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バベルの翻訳家〜就活生は異世界で出会ったモフモフと仕事探しの旅を満喫中!〜  作者: 天壱
Ⅰ.助走

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9.転移者は馴染み、


〝初めに神が朝と夜を欲した〟

〝光よあがれ、闇よ沈め〟

〝そう唱えた瞬間から朝と夜が世界で生まれ、存在を許された〟


「……なんかさぁ、もうお前悪気とかねぇだろ?」


異世界生活も早十日。

ゴブリンのお陰で一生使いきれないくらいのお金も手に入り、家賃を払えたことでサンドラさんの家での生活も最初の頃より落ち着いてきた。やっぱりちゃんとお金を払えるとお世話になっているだけじゃないと思えるから気持ち的に楽だ。

ゴブリンの一件から、サンドラさんの馬車で毎朝港に連れて行ってもらっては異種族間の通訳を任されるようになった。三日前くらいからは同種族間で噂が広がったのか、貿易相手の方からも通訳を頼まれるようにもなった。

わりと大きな人の集落だというこの町では、毎日いろいろな種族が貿易にくるから仕事には困らない。中には、元々交渉している同士でお互いの取引の見直しや確認、再検討をする人たちも増えていて、本当に皆ふわっとした感覚で交易していたんだなと思う。まぁ数字と絵と身振り手振りしか方法がなかったらそうなるんだろうけれど。


船が返る頃の時間になったらその日の通訳料を貰って馬車で市場に向かい、買い物をしてから家に帰る。それがやっと日課と呼べるくらいには定例化してきた。

サンドラさんも仕事の予定がない日は港や買い物に付き合ってくれるし、わりと生活も楽しくなってきた。そして買い物を終えた後はモフモフ改め白狐のルベンと話すようになった。

最初は私の方が見かける度声をかけていたんだけれど、なんか姿を見せないとまた誰かに捕まっているんじゃないかと心配になって、一日一回ルベン探しゲームを市場でするのが習慣になってしまった。

サンドラさんは頻繁にはあんなことないから大丈夫だと言ってくれたけど、やっぱりあの騒ぎの後だと心配だった。それに白くてモフモフのルベンは小さくてもすごく目立つし、食べ物が売っている通りをぐるぐる歩いていれば必ず一回は会えるから見つけやすい。……途中で「ストーカーかよ」と言われたけれど。

でも、それからはルベンからも私を見つけてくれる。二人でご飯を買って、馬車でサンドラさんの家まで帰って、最初に話した時と同じ家の前の草原で話すようになった。


最初は私の方が一方的に元の世界の話をしていたけど、自分から話しかけるようになってからはルベンも自分のことを時々話してくれた。

ルベン曰く、この町から結構離れた獣人の狐族の村出身らしい。けれど、白い毛並みが自分だけで村八分状態だった。お金も稼げないし愛着もないから村を出て、獣人族以外の種族の集落に行っては今みたいな生活をしていたとか。

特に人間族は払いが良いらしく、ちょっとしたことで大きな見返りがあるから町を追い払われる度にまた別の人間族の集落を狙って稼いで、そしてこの町に十年以上前に行きついた。

サンドラさんのお父さん、つまりこの町の町長さんがルベンにも親切に仕事の面倒をみてくれたらしい。流石親子そろって器が大きい。

前回みたいに本人も意味がわからない内に捕まって集落から追い出されたことも何回かあるけれど、この町が一番長く平和に過ごせている。人間族は何言っているかわからないから、自分への悪口も聞こえないし何より自分の白い毛並み自体には気味悪がる様子もないから過ごしやすかったみたい。

まぁ人間からすれば、こっちの世界でもルベンの毛の色は「白色の狐いるんだー」ぐらいのものだろう。私の前の世界だったら確実に「白い狐可愛い!」と大人気だったろうに。というか獣人でモフモフで可愛いという時点で人気者待ったなしだ。


元の世界では白い生き物は神様の使いと言われること多かったし、ルベンも神獣の域だと思うけれどこの世界では違うらしい。

まあ海外とかでも国によって黒い鳥が不吉の象徴だったり神の使いだったり、ある国では神格化されている動物がある国ではハンバーガーにされていたり、デビルフィッシュが日本では大阪の名物に突っ込まれているし、集団の中でのそういう考え方の片寄りには慣れている。

海外研修とかでも味わったし、何より大学や学院の講義でもそういうお国柄の授業とか文化とか教養とか吐くほど履修したから私は比較詳しい。翻訳家になる為には著者やその国の常識や文化がわかっている方がいいと思ったから、授業にも真面目に取り組んだ。

実際、自分で原文と翻訳された本を読み比べるとやっぱり著者の癖や翻訳家の癖が出て面白かった。まさか異世界でその話を話すことになるとは思わなかったけど。


今まで獣人の村とか言語のわからない種族の集落ばっかり回っていたルベンは、すごく興味を持って毎回食い入るように聞いてくれた。やっぱり自分の好きなことや興味あることを話せるのは楽しい。

それに白い毛のことを気にしていた様子のルベンにも、そういう古い考えや思い込みが自分だけじゃないことを知って貰えたのは良かった。やっぱり自分だけとか、悪いものとしか思えない固定観念ばかりで刺されるのはいつの時代もどの世界でも辛い。


そうして今日も一仕事終えてからルベンと一緒に市場で買い物をして、いつものようにサンドラさんの家の前でくつろいでいた。今もサンドラさんから借りた人間族の伝承本を読んであげてたところだ。

市場でルベンと私が並んで会話している光景も最初は道行く人がドン引いていたけど、サンドラさんや港の人達からの評判が広まってからは取り敢えず不気味がられることも減った。

私もルベンと話すのは楽しいし、こうして一緒にのんびり芝生で話したりサンドラさんの家から借りた本を読んであげたりと安らぐのだけど、……ルベンはこの体勢が不満らしい。


「え?まだ駄目?私はもう定位置くらいの感覚なんだけど」

ぐんなりとした低い声を出すルベンに私は首を傾げる。

すると、今度は返事の代わりに溜息が返ってきた。確かに最初の時は色々不満も言われたけど、途中からは突っ込まれなくなったから良いのかと思った。


膝の上にちょこんと座ったまま脱力するように私の胸に寄りかかるルベンを見る。

両手で後ろからぎゅっとモフモフな毛皮ごと抱き締める私にとって安らぎそのものだ。ぬいぐるみ抱きをされたままのルベンは、空を仰ぐように顔だけを上に向け、長い鼻が私の顎にくっつきそうなほどに反らしてきた。そのまま下からのローアングルで青い瞳が私を映す。

眉間に皺を寄せたその顔は明らかな不満顔だった。


「ルベンはお前より年上だって言ったろ?」

ルベンの声が不貞腐れているように低い。むすっとした表情のルベンは、最近は自分のことを「俺」ではなく「ルベン」と名前で呼ぶことが増えてきた。もともとは私がルベンの事を時々「モフモフ」と呼びかけたり、うっかり呼んでしまったからだけど。


最初にルベンに声をかけた時に「待ってモフモフ!」と呼んだらすごい怪訝な顔をされた。

名前を知る前まで彼の事を心の中でモフモフと呼び続けていたと正直に自白したら、それから根に持っているぞと言わんばかりに自分のことを「ルベン」と一人称で呼ぶようになった。……それが余計に幼さっぽさに拍車をかけているんだけど。でも個人的にこれはこれで可愛いから良いかとも思う。

少し尖った目のルベンを見つめ返しながら、いつもの癖で彼の白い毛並みを頭から撫でてしまう。ごめん、その顔で怒っても歯をむき出しにしない限りは可愛いものは可愛い。


「そりゃあもう知ってるけど、……でも年齢の割合だけでいったら私の方が大人でしょ?」

以前も言った返答に、ルベンは私に鼻を突きだしたままフンと鳴らした。鼻息が顔にブハッとかかって一瞬だけ目をつぶる。そのまま「教えてやるんじゃなかった」と腕を組むルベンはぬいぐるみ抱きをされたまま後頭部で私は何度も頭突いた。


私より実は年上だと判明したルベンだけど、話を聞くと獣人族の寿命は人間の倍以上あるらしい。そして、ルベン自身も年齢だけでいえば私よりも年上だけど、獣人族の中ではまだまだ子どもに相当する。

私は若いとはいえ、一応人間では成人にされる方だし、今更ルベンに敬語を使うのも変な感じだからもう私の方が大人ということで貫かせてもらうことにした。

なので、大人の私が子どものルベンを抱っこするのも変じゃないという考えの元、ルベンと話す時はこうして膝の上に乗せてモフモフを堪能させてもらっている。

全身がモフモフのルベンはどんな高級ぬいぐるみも勝てないくらいの毛触りで、一回抱っこしたら病みつきになってしまった。

それでもやっぱり未だに不満が残るらしいルベンに話を変えるべく、私は別の話を投げかける。


「そういえばルベン。この世界って色んな種族がいるのに、全部村とか町とかばっかだけどそういう〝国〟とかはないの?」


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