23.移住者は荷運びし、
「うーん、まぁ城下なら狐もオークも付き人ってことで平気じゃないか?王都だし何とか通じるだろ」
宿の手続きを終えて迎えにきてくれた後、相談した私にサイラスさんは腕を組みながら答えてくれた。
王都になると異種族で行動を共にする人も珍しくはないらしい。寧ろ、異種族と一緒に暮らしたいが為に王都を目指す人はわりといると。流石は異種族共存国家。
「彼らと共存したいから王都にきました」と言い張れば、納得してくれる。ただルベンの場合、王都にも小柄な獣人族と一緒に過ごす異種族はいるけど、どうにもペットか奴隷か付き添いかの判断は難しいらしい。……まぁ、普通に犬や猫のペットだって〝家族〟扱いだし、そう考えるとルベンを指して「付き添いです!」と言っても簡単には正しい意味で通じない気はする。
「それにしても、何度みてもオークに見えねぇなぁ。ソーちゃん、本当にオークだと思い込んでいるエルフじゃないのか?」
馬車から荷物を降ろしながら、サイラスさんがしみじみと荷台で小さくなったままのサウロを眺めた。
初対面こそ真っ黒シルエットのサウロだったからそこまで気にしなかったサイラスさんだけど、川で水浴びを終えて真っ白になった後のサイロを見たら目をこぼれ落ちそうなほどまん丸にしていた。
「オーク……人間、いやエルフだろ!!」と絶叫していたから、本当にサウロはエルフ似なんだなと思う。耳や爪さえ尖っていなかったら人間族でも通ったとサイラスさんからのお墨付きだ。
でも、サウロは少なくとも子どもの頃は同種族のオークと普通に会話はできていたらしいし、異種族の言葉が通じないこの世界ではそれが何よりの証拠だと思う。私から改めてサウロをよろしくと紹介した後には「よくこんな二枚目拾って来たな……」となんだか凄く誤解を生みそうな言葉で感心された。
オークというよりもエルフに近いらしい見かけのサウロに、サイラスさんは結構早く馴染んでくれた。サウロ以外のオークをまだ私は知らないけど、少なくとも人間族に似た見かけのサウロはオークよりも気楽らしい。……そこまで言われると普通のオークがどんな見かけをしているのか凄く気になる。
基本的に荷台のサウロと運転席のサイラスさんは顔を合わさない。けれど、小休憩の時とか野宿で外で食事する時とかに顔を合わせてもサイラスさんが大して驚かなくなったことに、サウロの方が結構驚いていた。
サウロを見る度に「でかいな」「二枚目だな」「やっぱエルフだよな」と口遊むサイラスさんに視線を向けられる度「この人間は何を言っているんだ……?!」と若干引き、そして興味も持っていた。
何回確認しても、全く自分に怯えないどころか向かい合っても平然と食事をしているサイラスさんが信じられないらしい。そんなことを言ったら私とルベンだって普通にサウロと団欒囲っているのだけれど。それはそれでまた「お前は、違う」と言われたし。
まさかサウロまで私のことを変わり種扱いしていたとしたらちょっとへこむ。
「何度も言ってるじゃないですか。サウロは優しくて強くて大人しいオークです。むしろサウロからしたらサイラスさんの方が変人ですよ」
「変人かー。そりゃあまいったな」
いつもの切り返しにちょっぴり八つ当たりをいれてみたけど、サイラスさんは軽く笑って流してくれた。サウロを未だにエルフと疑うのは困るけど、やっぱり良い人だなと思う。
城下に無事到着してこれでお役御免のサイラスさんだけど、今回は色々……本当に色々大変な旅だったからちょっと長い滞在にするらしい。「サンドラちゃんにも様子見頼まれてるし」と言われたし、私がある程度目処がつくまでは見守ってくれるつもりみたいだ。
荷物を色々と降ろしてくれるサイラスさんに、私も微力ながら手伝う。といっても私は降ろす荷物を分別してルベンに任せるだけだ。
今回泊まるのは、人間族が経営しているちょっとお洒落なペンションだった。なんというか軽井沢の雰囲気を漂わせるおしゃれ感に、なんだかんだ都会だなぁと思う。
ルベンが「これ運べば良いのか?」と結構重い荷物も軽々とペンションの中に運んでは往復してくれる中、私とサウロは荷台でお留守番だ。
サウロが往復するにはペンションの扉がちょっと天井が低いということもあるけれど、何より人間族の平均身長を遥かに凌ぐサウロはここでも目立つ。ついでにサウロが居れば馬車を盗もうとする人も滅多に現れないし。
そして私は、……「荷物はいいからオークと一緒にいろ」とサイラスさんに待てを命じられた。ルベンもそれは同意見らしくて、結果としてルベンとサイラスさんばかりに重労働を任せることになってしまっている。
確かに私が離れる度にサウロはちょっと寂しそうになるし、毎回捨てられる子犬みたいな顔をするからわかるけど。私だけじゃなくサイラスさんにもそんな子ども扱いをされて良いのだろうか。
見かけ的にはサイラスさんの方がサウロより年上に見えるけど。
「…………変人」
「へ?」
荷台の中で馬車に置いていくものと部屋に運ぶものと仕分けする中、私の邪魔にならないように体育座りをしているサウロが小さく呟いた。
いま、変人って聞こえたけれど。もしかしてサウロにとって私も充分変人ということなのか。でも普通に荷物仕分けしていただけなのにどこがおかしかったのかと考えてしまう。
分からずにサウロの方を振り返って聞き返すと、首だけで頷いたサウロはまた言葉を続けた。
「お前は、……あの同種族の人間をそう呼ぶのだな……。私のことは、過剰にいつも褒めるというのに」
「?だってサウロ、いつもサイラスさんに引いてるし。それにサウロが優しいのも強いのも大人しいのも本当でしょ?」
ぼそぼそと一人言のように呟くサウロの言葉に私の方が首を傾げてしまう。
サウロには私の言葉はわかってもサイラスさんの言葉しかわからないから、余計気になったのかもしれない。もしかして同種族の悪口を言うのはどうかと思うとか怒られるのかなと後から思ったけど、そういったお説教は全くなかった。
膝を抱える手を組み直してからにわかに微笑むサウロの表情はむしろ柔らかい。小さく「そうか」と口が動いたけれど、声が至近距離じゃないと聞き取れないくらい小さかった。
さっきよりも何故かちょっと機嫌の良さそうになったサウロは、その後は私から視線を外してさっきと同じように床を見つめ続けた。そんなに木目が気になるのか、それとも下を見るのが癖なのか。なんか外から見たら私がサウロを虐めているように見えないかなと思う。
中身を確認した荷物を出しやすいように手前へ移動させながら、一歩下がる。次の荷物の近くへと移動したところでコツンと靴が何か硬い物に当たった。気がついて振り向くと、「あ」と一音が零れる。
「サウロ、これはどうする?部屋に持って行く??馬車でも良い??」
そう言いながら私が触れて見せたのは、サウロの唯一といって良い私物の斧だ。
巨大カミソリにしか見えないそれは、片手ではもちろんのこと私の腕力じゃ両手でも持ち上げられない。ルベンも一回挑戦したことがあるけど、全然駄目だった。ドラゴンの頭や狼も軽々と持ち上げたルベンが駄目なんだから私が持ち上げられる筈もない。当然サイラスさんにも無理だろう。下手すれば腰がグキッといってしまう。
ちょっと前までは荷台に居る時も肌身離さなかったサウロだけど、ここ最近は手放すことも増えてきていた。良くも悪くも馬車生活に慣れたお陰だと思う。売られる仔牛じゃないし、馬車が一番くつろげる場所にならない内に居場所を見つけてあげなきゃ。
「……持って行く。もしもの時にないと困る」
顔ごと向けてはっきりとそこは断言するサウロに、何と戦うつもりなのとちょっとだけ言いたくなる。ここは山でもないし。
まぁでも、サウロにとっては大事な物だろうから武器を持って歩いていれば従者とまでいかなくてもボディーガード感が出るかもしれない。少なくともペットには絶対思われない。
「じゃあ最後にサウロが運んでくれる?多分誰も持てないから」
こくり。と頷きだけで快諾してくれたサウロは、そこまでするとまたじっと体育座りで木目を見つめ出した。ルベンが運んでくれる私の私物全部の総重量より重いだろう斧に、部屋の床が抜けないと良いけれどと思う。それに
「本当にサウロも良いの?私と同じ部屋で。ルベンは小柄だから良いけど、サウロも一緒の部屋だと荷物も一緒で狭くなるかも」
「構わない。床で寝る」
また即答。口数は少ないけど、結構意見ははっきりしているよなぁと思う。
ルベンと二人の時は同じ部屋でも同じベッドで寝ても大して窮屈さを感じなかったから良いけど、サウロは身体も大きい。最初の宿の時、お金にも正直困ってないからサウロには別の部屋を借りようと言ったけど、すぐに却下されてしまった。
一人が寂しいならルベンと一緒の部屋にする?と尋ねたら今度はルベンと声を合わせて却下された。
サウロのこと大好きなルベンにまで却下されるのはかなり意外だった。正直、ルベンはモフモフだし抱いて寝心地も最高だし良いけど、サウロはオークとはいえ人間族寄りの美男子だし、流石に同じ部屋は緊張するから私もちょっと悩んだ。それこそサイラスさんにも何か疑られそうだし。
でも、最終的にはサウロに
『私と同じ部屋は嫌か……?』
……もう、当然ながら断れない。
部屋の総面積によっては窮屈になるかもしれないからと、それじゃあルベンだけ個室にしようかと提案したら今度はルベンが釣り上がった青い目をキッと更に釣り上げて「ルベンだけ仲間はずれにする気だな?!」と怒ったから、もうこうなったら三人川の字で寝るしかないと諦めた。
そんな修学旅行の部屋決めじゃないんだから別に誰と寝ても一緒だと思うんだけど。
まぁ、こっちの都合で毎回泊まる宿は人間族の宿だし、ルベンもサウロも不安だったのはちょっと分かる。
私だっていきなり人間族と全く違う見かけの異種族のペンションにドンッと置かれてひとりぼっちだったらかなり心細いし不安だ。……そう思うと、こうしてルベンやサウロが一緒に居てくれることはありがたいことかもしれない。少なくともここ異種族経営以前に異世界だし。
そして唯一同じ人間族のサイラスさんは、当然のことながら「俺も男だからお嬢ちゃんと同じ部屋じゃ寛げねぇよ」と最初にきちんと断られている。
あと「サンドラちゃんに怒られちまう」らしい。多分私とサイラスさんだけの旅で空き部屋が一つしかなかったら、確実にサイラスさんは馬車で寝る人だっただろうなと思う。なんだかんだ凄い紳士だもん。
「オーク族の居住区域もあるかどうか探しに行かないとね。サウロと仲良くなれる同種族とかいるかも。それともサウロが暮らすなら異種族ごちゃまぜの王都とか?」
「………。…………いや。ソー、……お前は、私と」
「ソー!サウロー!もう荷物それで終わりかー?」




