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バベルの翻訳家〜就活生は異世界で出会ったモフモフと仕事探しの旅を満喫中!〜  作者: 天壱
Ⅱ.踏切

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16.旅人は逃亡する。


宿屋さんとの交渉後。


私の話は疑い八割、興味一割、ドン引き一割で聞き届けられたけれど、外に出た宿屋さんは直ぐにまた血相を変えることになった。

オークの武器には怯えていたけど、交渉成立した宿屋さんは猛ダッシュで駐屯所に馬車を取り返しに行ってくれた。預けた本人じゃないといけないらしく、結果的に馬車の運転手のサイラスさんも起こしてついて行ってもらった。到着してからご飯以外爆睡してたサイラスさんだけど、晩御飯の差し入れの甲斐もあってか怒らずに協力してくれた。……何故か「また異種族を飼い慣らしたのか」と頭をボリボリ掻きながら呆れられたのだけは釈然としない。


今夜は私達しか泊まり客がいないということで、少しだけ宿の中にルベンとオークも避難させて貰った。

見事馬車を一時的に取り返してくれた宿屋さんとサイラスさんにお礼を言って、無事オークを馬車の荷車に潜ませた。

やっぱり不安げなオークに、私も一緒に馬車へ残ろうかとも思ったらルベンが「ルベンも馬車に残るぞ!」と進言してくれた。

でもまだルベン相手には落ち着かないらしいし言葉も通じないしなと考えあぐねていた時、サイラスさんが欠伸混じりに口を開いた。


「……良いよ、もう出ちまおうぜ。俺は寝たし、ドラゴンも退治したなら森も安全だろ。……オークいるなら余計に」

ドラゴン倒した張本人だし、とどうでも良さそうに言ってくれるサイラスさんが準備運動みたいに腕をぐるぐる回す。

それは流石にと言ったけど、もうサイラスさんは決めたように自室へ荷物を取りに行ってしまった。追いかけようとしたけど止められる。


「頼むからオークの傍から離れるなよ」

むしろ、逆に馬車から謹慎処分を受ける。

仕方なくおずおずと私もルベンと馬車の中に入ることにして扉を開けた。ルベンがドラゴンの収穫を掲げて見せる。


「ソー、これどうすんだ?」

「そのおじさんにあげて。口止め料と村人を襲ったのがドラゴンですっていう証拠だから」

あげる、という言葉にルベンがわかりやすく文句ありげに眉を寄せた。

「良い金になるのに」「オークが狩ったのに」と文句を言うルベンに、お陰でオークも無事に村から連れて行けるからと説得してやっと、仕方なさそうに手放してくれる。少し釈だったのか、直接手渡すのではなくおじさんの方に向けてごろりと転がした。



ドラゴンの、生首を。



なんか転がるのが余計に生々しい。

ひっ、と悲鳴を私の方が上げてしまうけど、宿屋の主人はそれよりも巨大な頭をどうやって宿に持ち込むか悩んでいた。流石もともと駐屯所で働いていただけあって肝が座ってる。

ルベンに運んでもらおうかとも思ったけど、本人はもう馬車に飛び乗ってしまった。

最終的には私達が去った後に駐屯所のお友達に手伝って貰うことにしたと言う宿屋さんは一人で運ぶのを諦めたようだった。


ドラゴンの頭は牙とか角とか目玉とか舌とか色々貴重な素材が詰まっていてかなりの高級品らしい。本当は明日の朝、村の人に提供して生首が注目を浴びてる間に逃げようと思ったんだけど、まぁ結果的には解決だろうか。宿屋さんがちゃんとオークの無実を晴らしてくれるか確証はないけど、無事に出発できれば良いやと思うことにする。オークも無実を晴らして欲しいとまでは言ってなかったし。


近くでまじまじとドラゴンの素材を眺める宿屋さんは、鑑定士の顔をしてた。

森へオークに会いに行ったとか、ドラゴンが出たとか、それをオークが倒したとか、協力してくれたらお礼にドラゴンの頭をあげますとか、話した時は話せば話すほど怪訝な顔で疑われて、途中からは完全に血迷った人を見る目だったなぁと思う。

最終的には現物見せて、武器は持っても攻撃してこないオークに会って貰ったら納得してくれた。

オークも何故か、宿屋さんやサイラスさんに対しては冷静……というか全くの無反応だった。ドラゴンの血で真っ黒だったから宿屋さんもオークの見かけに対して警戒する以外は指摘もなかった。何より背中を向けていたお陰もあって毛皮の印象も強い。


「『良かったね、このまま馬車で村出てくれるって』」

馬車に乗り込み、座席の背もたれから積荷台を覗き込む。

積荷の隙間で悪いけど、膝を曲げれば無事オークも収納できた。

身体が細身のお陰で、わりと余裕がありそうに寛ぐオークは私達の方に目を向けると無言で頷いた。さっきの不安げな表情から、今はわりと落ち着いていると思う。むしろ少し眠そうだ。

ルベンも私に並んでオークをわくわくと覗き込む。


「『途中で湖とか水場あったらそこで身体洗おう。気分悪くなったら言ってね』」

「……わかった」

馬車に慣れてないだろうし、酔わなければ良いけど。

オークはこくりこくりと頷きながら、若干船を漕いでいた。結構夜中だし、色々あったから疲れたんだろう。このままそっとしといてあげるべく身を引こうとすれば、興奮が冷めない様子のルベンが「なぁなぁソー!」と声を弾ませた。振り向けば、また目をキラキラさせている。


「オークって名前何だ⁇」

そういえば、まだ名前を聞いていなかった。

私達は名乗ったけど、オークからは聞いてない。

うっつらうっつらとしてるオークに悪いけど、最後の質問と思って尋ねてみる。


「『貴方、名前は?』」

ぱちり、とオークの目が開いた。

てっきり囈言レベルで答えると思ったけど、瞬きを数度繰り返したオークは真っ赤な目と顎を少し動かして私を見上げた。

「私の……名前?」と呟く彼にもしかして名前がないのかなと思ったけど、少し待ったら難しそうに目を細めながらゆっくりと牙の見えた口を開いた。


「…………サウロ、だ。貴方達の、名は?」


細い声で名乗ってくれたサウロは、順番に私達へ目を向ける。

一度は名乗ったんだけどもと思いながら、今度は私だけじゃなくルベンのことも気になってくれてることが嬉しい。改めてソーとルベン、と手で示して教えるとサウロも小さく「ソー……」と唱えてくれた。今度こそ覚えてくれただろうか。


ルベンに狐族語でサウロの名前を教えると、速攻で「サウロ!」と彼を呼んだ。

獣人の言葉だし、サウロにはガウガウと言ってるようにしか聞こえないだろうけど、それでも元気の良いルベンの声に少しだけ顔を向けていた。

私からも背凭れに身を乗り出し、両肘で頬杖をついてサウロに笑いかける。


「『これから宜しくね、サウロ。絶対前より住みやすいところを探してあげるから』」

「…………ああ」

一言返してくれたサウロは何か言いたげに口を噤んだ後、低めた声で頷いた。


《魔獣族、サウロ。眷属に追加します》


「なぁソー!いまサウロになんて言った⁈」

ルベンがまた声を上げる。

本当にサウロ大好きだなと思いながら教えてあげれば、サウロに挨拶できたことが羨ましそうにするルベンは「ルベンの言葉も翻訳しろよ!」と希望まで言ってきた。

良いよ、と返しながらもやっぱりお互いに言葉が通じないのは不便だなと思う。これから一緒に旅をするんだし、お互いに話ができれば良いのにと思う。


《スキル発動。主人眷属間の言語統一を行います》


「サウロにルベンからも宜しくな、って!サウロすげぇ格好良いし、ドラゴン倒すのまた見せてくれって‼︎」

「⁈……いま、話したのは……誰だ……?」

声を弾ませるルベンの台詞に、サウロが突然目を丸くした。

赤い目を限界まで見開いたサウロは慌てたように身体を起こす。するとサウロだけじゃなくルベンまで「え⁈」と声を上げた。

次の瞬間、二人が目を丸くしたまま初めてばっちりと目を合わせた。


「え、今喋ったのサウロか⁈」

「何故お前の言葉がわかる……⁈」


目だけじゃなく言葉まで同時に重なった。

二重音で殆ど聞き取れなかったけど、お互いの驚愕は変わらない。私もだ。

ええええええぇええええぇええええ⁈と私とルベンが叫び、サウロも信じられないように絶句した。


「おーい、ソーちゃん。あんまり騒ぐなよ。はしゃぐのは村抜けてからな?」

「サイラスさん‼︎ちょっ……今、二人が何言ってるかわかります⁈」

宿屋から戻ってきたサイラスさんの気楽な声に私は思わず前のめりになる。


「えっ、いまソー喋ってるのって人間族の言葉か⁈すげぇ!わかる‼︎」

「だが男の方は何と言った……?」

二人からまた混乱気味の台詞が飛び交う。今は人間族の言葉を話してるのに何故か二人とも私の言葉はわかるけど、サイラスさんの言葉はわからないらしい。同じ人間族語なのにどうなってんの⁈

慌てる私にサイラスさんは、もう悟りの境地でも開いてるようにのんびりとした様子で私と二人を順々に見比べた。


「ソーちゃんの言葉はわかるけど、スキルのねぇ俺に狐もオークもわかんねぇよ。良いから村を出るまでは静かにしてろ異種族ハンター」


ちょっと待って今すごく不本意なあだ名つけられた気がするんだけど⁈

サイラスさんは馬車を動かすとだけ告げると扉を閉めてしまった。

扉を開けた途端顔を顰められたから結構臭いが籠ってるんだろう。私から頼む前に扉越しから「村抜けたら水場探すぞ」と声を掛けてくれ、そのまま運転席へ去っていった。


ガタン、ガタンと馬車が揺れ出す中、私達だけで茫然としてしまう。

何故突然三人でだけ言葉が通じるようになったのか。考えを巡らせていると、スキル鑑定して貰った時のお姉さんの話が不意に頭に過ぎった。


『全ての種族の言語を全ての言語に変換可能。聞き取りから発音、文字の読解と記述、()()()()()()()()()()可能です』


万族翻訳。

そのスキルが特別な力なのだと、私は今更ながら理解した。

馬車が揺れる中、私の「あーーーーー‼︎‼︎」という絶叫が夜の村に響き渡った。


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