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バベルの翻訳家〜就活生は異世界で出会ったモフモフと仕事探しの旅を満喫中!〜  作者: 天壱
Ⅳ.着地

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そして一息吐く。


「ソー!サウロー!もう荷物それで終わりかー?」


ペンションから荷物を置いてきたルベンが、軽い足取りでこっちに戻ってくる。

数メートル向こうにはサイラスさんも続いていて、偶然にも「ソーちゃん、そのへんの荷物で最後だな?」と確認してきた。

手前に積み上げた荷袋五つ。これで荷運びは終わりだ。私がそう答えると、のっそりとサウロが動き出した。


「……………………。降りて良いんだな」

「えっあっ!うん!」

荷袋一つ一つはわりと重いけど、四人で運べば一度で済むと思ったところをサウロが荷袋の紐を掴んで片手で一度に五つ持ってくれた。

更に反対の手で軽々と斧を抱え、ストンと軽々と両手荷物のまま馬車から降りた。超重量が一気になくなったことで、馬車の荷台が私ごと一度傾いた。

サウロの力持ちっぷりに感嘆の声を上げたサイラスさんは軽く拍手をするように手を叩くと、そのままサウロを横切って運転席に向かった。


「じゃあ俺は馬に餌やってから休むから、ソーちゃん達は先に部屋に行っててくれ。狐が荷物置いた場所はわかるだろ」

俺が運ぶもんはもう無いからな、と言われ、改めてサウロが持ってくれる荷物を見る。確かにサウロが抱えている荷袋も全部私の私物だ。

もう運ぶ物はないサイラスさんはそのまま運転席に消えると「荷台を閉じてくれ」と声だけを投げてきた。その声に押されるように私も急いで降り、両手で勢いづけながら荷台の扉を閉じた。

のっそのっそとゆっくり小屋まで移動していく馬車を少し眺めた後「先行って良いって」と私は二人に向き直った。


ルベンに荷物を置いた所を案内してもらうようにお願いして、私達は一足先に自室へと向かう。

ペンションの入り口からもうサウロの身長では無理のある大きさだった。人間の中でも長身ではない私ですら少し頭を屈ませないといけない。先頭を行くルベン、私に続いてサウロが潜るような形で室内に入る。

ペンションの中自体は、天井が上の階までで吹き抜けで全く問題がなかった。

受付に立っていたお姉さんがルベンを見て「狐さんの飼い主の方ですね?」と笑顔で二階へどうぞと階段まで案内してくれた。背後に続くサウロの登場には目を丸くしていたけれど、ルベンを一発で狐ってわかるなんてと一瞬だけ感動した。けれど、多分サイラスさんが荷物運び中にルベンのことを「狐」って呼んだからわかったんだろうなとすぐに思い直す。……まぁそうじゃなくてもサンドラさん達も皆ルベンのことは狐って呼んでたし、狐族を見たことがある人ならわかるのかもしれない。ルベンも他の同種族と違うのは色だけっぽいし。


お姉さんの案内も無視してスタコラと階段を上っていくルベンに続き、私はお礼を返して後に続く。

お姉さんはにこやかに返事をしてくれた後、じっと上目で私の背後を見つめた。ちょっと目の奥がきらっとしているように見えたお姉さんに、多分サウロが気になっているのかなと思う。やっぱり人間族にとってサウロは美男子だ。

しかも私はもう見慣れたけれど、上半身は見事に肌を露出しているから余計に心臓に悪いんだろう。


サウロもこのお姉さんのきらきら目線で少しはサイラスさん以外の人でも自分を怖がったりはしないとわかるかなと振り返れば、……目すら向けていない。もう頭をぶつける心配もない天井の下で首を窄めて、顔の筋肉にも少し力が入っているようだった。やっぱり目を合わせる会わせない以前にサウロには人間族は苦手な分類なのかもしれない。


「?ソーどうかしたか」

「!ううん、なんでも」

振り返った先の私にはばっちし目を合わせてくれるサウロに首を振り、早足で階段を上る。

ルベンに「おせぇぞ!」と怒られながら登りきれば、私達の部屋は階段を上ってすぐ正面の部屋だった。

ルベン曰く、隣の部屋がサイラスさんのお部屋らしい。こっちはもう扉が閉じられている。私の部屋の方は荷物運び中だったから不用心に開けっ放しにされていて、ちょっとヒヤッとした。今回は所持金をがっつり持ち込んでいるから泥棒に入られると大損どころか路頭に迷う。

扉だけはちょっと低い入り口を潜り、部屋の中を確認した私は大口を開けて見回した。


「広ーーーーーい!!」

感動だ。

二階だし、てっきりツインルームくらいの広さだと思ったら四人家族でも余裕があるくらいの広々とした部屋だった。

部屋を入ってすぐ横に馬車から運び込んだ荷物が積み上げられているけれど、それでも全然狭さを感じない。最近はずっと一人分の部屋かもしくは馬車の中で過ごしていたから感動がひとしおだ。

しかも壁際に置かれたベッド一台の隣には、並ぶように敷き布団代わりにもなりそうなマットが引いてある。カーペットも引いてあるのに珍しい配置だなと思えば、ルベンが「荷物運び初めてから宿の連中が引いていった」と教えてくれた。多分サイラスさんが何らかの交渉をしてくれたんだろう。

これならサウロも固い床で寝ないで済む。大の字になっても全然楽に寝れる広さは、多分人間用のマット六枚くらい並べたんだろうと思う。お陰でちょっと足の踏み場だけは制限されるけど全く問題ない。

扉の内鍵を閉め、横に掛けてある鍵を確保した私は先ず部屋の設備を確認するべく奥へと進む。


「ほら、サウロもちゃんと寝れるようにしてくれてる!これでゆっくり休めるね」

「…………寝る……?どこで寝れば良い?」

そこ!!と、マットの列を指させばさっきまで全く感動のなかったサウロの眉がピクンと上がった。

明らかにサウロ用の寝床でしょうが!と私は思うのだけどサウロにはそうじゃなかったらしい。もしかして何も言わなかったらこのマットを避けて寝るつもりだったんだろうか。

折角の宿屋さんとサイラスさんの気遣いが浮かばれない。


そう思っている間にもルベンが「すげー広いだろー!」と自慢げにサウロより先にマットにダイブした。

バフッと意外にも柔らかそうな音からなかなか寝心地は良さそうだ。もしかしたらと隣のベッドに私も勢いよく腰を下ろしてみたら同じような音がした。うん、たぶんベッド用のマットを並べてくれたんだろう。寝心地は間違いない。

すぐに立ち上がり、部屋の隅まで扉を開いて行けば、なんと今回はバストイレ付きの部屋だった。洗面所もあるし、サンドラさんのお家以来の豪華仕様だ。なにこれ最高過ぎる。


「サウロも荷物その辺で良いから休んで休んで!」

転がるルベンとはしゃぎ回る私を置いて未だに荷物すら降ろそうとせず佇むサウロに声を掛ける。

カーテンの閉め切られた窓を両手で開けば、二階にしてはなかなかに眺めの良い景色だった。

目下に人が行き交い、可愛らしいお店もチラホラ見える。人間族の居住範囲だからか殆どが人間だし、文字も全部人間語だったけど時々異種族っぽい背中も見えた。これなら白昼堂々ルベン達を連れ歩いても平気そうだ。


「サウロー!んな座り方じゃなくって転がってみろよー!すっげー気持ち良いぞ!」

楽しそうなルベンの声に振り返れば、もう自分の陣地だと言わんばかりに寝転がっている。

なんだか敷き布団っぽいし修学旅行にでも来たような気分だ。荷物と斧を他の荷物と一緒に床に降ろしたサウロが恐る恐るという形でマットの上に小さくなって座っていた。まるでこの先に罠でも張られているかのような反応だ。


でもサウロにとってはそもそもベッドの存在も私達と旅をしてから知ったし、前の山ではどんな風に寝ていたかは知らないけど逆に柔らかすぎて違和感があるのかもしれない。

本当ならシャワーでも浴びて着替えて埃のない状態で寝転ぶのが一番なんだけど、もうルベンが開拓しきっちゃっているし良いかと開き直る。窓から離れ、私もベッドではなくルベンの隣にダイブすれば、ボフッと気持ち良く受け止められた。

ちょっと期待より固くて顎を打ったけど、でもそのまま俯せ状態で顔を上げればサウロがまた珍しいものを見るように目を開いていた。

勝手に私とルベンで先取りしちゃったマットにそのままおいでとサウロを手招きすれば、ゆっくりとサウロも手を付いて俯せに足を伸ばした。控えめなバフンという音と一緒にサウロも私達と同じように転がる。

暫くは瞬きもしないで下敷きのマットを見つめていたサウロだけど、段々と落ち着いたのか肩で深く息を落とした。少し緊張がほぐれたサウロにルベンが笑顔で寝返りを打つ。私もごろんとサウロの向きへ寝返りを打ってみる。


「気持ち良いよね。今日は足を伸ばして寝れるよ」

「……嗚呼」

今まで小さく収納されていてくれたサウロが、今日からは良く眠れそうだと思うとそれだけで嬉しい。

返事をしてくれたサウロもやっと安心して寝れる実感が湧いたのか、ほのかに口元が緩んだ。

良かった、これなら今夜は落ちついて眠れそうだ。まだ午前だというのに今から寝るのが楽しみになってくる。

寧ろここで一眠りしちゃおうかと目を閉じかけた時、コンコンッとノックの音が飛び込んだ。

サイラスさんかと思って返事をしたけれど、扉越しの声はさっきの受付にいたお姉さんの声だ。


「サイラス様より、前金の徴収に窺いました。ソー様に全額請求するようにとのことでしたので」


……はい。そうでした。


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