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心中お察ししますっていうか、もうそいつは死んでるんだよ ⑤

 題名なんてものも付いてはいない日常の中で、朧気になにかを待っている。


 それがなんであるかは分からない。期待と焦燥の狭間で身をうずめていると、次第に心にぽっかり、しっかりと体感できるくらいに大きい穴のようなものが感じられるようになった。

 軟弱で、仮にそれが人間だとしたら壁に寄りかかっていないと立っている事も出来ない程のメンタルを抱えていると人間であると思うし、自分はいつしか不純なものを愛しそうになっていた。

 勿論最初はそんな自分を信じようとはしなかった。けれど、それが〝自分〟であることを体感すればするほど、押しては返す波の様に自分は不純と一体になろうとしていた。


 それを、不純と呼んでみてはいいのかと問われれば、いいや、よくない、本当はそうは呼びたくないんだ、と思うところがあるんだけれどそれは不純以外のなにものでもないからそう呼んでおいた。それが、行動として現れたのは八月が半ばに差し掛かろうとする時だった。(先人達の書物を読めば分かることなのだが)、四季というものが世界にあって、春夏秋冬の季節を人々は楽しんだと。だが今は季節は(四季と呼ばれるものはあるし、一応多少の区別くらいはつくものではるけれど)消え失せた。

 いつしか、冬には夏が住み着いた。多少の違いはあろうと、実質的には冬は夏であった。――八月の、まるで生温かいチョコレートを下腹部に無理矢理押し込まれたような季節感に自分はいつしか辟易していた。それは毎年の事だった。けれど、今の自分には蓮花がいた。



 ――自分が記憶フロッピーディスクの売人としての勤めを果たし、いつものように家に帰るといつもは蓮花が待っているはずなのだが、今日は違っていた。

 蓮花は、記憶フロッピーディスクを使って、自らを本物の睡眠の中――昏睡へと誘われていた。焦る余裕もなかった。自分はすぐさま蓮花の身体に触れ、脈拍を手で測った。正常だった。そうすると、まるで刹那に起動を促されて起動をした頭が一瞬にして作り出した思考回路の山にアドレナリンの嵐が襲いかかったかのように、被害妄想の消滅を感じた……。死んでいなかったからよかった。


 自分の気持ちが追いついていくと同時に蓮花の身体も同時に冷却されていくのが分かった。――勝手に使うなよ、って、何回もいったはずなのにな。そこから蓮花が起きるまで、自分はどの記憶フロッピーディスクが使われたのかを知ろうとしてレコード型の記憶フロッピーディスクからの入力機械を探った。

 でも蓮花の腕がその機械を隠していたから自分は蓮花が起きるまで大人しく待つことにした。蓮花がなにか独り言のようなものを呟いていたから、(最初は無視しようとはしたんだけれど)自分はなにを呟いているのか彼女の口元に耳を近づけて聞いた。


 〝――シビト……〟


 シビト……それが、自分が唯一と言って良いほど仲良くしていた友達の名前と一緒であることはすぐに気がついた。

 もしかして、と思って、自分は記憶フロッピーディスクをしまってある棚を再度確認した。じぶんが大切にしている記憶フロッピーディスクはまだそこに、当たり前のように存在していた。

 安心した。でも、じゃあなんでだろう、彼女がその名前と知っている事に妙な気持ち悪さを喉元に感じた。

 蓮花が起きたのはそれから三十分後の事だった。機械と自らを繋ぐ針を蓮花は抜いた。身体を起こすと、ごめんね、と一言彼女は呟いていた。


「いいよ別に。まぁ、正しく接続しないと最悪この世界に戻ってこれないとかあるからさ、それだけ気を付ければいいよ」


「うん、ごめんね」


「いいってば」


 そして自分は思い出したかのように誰のどの記憶を使ったのかを訊くと、蓮花は〝分からない〟と。ただ、三百六十九だった、と製品番号だけ、言った。


「ねぇ、眠っている最中にさ、シビトって名前が出てたけど誰のこと? 別に、答えたくなくなかったら答えなくてもいいけど……」


 蓮花はくしゃくしゃにした髪の毛の内部をまさぐって何を言い出そうか迷っているような表情を見せた。一呼吸置いて、蓮花は答えた。


「仲良くしていた男の子の名前よ。それ以上でも以下でもないわ。ごめんね、それしか答えられない。」

「そっか。でもさ、まぁ……それがなんであろうとどうでも良いかもしれないけど、自分も知ってるんだよ。シビトっていう名前の人間」


「otibaも?」


「そう、otibaも」


 蓮花は心底驚いたような表情をしてその表情は緩慢なこの空間の中でとても長らく続いた服副産物の様に感じられた。


「知ってるの? シビトのこと」


「多分ね、同じ人間だと思うよ。自分の唯一と言って良いくらいの友達だったんだよ、シビトは。でも、仲良くしている女の子がいるなんて聞かなかったなぁ。十八歳でしょ? シビトって、今の年齢で言えば」


「そうね。ええ、そうよ。確かに十八歳だし貴方と同い年ってことになるけど……本当に? ……本当に、同じシビトなの? 私は最近というか、ここ二、三年くらい会ってはないけど、会おうと思えばすぐに会う事が出来る気がするし……ねぇ、一回本気で呼んでみない? 私は呼んでみたい。貴方はどう?」


「いや……いいや、恥ずかしいし、別にもう執着や未練があるわけじゃないんだ。過去に置いてきたものを今また掘り返すような事をするなんて自分には合わないしね。それに死んだ人間に〝生き返れ〟って、なんか嫌だし」


 自分はそう言った言葉の中に〝問題点〟のようなものがあろうとは思わなかった。それは、いつ振り返ったって同じだろうと思うし、いいや〝いつ振り返っても同じなのだ〟。けれど、自分のそんな後付けの思案は、蓮花の胸中からしたら〝毒〟でしかなかった。


「ねぇ、死んだ人間…………って、どういうこと? まだ生きてるんじゃないの? それに、彼から一年前くらいに手紙も来たし……そこにも『愛してるよ』って、書いてあったけど? いつ死んだの? ねぇ……死んだってどういうこと……?」


 なんと答えればいいか分からなかった。そして自分の言葉のどんな部分に、刃が装着されていたのかが本気で知りたかった。けれど、それを現実は許さなかった。蓮花は枕元に置いてあった記憶フロッピーディスクと身体とを繋ぐ機械を放り投げた。

 ガシャン! という音が狭い空間いっぱいに響き渡った。


 蓮花が泣き出してからというもの、自分はただ、蓮花を抱擁する以外に出来ることなどなかったし、それが正解であると誰かに言ってもらいたかったし、自分がやっていること、言ってしまった事を肯定しようとしている自分の汚さみたいなものも含めてゴミ箱に捨ててしまいたかった。

 蓮花の涙が身体いっぱいに染み込んだ。彼女の匂いは自分の全てを包み込み、どこか遠い、遠い彼女と僕だけの居場所に連れていってくれそうな気がした。彼女は泣き止むことを知らなかった。嗚咽が混じってくる頃には、いつしか自分達の身体は密着を優に果たしていた。


 勃起したペニスが蓮花の下腹部に当たった。次第に彼女の泣き声と嗚咽しか聞こえなくなっていって、何か他のものが聞こえたと思ったらそれは耳鳴りだった。でもそれも気がついた頃には嗚咽と泣き声の様相にかき消されていた。

 それが自分の人生の中で正しいだなんて絶対的な信頼を得ることは出来なそうだし、もし他者から〝君のした事は正しかったんだよ〟と言われたとしても、自分はそれを素直に受け入れようとはしない。けれど、それが正しかったと信じたい。


 自分は、蓮花の服を脱がした。それは次第に進んでいき、最後には互いに全裸になっていた。そして、自分は泣いている彼女の濡れている性器を見つめて、とても興奮をした。彼女の身体はとても細く、そして、自分の身体も白く細かった。自分達の細い身体を交わらせた。そして、自分は勃起させたペニスを蓮花の濡れている女性器の中に入れた。自らのオスを振りかざした。

 蓮花は挿入されると一度だけ全ての音という音を空間から消し去るように一度泣き止んで、そして、自分が蓮花の膣に入れたり出したりする動きを始めると、また泣き始めた。

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