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バベルの翻訳家〜就活生は異世界で出会ったモフモフと仕事探しの旅を満喫中!〜  作者: 天壱
Ⅳ.着地

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22.移住者は到着する。


「おーい起きろ凸凹!城下着いたぞー」


ガタンガタンと揺られながら、御者のサイラスさんの声で目が覚めた。

……だからなんで毎回適当な纏め呼びをするのか。窓側に寄りかかりながら、手の甲で涎が零れていないか確かめる。

カーテンを閉めていた窓の隙間を覗けば、久々に見る気がする立派な建物が並んでいた。ぼんやりと寝起きの頭でさっきのサイラスさんの呼びかけは夢じゃなかったんだなと思う。

太陽が結構眩しいから時間は結構明け方に近いのかもしれない。その証拠に膝の上のルベンもまだ爆睡中だ。


「ルベン、起きて。城下街だって」

ぽけーっと窓の外に視線を置きながら、手だけでモフモフとルベンの背中を叩く。

旅が続いて慣れてきてから、そんなに寒くない日は毛布を被るよりルベンを膝に乗せている方が寝心地が良いと学んだ。

最初こそルベンを膝に乗せたまま私がうっかり寝ちゃったり、隣に座って寝ていたルベンが馬車の揺れで私の膝の上に傾いて乗っちゃっただけだったけど、モフモフした毛皮がどうしようもなく気持ち良かった。

流石に膝の上に抱っこしたまま寝るのは却下されたけど、私の膝を枕にするという形でなら妥協してくれた。「言っとくけど、ルベンの方が年上だからな」「普通はこういうの女からやらせろって言うもんじゃないからな」と怒られたけど、最終的には渋々といった感じだ。

頭の先までモフモフのルベンを膝に置くと、もう撫でているだけでも凄く気持ち良く眠れた。ある意味これもアニマルセラピーというのだろうか。……本人には言えないけど。


「……朝か〜……?結局またひと月はかかったじゃねぇかあの嘘つき御者」

「休み休みなんだからしょうがないでしょ!乗車人数が増えたから馬の速度も遅れてるって初日に話してたし」

目をモフモフの手で擦りながら、寝返りを打つルベンはまだ眠そうだ。昨夜はずっと街に着くのを今か今かと待っていたから夜更かししたのかもしれない。

ルベンの長い鼻をそっと撫でながら、目が覚めるのを待つ。モフモフの毛が寝返りを打たれる度、太ももを撫でてちょっとくすぐったい。まだルベンが起き上がるまで時間がかかりそうなので、この態勢のまま私は荷台の方に首だけ向けて呼びかける。

馬車の速度が落ちた原因ご本人だ。


「サウロー。おはよう、起きてる?城下着いたって」

「…………起きてる。聞こえた」

起きてるわりには、ルベンよりもテンションの低い声が背後から返される。

聞こえたというのは多分サイラスさんの呼び掛けじゃなくて、私がルベンを起こした時の声だろう。二人とも私以外の人間族の言葉はわからないし。ルベンに掛けた程度の声量でもちゃんと聞き届いてくれたということは、起きてたというのも本当らしい。


がたんと、今度は馬車の動きとは関係なく座席が揺れた。サウロがのっそりとした動きで荷台から私達の座席へと顔を覗かせた。

顔立ちこそ人間に近いサウロだけど、オークだから身体ががっつり大きくて重い所為で体勢を変えるだけで馬車が揺れてしまう。

直後には運転席側からサイラスさんの「オークを暴れさせるなよー?」と注意が入った。ちょっとサウロが動くだけでも、馬車の運転や馬への影響が大きいらしくこっちの動きが運転席まで筒抜けだ。

荷台に押し込められてるサウロだけど、ありがたいことに彼は殆ど動かない。洞穴に住んでいた頃も結構隅の方でじっとしていることが多かったらしい。

そんな運動量で、こんな逞しい身体を維持できたのが羨ましい。まぁ狩りとか水とか身の回りのこととかは自分で動いてやっていたのだろうけれど。


おはよう、と顔を覗かせたサウロに改めて挨拶をすれば、今度はすぐに一言返ってきた。サウロもサウロで、大きな街は初めてだから緊張で早く目が覚めたのかもしれない。

私とルベンを見つめた後、横目で今度はカーテンが少しだけ開いた窓に目を向けた。このひと月で少しは私達になれてくれたサウロだけど、やっぱりまだ不安なんだなと思う。

右手でルベンの毛並みを撫でながら、反対の手をサウロへと伸ばす。


「大丈夫だよ。城下は色々な異種族がいるってって聞いたし。異種族間で攻撃は禁止されているから何もされないよ」

大丈夫大丈夫とおまじないのように言い聞かせながら髪量が減ったサウロの頭を撫でる。

川の一件から、私より身体の大きなサウロにも子ども扱いが慣れてしまった。本人もその扱いで不満はないらしく、撫でられた頭のままコクンと小さく頷いてくれた。

やっとルベンも覚醒してきたのか、「サウロも起きたのか?」とゆっくり私の膝から顔を起こした。サウロに元気よく挨拶をすると、さっきまで転がっていたのが嘘のように跳ねて「カーテン開けろ!」と私に窓を指す。

まぁもう目が覚めたなら多少眩しくても良いかと、二人のご希望に応える形で私は手前のカーテンを全開にした。


ブワリと朝日が馬車の中に広がって、光に慣れていた筈の私まで目を絞る。

ルベンも最初は小さな手で光を遮りながら、少しずつ繰り返す瞬きの数を減らしていった。

窓の外に広がる町並みは、私が知る中で一番栄えてたサンドラさんの街とも雰囲気から全く違った。もっと近代的で、ずっと遠くには特徴的な建造物も次々見えた。

サイラスさんが今向かっているのは、城下の中でも言語の通じる人間族の集落区画だ。城下の中で、人間族の割合はざっくり三割程度。王都に行けば種族ごとの区分けもなく、お店か選ばれしセレブの種族ごっちゃ混ぜ。

つまりは城下七割は全員異種族。今、ずっと向こうに見える特徴的な建造物達もきっと異種族のものだろう。窓の外で行き交う人達も皆バラバラに異種族だ。


「すっげー……狐族以外の獣人族がこんなに居るの初めて見た」

「オークは、……居ないな。しかし、あれは……人間……?いや……」

二人とも異種族だらけの街に興味津々だ。そして私もだったりする。

今までもサンドラさんに紹介された仕事をする中で異種族の人達には何人も会ってきたし、経由してきた町や村に異種族が混ざっていたこともある。でも、これだけがっつり人の波に飲まれるのは始めてだ。

ルベンみたいに身体をモフモフさせた獣人族もいれば、つるりとした輪郭の亜人や、肌の色が明らかに人間じゃない人もいる。これでも、まだ城下の手前だというのだから凄まじい。私達が向かっている王都はこれ以上の賑わいなのだろうと今から覚悟する。


ガタンガタンと揺れながら、馬車がゆっくりと道なりに進んでいく。

進行方向を窓越しに見つめれば、人間族の言葉が書かれた看板を通り過ぎた。「この先人間族」と書かれた看板に、やっぱり城下でもある程度は住み分けがされているんだなと思う。まぁ言葉も文字も通じないところで買い物や宿は面倒だし当然だ。


「今度こそ服屋さんあるかなぁ……あと、ついでに本屋さんもあったらラッキーなんだけど」

「本なんて棲家も決まってねぇのに荷物増やしてどうすんだよ。焚き火すんなら止めねぇけど」

なんという本への冒涜。

ルベンの容赦ない言葉に思わず唇を絞る。確かに一度読んだら邪魔になるかもだけど繰り返し読めば良いし!もう馬車に乗らないんだから酔う心配もなくて暇つぶしにもなるのに!!

でも、本なんて自分で読んだこともないかもしれないルベンに本の良さを説明するのは難しいと諦める。いっそ人間族じゃなくて獣人族の本屋にでも行こうかなと思う。ルベンにも興味を持って貰える本が見つかるかもしれない。絵本とかだったら文字も関係ないし。あ、でもそれならサウロが読める本……というか、サウロってそういえば文字読めるのかな。


ふと疑問が掠めてサウロを見上げてしまう。

ルベンはまだサンドラさんの前に狐族の集落に居たらしいから文字を教わったかもしれないけど、サウロは結構子どもの頃に山へ置いてけぼりにされたらしい。もしかしたら文字という文化さえ初めての可能性もある。いやでもそれならオーク族の文字をこれから私が教えてあげれば良いだけの話か。あれっ、でも先ずサウロの為にもオークの集落にも行ってみないと……

ガタッガタガタッ、と。そこまで考えたところで、馬車がゆっくりと速度を緩め、止まった。

着いたぞー!と伸びのあるサイラスさんの声が聞こえて、待っていれば今度は合図もなく勢いよく扉が開かれる。朝日と新しい空気が飛び込んでくるのと同時に「起きてるかー?」と気楽に呼びかけられた。


「今、宿を取ってくるから待っててくれ。絶対にそれまで狐とオークを馬車から出すなよ」

念を圧すサイラスさんの言葉に、今にも飛び出そうとするルベンを慌てて両腕で掴まえる。

勿論です!と返すのとルベンが不満の声を上げるのはほぼ同時だった。異種族がひしめき合っているとはいえ、人間族の宿に狐族はともかく身体の大きなオークが並んでいたら驚かれてしまう。普通の人には異種族の言葉は全くわからないのだから。

頼んだぞ、と二度目の念押し後にサイラスさんは再び扉を閉めた。これから宿を取ってくれるところだと二人に説明し、私達はサイラスさんが迎えに来てくれるのを待った。


「……そういえば。城下ではサウロの同行理由どうしようか」

ふと、今になって思い出したこの世界の常識を投げかけながら。

今まで町や村では基本的にサウロには馬車の中で、夜中になったらこっそり宿に入ってきてもらっていた。けど、もう城下に辿り着いてまでコソコソしてられない。

通常、異種族同士は一緒に行動をしない。

ルベンの場合はペットで通せたけれど、私より身体の大きなサウロだといっそ彼よりも……、……うん。


「…………むしろソーの方がサウロのペットなんじゃねぇ?」


ルベンの尤も過ぎる意見に、頭を重くしながら私も同意した。

今更ながら、自分の番になると何ともペット扱いって複雑な気分になるなと心からルベンに反省した。


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