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心中お察ししますっていうか、もうそいつは死んでるんだよ ⑥

 蓮花がベットの上に散乱した自分の服をたぐり寄せようとしたとき、自分はシャワーを浴びた後、虚脱感を抱えながら、一口だけ、人工フルーツジュースを口に含んでいた。


 味なんてものは感じられなかった。それを思いたくはない自分もいたことは確かなのだろうけど、蓮花の身体から自分のスペルマの匂いのようなものが感じられたから、自分は現実から意識を遠ざけた。蓮花に言う。


「ごめんね」


 蓮花はなにも答えなかった。


 ただ、死んだように眠っているように――いいや、本当に死んだのかもしれない。

 自分は呼吸を吐き捨てる。転がる錠剤と愛の残骸はとてもリアルで、けれども愛なんてものが自分達のセックスにあったのだろうかと、不安が込み上がりながら素直に思った。


 郵便受けに突き刺さる鋭利な溜息さえ、今の自分にはとても無味無臭の様なもので、まったく痛くも痒くもなければ、面白くも美味しくもない。自分は家の外に一度出て自動販売機で買う事の少ないジュースを買って、帰ってきてそれを飽きるまで飲んでから、ベット上の蓮花の隣りに身を置いた。蓮花にも一本渡したが、蓮花はそれに触れる事すらなかった。


 その夜は、蓮花と自分はずっと〝シビトについての話し〟をした。自分がシビトについて話すことはそこまでなくて、ただ、聞いている方が多かった。蓮花は〝まだシビトがまだ生きている前提〟の口調で昔話や想い出を語っていたし、そしてその話しぶりは洪水の様に自分に降り注いだ。絶え間なく降り注ぐ洪水にだけは痛みを感じた。

 シビトとの昔話の話が会話の大部分を占めていた。まるで壊れた玩具の様に話し込み、言葉が紡ぎ出される度に自分にまるで罪悪感に似た感情を覚えさせるのだ。


「ねぇ、貴方って誰かを愛したことって、ある?」


「どうだろう。恋愛的な意味で言うとない……かな。でも、尊敬だとかそういう事を含めたらあるよ。」


「誰よ?」


「シビトかな。はぐれ者みたいな自分を愛してくれたし、こんな自分を好きでいてくれた。まぁ、そんなの男と男の間に生まれる友情以外のなにものでもないのだろうけどさ」


「優しかった?」


「優しかったよ。」


「どのくらい?」


「世界がそれだけで平和になってしまうくらい。芸術や小説が廃れてしまうくらい……優しかった」


「でも、人間皆がみんなそうじゃない。そうじゃない人の方が多いわ」


「そうだね。でも、まぁ……だからこそだと思うんだけど。父性だとか母性だとか優しさは、本当に尊くて、凄くて、世界を平和にさせるだけのものがあるんじゃないかって思ってるんだ。まぁ、父性だけじゃまた怖い世界になっちゃうかもだけど。でも母性があればそうじゃない。母性は世界を救うよ」


「でも、母性だって、優しさだって行きすぎたら迷惑になっちゃわない?」


「……別にそれで良いんじゃないかな。良い迷惑のかけかたをすればいいんだよ」


 そっか、ただそれだけを蓮花は呟いた。


 ――そんな会話に、少しだけ安心を得た。

 泣き止んでからも、時折笑顔を見せるようになったし、自分もいつも通りの蓮花に戻ったのだと思っていた。けれど違った。それは自分の思い違いでしかなく、気持ちは自分に向いているのではなくてシビト本人に向かっているものなのだなと感覚で察する事が出来た。蓮花にどう接すればいいのか、一瞬、分からなくなった。

 混乱に、胸の騒ぎを覚えた。重い憂鬱とした溜息が五感を撫でた。取り敢えず残っているジュースの残り半分に手をつける。飲み切った後も、胸の騒ぎは落ち着くことを知らなかった。


 蓮花の表情が次第に苦しそうになってるのが分かった。それは、泣いていた時の顔に近しい表情で、そして、自分が気がついた時にはもう蓮花は大粒の涙をベットにこぼしていた。

 今度は蓮花から勝手に服を脱ぎ始めた。〝それ〟に怯えているのは自分の方だった、喉元に混乱を押し込められた様な息苦しさを感じた……。蓮花の裸体はとても心を揺らした。妖艶な残り香が、下半身を刺激する。蓮花と自分は顔を見合わせる。――自分は何かそれまで自分を留めていた糸がぷっつり切れてしまったように服を脱いだ。


 もう自分の理性を越えて下半身は身勝手に濡れていて、それは蓮花も同じだった。

 唇を吸った。蓮花の少しだけ起伏のある乳房を触って舐めた。頬に唇を押しつけた。口を開けた蓮花の口元にペニスを近づけるとそれを蓮花は舐めた。蓮花はとても嬉しそうに舌の上で白濁を転がしていた。ヴァギナ近くにペニスを近づけると、彼女の中に自分は入れた。

 挿入されたペニスを微笑を浮かべながら受け止めたその表情に心底興奮した。互いの表情を見ながら腰を振った。手を握った。唇を近づけるとキスをした。蓮花の口の中には未だに自分の精液が残っていた。自分は蓮花に強く腰を振りながら互いの細い身体を抱き合わせながら中に出しそうになった瞬間に、蓮花は「大好き」と自分に向かって言った。そして、そのまま自分は蓮花の中に出した。


 けど、快楽を差し置いて自分はひとつ大きな違和感を覚えた。蓮花は、ずっとシビトの名前を呼んでいた。シビトの事を愛していると大好きだと言いながら自分と身体を抱き合わせたのだ。蓮花を抱きしめる身体に一層力が入った。一度中に出した後も、蓮花は自分という名のシビトを離そうとはしなかった。無造作に自分のペニスを蓮花は勃起させると、蓮花は独りよがりなセックスをし始めた。シビトの名前を呟きながら、シビトとしたセックスの思い出を語りながら。


 シビトはこうしてくれた、ここを愛してくれた、こうやって抱きしめてくれた……。

 身体は彼女の身体を求めていた。反応する身体は、それから二回、蓮花の中に出す事をした。

 終わった後に、蓮花が自分のヴァギナをティッシュで拭いている様子を見ている内に、自分の心には虚しさが湧いてきてしまっていた。急激に、複雑で単純では無い気持ちが僕にやってきて、自分は胸元に涙を落とした。胸元に落ちた涙を、未だに蓮花は知らない。

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