを始めに目に付いたものを数も気にせず買ってしまった。どうせ数日滞在するし、まだ朝ご飯だし、三人でわければすぐに食べきれるだろうと楽観的に考える。


取り敢えずはルベンと私が一目惚れしたシナモンロールにかぶり付く。

表面の溶けた砂糖がまだ固まりきってなくて、しんめりとパン生地に湿った感覚とシナモンと砂糖のジャリッと感が堪らなく美味しい。ルベンもモフモフの手がべたつくのも気にせずに、大口でがぶりと一回で半分以上を口に頬張ってしまった。

次の瞬間には初めての味と贅沢な甘さに青色の目がきらっと光った。「うっっま!!」と正直に叫んでしまうくらいには大好評だ。


「サウロ!サウロも口開いて!ほら、あーん!」

一口、二口と頬張ってお腹を落ち着かせてから、歩き食いをしていた私はサウロに振り返る。両手が開いている私や片手が開いているルベンと違って両手が荷物と私物で埋まっているサウロは両手が使えない。

サウロの分の一個、私の手ひらよりも大きなシナモンロールを一口サイズにちぎり、サウロの口に近づける。最初は赤い目を大きく見開いたサウロだけど、私の合図に合わせて口を怖々と開いてくれた。


「あーん……?」

わざわざ口で言ってしまうのが、子どもみたいで可愛い。そのままシナモンロールをぽいっとサウロの口に放り込めば、バクンとすぐに閉ざされた。

ルベンと同じようにサウロも菓子パンなんて初めての筈だからと反応をわくわく待っていれば、閉じた口に反して目がどんどんと丸くなっていった。

感想は??とわくわく待ちながら見つめていると、殆ど噛む様子もなくすぐにサウロの白い喉仏が上下した。こんな丸呑みじゃ表面の砂糖化粧以外丸呑みでわかんなかったかもしれない。

「どうだった?」と尋ねる私にサウロが最初に告げた感想は



「……やわらかい」



……まさかの。味ではなく食感だった。

でも、かなり本人的にはびっくりだったらしく言葉にした後も何度も大きく瞬きを繰り返していた。味的にはどうだったのかなと思っても、本人はそれが一番頭に残ってしまったのか甘いの感想は最後までなかった。


「もう一口どう?」

シナモンロールを口の近くにちょっと近づけてみたら、今度は千切る必要もなく直接かぶりついてきた。

予想外に大口でガプッと残り殆どを口の中に頬張っちゃったサウロに、改めてオークだったんだなと思い出す。もう私の手のひらには子ども一口分のサイズくらいしか残っていない。

口を開けた瞬間の鋭い牙がキラッと光るのが見えて、ぺろりと平らげちゃったサウロにいっそ感心してしまう。しかもその大口すらゴクンとやっぱり味わう暇もないくらいすぐに喉に通してしまった。

最後にはもうちょっぴりしか残っていないそれを食べようとまた口を開けるサウロに、私からぽいっと放り込めばもう完食だ。

喉を通した後にぺろりと口の周りを自分の舌で舐め取るサウロの仕草が妙に色っぽい。


「……美味しい?」

「柔らかい。……こんな食べ物もあったのだな」

だから味の感想が聞きたいんだってば!!

けど、完食してくれたということは一応気に入ってはくれたんだなと思う。じっと無言で私が抱えているパンの山々を見る様子から、まだ他のも食べてみたいらしい。スタートから美味しいパン屋さんに当たって良かった。


「おいソー!それ食わねぇならルベンにくれよ!なんか食ったら腹減ってきた!」

サウロだけじゃなく食べきったルベンまで私のパンをロックオンしてる。

しかもサウロに食べさせてあげている間にパンの山に紛れさせていた私の分のシナモンロールをどうやら狙っているらしい。いや流石にこれは駄目。まだ一口二口しか囓っていない上に私だって食べたいし。

代わりにパンの山からまた甘そうな菓子パンを取ってルベンに渡す。シナモンじゃなかったことにちょっとだけつまらなそうだったけど、そのパンも囓ったら気に入ってくれた。

次にサウロには甘いもの以外も試してみたくなって、サンドイッチを差し出してみる。フランスパンにベーコンや野菜が挟まっているがっつり系サンドイッチだ。これなら柔らかい以外の感想も聞けるかなとちょっと期待してみる。

また私の手から直接大口を開けたサウロは、今度はバクン、バクンと連続して二口で綺麗に食べきってしまった。惚れ惚れする食べっぷりだ。


「……どう?」

「……柔らかい」

「今のも?!」

思わず今度は声に上げてしまう。わりと固めのパンだった筈なのに!!どんだけサウロの歯と顎って超合金製なんだろう。

うっかり大声を上げてしまった所為で周囲の人達に凝視されてしまった。彼らからすれば異種族相手に一人で騒いでいるだけの不審者だ。いやでも、元の世界でもペット相手に話してる人はいたし。……あ、駄目だ。むしろそれと同じ眼差しを受けてる気がする。あれはあれでちょっとペット飼っていない人には理解不能な眼差しされる場合があったなと思い出す。しかもこっちは実際に二人の話すこと全部わかっている。


「おいソー!もう一個」

「私も……」

「ッちょっと待って私まだ続き食べてないんだから!!」

二人とも食べるの早すぎ!!

まだ私は一個目すら途中なのに二人ともぺろりと平らげてしまう。もぉぉお!!ともうお構いなしに声を上げながら、今度こそ自分のパンにかぶりつく。

がぶっがぶんっと連続で噛みきっては飲み込むを繰り返してとうとう食べきった。やっぱり凄く美味しい。ルベンじゃないけど、回れ右をしてもう一度シナモンロールをおかわりしたいくらいだ。

わりとボリュームもついでに糖分もがっつりある菓子パン一個でお腹が落ち着いた私は、一番食べやすそうなホットドックを囓りながら再び二人にパンを配給していった。気分はもうわんこそばだ。気がつけばパン屋さんのシナモンの香りがしなくなるよりも先に両手いっぱいのパンもなくなってしまった。九割以上食べきったのはルベンとサウロだ。

手が空になった私は口にくわえていたホットドックを手で持ち直しながら呆れてしまう。もうちょっと味わって食べてよと言ったけど、二人の返答は「味わった」だ。……あんなフードファイターみたいに食べて、味わったもなにも。


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