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重症患者 ③

 降音に行くと、一人だけ、寂しそうな後ろ姿を見せた輪廻がいた。久しぶりに降音に来たからか、とても身体が空間に馴染むまでに時間を要した。

 けれど、馴染んでいた色彩が抜け出してしまっているという事に気がつくのにはあまり時間を要さなかった……。降音は多層的な空間だった。現実に存在する様々な建物からは冷たさを感じる――少なくとも温かみを感じることはないのだけれど、此処の場所に来ただけで心がじんわりと回復してゆく様が感じられる。時折空間に浸って、自分を整える時にも使うが、殆どの場合は互いに報告する内容がある場合や、任務(なんて大層なことはしていないけど)の内容を知るために来たりする事がほとんどだった。


 夜に浸された街並みを、人工物の列挙を、輪廻と二人で眺めながら、輪廻と落ち着いた会話を自分はした。


「どう、最近は、元気だったりするかい? 中々最近会えなかったから……。任務もやっぱり日によって多い時も最近はあるし、やっぱりotibaが心配な所もあるけど、任務をこなすことで救われていることはこっちも分かってるし、これからも頼むよ」


 自分は細かく頷いた。


「どうなんですか、最近の政府の動向を含めた世界の動きは」


「どうなんだろう。……僕がこんな事を言うのは無責任に聞こえるかもしれないけどさ、本当に歪で湾曲した部分が多くて、それを信じていいのか分からないって状態なんだよ。勿論、民衆の、人々の政府に対する怒りみたいなものはやっぱり過激的な方向に動いているけど、でもそれ以外は別に、どうってことないよ。変わらない、昔も今も。まぁ、少し変わったことを言えば、過激的な方向に向いた民衆達の行動がデモにまで発展していることくらいと、otibaがまた痩せちゃったことくらいに思えるよ。どう。ちゃんと食べてるのかい?」


 そう言いながら輪廻は自分の胸板を触った。トントン、と二回、そうやってそこが胸板であることを確認するように。


「まぁ、少しずつ。食べたり食べなかったり、その割に勃つものは勃ちますし出すものは出しますけどね」


「それで、どうだったの。フードコートでの一件はやっぱりコールド・オブ・ナーの仕業だったりするの? 僕は個人的にそうだと思っているけど。」


「そうですよ、大体は。でも、普通じゃ考えられないくらいの効果がある催眠ガスを使う位ですから、全くそうだとは言えない。見てたんじゃないですか? いっつも、見てるくせに。でも一つ違うところがあって、それが管理番号の埋め込まれた人間がいたってことなんです。……その表情を見ると、やっぱりコールド・オブ・ナーがやったことだっていうことは分かっていたんですね」


「あぁ、勿論ね。でも、管理番号に埋め込まれた人間がいたってことは知らなかった」


「でも、コールド・オブ・ナーがいたことは前情報通りでしたね。でも、何をしていたんだろう?」


「言霊を探してたんだろうな。その、otibaが今手に握っている言霊を」


 そうして、輪廻は自分が握っていた〝言霊の母音のうちの一つの言葉の刻まれた手のひらサイズの石版〟を手に取った。

 凄く嬉しそうな表情をしていた。天井に掲げると子供のような無邪気な笑顔を自分に見せた。


「やっとこれで世界の一部が戻るよ。ありがとう、otiba」


 自分は軽く頷いて、席を立った。その後、色々と問題やこれからの行動の話しを少しだけした後、自分は足早に家へと帰った。


 ――そうしてその日の夜の時間帯だろうか、嵐が街を飲み込んだ。自分の家も例外ではなかったし、酷く鬱屈とした雰囲気がより一層深まった気がした。その夜はぐっすりと深層に落ちることが出来た。世界の大事な一部分が、戻ってきてくれたような気がした。

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