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バベルの翻訳家〜就活生は異世界で出会ったモフモフと仕事探しの旅を満喫中!〜  作者: 天壱
Ⅲ.反り跳び

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19.逃走者は泡立たせる。


「サウロ!サウロも一緒にやろうよ!」


水にひたひたのルベンを捕まえたまま、サウロに手を上げて呼びかける。

突然自分に振られたことをびっくりするように目を丸くしたサウロは二秒くらい固まったあと、川へ入ってきた。

流石に愛用の斧は錆びるのが嫌なのか川岸に突き刺して置いてきたけど、その後は結構乗り気で早足だ。


「……サウロだから良いけど、勝手にルベンを玩具にすんなよな」

「何言ってるの!ルベンが終わったら今度はサウロの番なんだから」

むすっと膨れた声でぼやくルベンに私ははっきり言う。

玩具なんてとんでもない。これは、……いや実際結構ルベンを洗うのは楽しいし夢中になったのは事実だけど、いやでも!サウロを呼んだのはあくまでルベンを洗う為のお手伝いだ。

真っ白ルベンに戻ったら今度はサウロの番だ。ルベンを洗えば自分でも洗い方の練習になるだろうし、一石二鳥だ。それに正直ルベンの全身の毛を入れてもサウロの髪の方が毛が多いと思う。今も川に入ってきてくれたサウロは、足下まで伸びていた髪だけが中途半端に川に浸かっている。


「?サウロの??ルベンが?」

「私もか……?」

……ちょっと待ってサウロ。なんで自分だけ洗わずに済むと思ったの。

灰色の泡もこになったまま長い鼻先でサウロを指すルベンに、本人まで首を傾げた。理由がわからないとでも言いたげに真っ赤な眼差しだけは私に向け、片膝をついてしゃがんだ。自分より小さいルベンを洗ってあげる為だろう。

中腰になれば手が届く私と違ってサウロは完全にしゃがまないとルベンの背中には届かない。


長い髪がべっしゃりと川に浸って揺蕩う中、サウロは私の手の動きを見よう見真似するようにルベンの毛を洗い出した。ルベンを洗うことには抵抗ないのになんで自分のことは他人事なのか。

手の動きがわかるようサウロの大きな手に自分の手を重ねて押さえるようにして交互に動かす。わしゃわしゃと、ルベンの白かった毛が手の動きに合わせてなだらかになっては逆立った。

突然触れられたことに驚いたのか、それとも自分の洗い方が悪いと指摘されると思ったのか、サウロの肩が短く上下した。まぁ洗い方にそこまで完璧なこだわりは私もないのだけど。


「毛だけじゃなく地肌も揉み込むようにね。あとは痛くないように優しく優しく……あ、爪は立てないで指の腹でこんな感じ」

「こ、こうか……⁈」

鋭い爪をがっつりルベンに立てようとするサウロを止める。危ない危ないそうだこの子、爪が長いんだった。

女子の付け爪なんて可愛いレベルの鋭さだ。ルベンに触れる時から気をつけてはくれていたようだけど、緊張したのかついつい爪を立てようとしてしまったらしい。やっぱり一緒にやって良かった。


わしゃわしゃと気持ち良いくらい泡ぶくぶくになるルベンは背中からみても可愛らしい。

上手、上手とまるで子どもにでも言っているかのようにサウロへ重ねれば、うっすらとサウロの耳が火照った。重ねた大きな手にも僅かに力が入って、やっぱりルベンと同じで子ども扱いされたのが恥ずかしかったのかなと思う。

それでもまだ私に慣れてないからか、ルベンみたいに言い返しては来ず黙々と洗う手を動かしているサウロを見ると彼も彼で可愛いなと思ってしまう。


横顔をこうして見ても凄い美男子で綺麗なサウロだけど、中身は格好良いというよりも可愛い。ずっと長い間一人だったみたいだし、心の成長が止まっているのかもしれない。それこそ狼少女とかみたいに。

なら余計に私からもっと色々世の中のことを教えてあげなきゃなと思う。

取り敢えず先ずはお風呂についてからだ。


ルベンの背中をそのままサウロに任せた私は、一度そのまま岸に上がる。

ペット用洗剤を短パンのポケットにボトルごとねじ込み、次に人間用の石鹸を手に取った。ルベンを洗う為に川に入って濡れた自分の足へ擦り付け泡立てれば、期待通りに灰色の泡が出た。同時に真っ黒だった掌も汚れが落ち始めているのを確認し、ほっと息が溢れる。意外にこのドラゴンの血、臭いと見かけのわりに石鹸でちゃんと落ちる。


サンドラさんに勧められてピンからきりまで石鹸を買ったけど、取り敢えずは並くらいの石鹸でちゃんと落ちることを確認した。

石鹸の次は別の荷袋から適当なタオルを探す。取り敢えず指が触れたタオルを引っ掴み、乾いた状態から石鹸をがっつり擦りつけた。両手でタオルを広げ伸ばしながら、再び二人のところへ歩み寄る。バシャバシャと転ばないように注意しながら歩けば、川の水が私の足の泡を洗い流した。軽く擦り洗いした部分だけ地肌が見えて、綺麗になったところが逆に模様みたいになる。


わしゃわしゃとルベンを背後から洗ってくれていたサウロも、私が突然離れたのが気になったのか手は動かしながら顔が首ごとこちらに振り返っていた。

じっ……と無言で紅い瞳に見つめられると綺麗な顔の直撃に少し緊張してしまう、なんか、前の世界でいえば外人というよりも外人と外人の大成功美男子ハーフみたいな顔の造りにうっかり見惚れてしまう。

そう思うと、これから私がやろうとしていることもわりとセクハラか何かじゃないかなと胸の音が大きくなったけど、敢えて知らないふりをした。代わりにちょびっとずつ川の水に浸けるようにしてタオルを湿らせ、乗せていた石鹸とこすりあわせて泡立てる。

もにょもにょぶくぶくとタオルが順調に細かい泡を作り出したところで、私は軽くタオルを畳みながらこっちを見つめるサウロと目を合わす。


「サウロ。背中やるよ?怖くないから大人しくしててね」

なんか逆に怖いことをするような言い回しになったなと自覚しながら事前に伝える。

でも、そうしないとただでさえ怯え戸惑い気味のサウロを驚かせることになる。現に今も私の報告にサウロは不安そうに眉を寄せていた。「やる……?」と小さく溢したサウロは、少し私と泡ぶくタオルを見比べた後に了承するように顔をルベンの背中へと戻してくれた。任せるということなのだろう。


サウロが了承してくれたっぽいことにほっとしながら、私はサウロの背中をまず手で撫でた。

足元までつきそうな長い髪が、完全にサウロの綺麗な背中を隠している。でも、そこから予想外の重さのサウロの髪を持ち上げれば髪の隙間から入り込んだのか、やっぱり背中にもドラゴンの血がこびりついていた。そうじゃなくても今までお風呂なんて入ったことないなら余計にここで余すところなく洗ってあげた方が気持ち良いに決まっている。

よし!と私は気合をいれて、まず最初にサウロの髪を前へと流す。ものすごく長い上に水を吸って重くなっていた髪は、片手でやるのもひと苦労だった。よいしょっと心の中で呟きながら、べちゃんべちゃんとサウロの髪を背中がよく見えるように除けた。

そしてブラシ掃除くらいの感覚で彼の広い背中にタオルを擦りつける。


「⁈……っ?」

もふっとした感覚が初めてだったのか、僅かにサウロの背中がのけぞった。

構わず私が「大丈夫大丈夫」とごしごし交互に擦って洗うと次第にサウロの力が抜けてきた。反り気味になった背中がまた少し丸くなって、頭の位置が低くなる分洗いやすくなる。

わしわしとサウロの背中を中央から左右に広げるようにして洗っていけば、やっぱり綺麗に黒い血の跡が溶けて剥がれてサウロの綺麗な白い肌が姿を見せた。女性の私から見れば羨ましいくらい綺麗な肌だ。

しかも、これでめっっちゃくちゃ丈夫とかだと思うと最強だなと思う。


「どう?結構気持ち良くない?」

それとも頑丈な肌だからあまり感じないかなと思いながら横からサウロを覗き込む。

すると、サウロよりも先に彼に背中を洗って貰っているルベンの方が「良いなこれ!」と楽しそうに声を上げた。自分から川に入ったし大丈夫だとは思ったけれど、よくあるお風呂嫌いペットみたいに嫌がられなくて良かった。

サウロの洗い方が上手なお陰もあるだろう。ルベンに目を向ければわしわしと前も自分でしっかり洗って、川に流されていない部分は泡だるまになっていた。気に入ってくれたようでなによりだ。


「サウロはどうだ?」

私の代わりにルベンがこちらに振り返る。自分を洗ってくれるサウロへ嬉しそうに笑い掛けながら、鼻の頭に泡がついたままのルベンはすごく可愛い。スマホがあったら写真に収めたいくらいだ。

するとルベンと目が合ったサウロは一度洗う手を止めた。わしわしと洗っていた指先が止まり、私も吊られるように背中を洗う手を止めて目を向ける。

サウロは無に近い表情のまま薄くその口を開いた。


「…………悪くない」

無感情に聞こえる低い声が、不機嫌ではないことはよくわかった。

その短い一言を言った直後、サウロの口元が小さく緩んだ。その反応に私も満足し、改めて背中を洗う手に気合を入れる。「痛かったら言ってね!」とわっしわっし背中全部が綺麗になるまで遠慮なく洗う。意外に汗を掻いたけど、どうせ私は二人の後に洗うから良いやとそのまま続行する。

暫くはそのまま三人仲良く縦並びになりながら洗いっこを続け、私が任務完了できた時にはルベンの背中も泡が萎れていた。


「一回流そっか」

浅瀬から更に深いところまで二人が足を進めれば、……途中で急に深いところに落ちた。慌ててサウロの背中に掴まる。

ルベンは既にバシャバシャと気持ち良さそうに泳いでいたし、サウロにはまだ大した深さじゃなかったけれど、私には溺れるレベルだった。私が急にしがみついたことで驚いたように振り返ったサウロだけど、私が足がつかなかったことを察してくれたのか泡ぶくの手を差し出してくれた。


大きな手に両手でひっ掴まり、川の中の浮力のお陰で足元が浮かんだままサウロに運んでもらった。

私ももともと身軽重視の格好だったし、不意をつかれなければそのままバタ足で川を進める。着衣水泳は初めてだったけど、長袖じゃなかったお陰とサウロに手を引いて貰えたお陰で難なく進めた。

もう大人なのに、こうやって手を引いてもらうと子どもの頃にお父さんに浮き輪ごと引いてもらった時みたいだと思う。


なんとか丁度良い深さになって、サウロが腰を落として水に浸かる。膝を折ったことでとうとうサウロの背中も肩近くまで水に浸かった。

バシャン、バシャンと片手でゆっくりと水を肩までかければ綺麗な白い背中がそこにあった。


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