もう、いいんだ ⑥
自分は、家に蓮花を置いておくことにした。
別に深い理由なんてものは存在するはずもないし、ただ、そう思っただけだ。
数日ほど一緒に過ごして分かった事があった。それは〝蓮花が癇癪を植えつけられているように世界との同調をし始めてしまう人間である〟という事で、それは夜に占められているこの世界での夜の時間帯にだけに現れ、そして、自分を含む〝空間〟の質感、温度までもを浸食する負の感覚がそこに存在していることも事実だった。
自分もそれに引っ張られそうになったりもしたけれど、なんとか蓮花の持つ負の感覚からの逃亡をすることが出来たからさほど影響はなかった。
ベットの上で、一緒の布団にくるまり、ほとんど似通っている生活をし――その中の自分は四、五回のオナニーをし、恐らくその全てが蓮花に感じ取られていたのだろうなという感触を得る事が出来て、射精の残骸がやけに生々しい様相を自分達に提示していた。否応なく、それが必然で現状を構成するのに必要不可欠な事実だと誇示をしつける様に。
蓮花の癇癪は日に日に酷くなっていった(本人の中では良い状態なのかもしれないが、少なくとも調子は下降をずっと続けているように見えたし――それは事実だった)。
蓮花との付き合い方をどうしていいものかと思いながらの数日間だった。数日間経った後で分かった事だが、蓮花に対しては〝ほっといてあげる〟事が一番適切な対処であると自分は感じて、そう行動した。
涙がベットを酷く濡らしていた。自分は、一緒のベットに入っている間も泣いている蓮花の様相が背中越しにでも伝わってきたし、けれど無視に近しい処置を取った。それが、一番適切であると信じていたから。壊れたように喋り続けていたりした時には、本当に〝タカが外れた〟のだと思った。
それが、ある種この世界に産み落とされた人間の〝正常〟な形であるとも思った。
蓮花はまだ良い方で、必要とされていない人たち――別に産まれなくとも世界とってはなんとも痛くもかゆくもない存在の人間達――に比べたら、少しばかりは〝マトモ〟に感じられた。自分は、そんな蓮花に一度だけ頬にキスをした。すると蓮花は一度シナプスが切断されたように泣き止み、そして、また泣き始めた。




