イジメの現場を目撃する
高校に入学して一週間。活発系の華乃はバスケ部に、眼鏡っ娘亜衣奈は美術部に入った。
私はというと───
「とわ~!そろ、部活決めた?」
と、栗色のショートヘアを揺らしながら、華乃が私の席に駆け寄ってきた。その後ろから、黒髪ボブの亜衣奈も大きな胸をたゆったゆっと揺らしながら駆けてきて「えいっ!」と、自席に座る私に抱きついてきた。ふにゅんと、亜衣奈の二つの柔らかいおっぱいに顔面が挟まれる。
…女で良かったと思える瞬間だったりする。
「ア~イ~そんなにおっぱい押しつけたら、とわ死ぬぞ~出血死で」
華乃がそう言いながら、私に抱きつく亜衣奈を引き剥がす。すると、鼻血を垂らしてだらしない顔でニヤニヤする私が現れる。そして私は。
「もう我慢できなーい!亜衣奈、今日こそそのやわらかおっぱいもませろー!」
「キャー♡」
「やめろー!」
「ぐっふうっ!!」
両手で揉むような動作をしながら、おっぱいを揉もうとして亜衣奈に飛びつこうとしたら、華乃に顔面パンチをされた。
「いいじゃんか、おっぱいの1房や2房くらい~女同士なんだし~」
「『房』言うな!キショイワ!この変態親父風女子高生がっ!!てか、良くないわ!」
「え~?私は別にいいのに~。あじゃあさ、今度の中間テストの時に永久ちゃんちで泊まりで勉強しよ!その時にぃ~…私のコ・レ…いーっぱいモ・ミ・モ・ミ♡していいよ♡」
と亜衣奈は紺のブレザーの上から、自身のおっぱいをモミモミと揉んで見せながら、パチンとウィンクした。
「ふおおまじ!!?おいでおいで!そして、私と一緒にお風呂n…」
「入らせねーよ!!」
「ぐぶぉ!!」
声をあげながら、華乃はまた私に顔面パンチを食らわせた。
「いいじゃんか、おっぱいの1房…」
「その流れやったわ!もういいわ!」
~~~
「も~華乃が殴るから、顔がいたいんだけど~」
「あんたが変な茶番始めるからでしょ。なんだっけ…ああ、あんた部活は?何するか決めたの?」
「ああ~私、部活入んないんだ」
「え?じゃあ永久ちゃん帰宅部になるの?」
亜衣奈がそう聞いてくると、私はフッフッフと怪しく笑う。
「私はね───」
◈◈◈
校舎4階の、半分物置と化した空き教室。そこに乱雑に置いてあった段ボールや机などを端に寄せ、綺麗に掃除する。そして、端に寄せた机の内の比較的綺麗なもの(壊れてなかったり、足がガタガタとしてないもの)を4つほど選んで、教室の真ん中にその4つの机を置く。
「ふう、教室内はこんなもんでいいかな?」
教室を綺麗にすると、入り口の扉のところにを張り紙を貼る。
「…よし!後はあっちこっちにこのポスターを貼って─って、もうそろそろ18時じゃん!ポスターは明日貼るか~…」
と、独り言を言っていると。
「とわ~おつ~」
「永久ちゃんおつかれさま~」
華乃と亜衣奈が来た。
「2人も部活おつ~」
「おぉ~!あんなに段ボールとかごちゃごちゃに散らかってたのに、綺麗になってる!これ全部とわひとりでやったの?」
「ふっふん、そうだよ~」
と、私は腕組みしながら自慢げに言う。
「すごーい永久ちゃん!」
「でしょでしょ~!もっと褒めて~!」
「『お悩みや愚痴、言いたいけど中々言えないことなど聞きます』あんた本当に、こんなカウンセラーみたいなことできるの?」
と、華乃は教室の扉に貼られた張り紙を読みながら言った。
「うーん、カウンセラーっていうか…解決するとかはできないかもだけど、聞くことだけならできるかな~…って。話すだけでも、心が軽くなったりすることってあるから。それに、身近な人には話せないけど、知らない人には話せるっていう人も結構いるみたいだし」
不満や不安、言いたくても言えないこと。それらが心に溜まりすぎると大きなストレスになり、そのストレスは体外に出てくる。その体外に出てきたもの…負霧が出始めると、人は誰かやもしくは、自身にそのストレスをぶつけ始める。最悪、人や自身を殺めることもある…
だから、その負霧が出る前に、もしくはその負霧を少しでも薄くする方法は何か無いかな?と考えていたら、今回のことを思いついた。
(ただ─…私には『言の葉の力』は無いからなぁ。言の葉の力があれば、尚更いいんだけど。ていうか、その言の葉の力さえあれば───)
ぼんやりとそんなことを思っていると。
「ねえ、中庭で何かやってるけど…あれ、イジメじゃないかな…」
亜衣奈が中庭に指をさしながらそう言った。中庭の方を見ると、数人の男子が誰かを囲んで殴ってるようだった。
「─あの人、確か…」
殴られているのは、あの日バスの中で濃い負霧を纏っていたあの男子だった────