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バベルの翻訳家〜就活生は異世界で出会ったモフモフと仕事探しの旅を満喫中!〜  作者: 天壱
Ⅱ.踏切

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14.旅人はお願いする。



「『じゃあオークって皆が皆、あんなに強いわけじゃないんだ?』」


来た道を戻り歩く私達は、村に近付いても一度も獣に襲われなかった。

先頭を歩くルベンのすぐ後ろへ、続くようにオークが歩く。私を軽々と左肩に背負って歩く彼は、足こそゆっくりだけど全く息を乱さない。

私も手に持っているランプを掲げて先をなるべく照らすけど、私以外二人とも夜目が利くらしいし、あんまり意味がないんだろうなと思う。


最初にオークが私を無言で抱えた時は驚いたけど、これが一番早くて安全と言われたら抵抗のしようもなかった。しかも言葉がわからない筈のルベンまで同じこと言うし。

確かにお陰で今、帰りは足を引っ掛けることも転ぶこともなくすいすいと森を進めている。

ルベンは大荷物を抱えてもひょいひょいと身軽に進むし、オークは足元に何があってもものともしない。


「少なくとも今のは私のスキルだ。速度と種族としての特性を引き上げられる。一度に長時間は保たないが」

「ソー!ルベンにも教えろよ!」

オークが話し終えた途端、またルベンが通訳を催促してきた。

さっきからオークが話す度にルベンが一語一句逃すかと言わんばかりに声を跳ねさせる。本当にオークの大ファンになったらしい。

私がオークに聞いた言葉と返事を通訳して説明すると、その度にルベンは必ず「へ〜‼︎」と興味津々の声を返した。今回はスキルまで判明したから余計嬉しそう。しかも時間制限付きのパワーアップとか、本当にヒーローの王道だ。……そういえばルベンのスキルって何だろう。


そんなことを考えていると、とうとう森が開けてきた。

灯りはついていないけど、村人がいないかと少し身構える。結構臭うだろうし、さっきのドラゴンの雄叫びとか聞こえて起きてこられてたら大変だ。

二人に周りに気づかれないようにと注意を呼び掛けてから、忍び足で私達は宿に向かった。運良く誰も外には出ていない。

熟睡してるのか、案外ここまでは聞こえなかったのか。そう思ってわりと順調に宿まで辿り着いた私達だけど、……そこで気付く。


「……しまった…………」


はぁぁぁ……と、オークの肩の上で私は両手で顔を覆って項垂れる。

手がドラゴンの血で汚れているのを忘れていた所為で、若干乾いていない血が顔にべったり付いた。顔まで汚れて余計に落ち込む。


宿屋の前で立ち尽くす私達は、ランプも消して今は完全に夜に染まっている。

ドラゴンの血のお陰でオークとルベンなんて殆ど姿が見えない。私はまだ部分部分しか黒に塗れてないからマシだ。中途半端に見た人がいたら、私が浮いているように見えたかもしれない。

そんな中、暗闇に溶けたルベンもため息混じりに私へ投げかけた。


「どうすんだよソー?馬車、駐屯所に預けたままじゃんか」

……そうだ。

明日の朝に村を去るまでオークに隠れていて貰おうと思った馬車だけど、よくよく思い出せば宿屋じゃなくて駐屯所に預けていた。

預けた時は便利で安心だと思ったけど、当然ながら簡単に侵入できない。この時間じゃ受け付けてくれないだろうし、第一この異臭がする私達をはいどうぞと駐屯所内に入れてくれるとは思えない。……というか、オークなんて指名手配犯且つ武器持ってる。よく考えればこんな悪臭じゃ遅かれ早かれ宿屋の人にも気づかれるし、…………。


「…………しょうがない。ちょっと行ってくる」

諦める。

こうなったら背に腹はかえられない。本当は明日の朝にしようと思ってたけど、これしかない。

オークに降ろしてもらい、取り敢えず臭いが酷い二人はちょっと物陰に隠れてもらい私一人で宿屋に入ることにする。

ルベンは手に持っている物ごと隠すように移動してくれたけど、オークはちょっと不安げに真っ赤な目が揺らいでいた。人間が怖いみたいだし、こんな村の真ん中なら怖いのも仕方ない。


「『大丈夫。すぐ戻るから。何かあったらルベンが助けてくれるよ』」

「………………」

返事がない。顔が真っ黒になって見えないけど、自分よりずっと小さいルベンだと頼れないのかもしれない。

だけど朝までに動かないと逃げ場所もない。ルベンにも私から改めてオークをお願いしてから、足早に宿屋に入った。

自分の部屋には戻らずに、宿屋の主人が住んでいるだろう奥の部屋に向かう。扉が施錠されていたけど、ドンと叩いたら一回目ですぐに飛び出してきてくれた。

血相を変えて現れた宿屋さんは寝間着のまま目をぐりぐり見開いて私を見た。


「お嬢ちゃんどこ行ってた⁈あの白いのは⁈まさか森ッッくっさ‼︎‼︎」

捲したてる途中で気が付いたように鼻を摘まれる。やっぱり凄い臭いらしい。

若干鼻が私は慣れたけど、酷い臭いなのはよくわかってる。男性に言われるとやっぱりムカッとするけど。

堪えながら話を聞けば、外から凄まじい人外の叫声が聞こえて村人全員が今は戸締りをしっかりして引きこもってるらしい。……なるほど。村人にも聞こえていて、だからこそのこの状態だった。なら、ルベンとオークも見つかる心配はなさそう。


「あの、実は……折り入ってお願いがあるんですけど。…………ちょこ〜っとだけ融通聞かせて貰えませんか?」

なに⁇と宿屋さんが眉を寄せる。

寝起きにドラゴンの断末魔で起こされて更に深夜に叩き起こされて、熱が冷めた所為か今は少し不機嫌になってきている。ここは勿体ぶらず単刀直入に話そう。


「確か、駐屯所に顔が利きますよね……?」


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