表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9

異文化交流 5 私も民泊しに来たよ♪

六月二十四日、月曜日。

和春達の通う高校では期末テストまであとちょうど一週間に迫ったこの日の放課後、和春は俊也と秀則と本屋などに寄り道してしまい夕方六時過ぎに帰宅した。

自室に足を踏み入れるや否や、

「E・カズハル、E・ブリトーがチラシから取り出した新作ゲームやろうぜ」

「和春お兄ちゃん、このゲームでいっしょに対戦しよう」

 ハロハロとパンナコッタが懐いてくる。

「こらこら、和春君は期末テストが間近に迫ってるのよ。あまり邪魔しないようにしましょうね」

「カズハルくん、期末テスト頑張って。今日からテスト終了日まではワタシ、カズハルくんにプレイを求めるのは控えるようにするよ」

「和春さん、テスト勉強の邪魔になるようならば、わたし達はテーブルクロス内に戻っておきますね」

「普段通りにしてくれていいよ。みんながいる方が部屋が快適な環境になって、勉強が捗るし」

「そう言ってもらえてわたしはなまら嬉しいです♪」

ボルシチが満面の笑みでこう言った直後、

 ピンポーン♪ 

いつもの朝のように玄関チャイムが聞こえて来た。

「和春くん、おば様。こんばんはー」

 桜子がやって来たのだ。

やっぱり来たかぁー。

 和春は気まずい気分に陥る。

 テスト直前になると桜子は毎回のように、テスト範囲の重要ポイントなどを教えに来てくれるのだ。中学一年一学期中間テストの頃から続けている桜子の習慣となっている。

「和春ぅ、桜子ちゃんが来てくれたわよーっ。下りてらっしゃーい」

「はいはい」

 母に叫ばれ、和春は部屋から出た。階段を下り、玄関先へと向かっていく。

「和春くん、今日は私、お泊りするね」

「えっ!!」

 桜子からの突然の発言に、和春は目を大きく見開く。

「和春、よかったわね。今夜は桜子ちゃんがお勉強、付きっ切りで指導してくれるって」

 母はにこやかな表情で伝えた。

「和春くん、今夜はよろしくね♪ 外泊許可は播野先生に取って来たよ」

「べっ、べつに、そこまでしてくれなくても……」

 和春は困惑する。

「だって私、久し振りに和春くんちでお泊りしたくなったんだもん。この間、英語の授業でパジャマパーティが出て来たでしょ、私もやりたいなぁって思ったの」

 桜子は満面の笑みを浮かべながら言う。大きめのトートバッグも手に持っていて泊まる気満々な様子だった。

「そんな理由かぁ。泊まるのはやめて欲しいんだけど」

 和春は納得出来たが、やはり動揺していた。

「桜子ちゃん、自分のおウチのようにくつろいでね」

 母は温かく歓迎した。

「はい! お世話になりまーす。英語で言うとメイクユアセルフアットホームですね。和春くん、あの世界地図柄のテーブルクロスもう一回見せてね」

 桜子は靴を脱いで廊下に上がると嬉しそうに階段を駆け上がり、和春の自室へ向かっていった。

「あっ、ちょっと待って、桜子ちゃん」

 和春は大声で叫ぶも桜子は聞く耳持たず、和春の自室に入ってしまった。

 これも毎度のことなのだ。

「どうしたの? 和春。今回はやけに慌てて。和春が持ってるオタクっぽい物、今さら見られたってなんともないでしょ?」

 母はにやにやしながら尋ねて来た。

「確かにそうだけど……」

 和春はそう答えて、急いで二階へ駆け上がった。

 自室の扉を開けると、

「やっぱ何度見てもいい物だね♪」

 桜子はまたもローテーブル上に広げられていたのを楽しそうに眺めていた。

よかったぁ。あの子達、ちゃんとテーブルクロス内に戻ってる。

 和春はホッと一安心したものの、

飛び出して来ないだろうな?

すぐにこんな心配がよぎってくる。

「じゃ、いっしょにテスト勉強始めよう」

「わっ、分かった」

 和春が椅子に座ると、

「和春くん、もう少し詰めてね」

 椅子の僅かなスペースに、桜子も座ってこようとして来た。

「あの、桜子ちゃん。そんなに引っ付かなくても」

「でも、落ちそうだし。じゃあベッドの上でやろう」

 桜子はそう言うと、和春の腕をぐいっと引っ張った。

「わわわ」

 和春はベッドの上に座らされる。

「和春くんのベッド、ふかふかー♪ 私、今夜は和春くんと同じベッドで寝るね」

 桜子はうつ伏せなって足をパタパタさせながら言う。

「ダッ、ダメだよ」

 和春は嫌がる素振りを見せる。

「あーん、お願ぁ~い」

「でもぉ」

「和春ぅ、桜子ちゃん。夕飯が出来たわよーっ!」

 気まずい雰囲気を打ち消すかのように、一階から母に叫ばれた。

 こうして二人はキッチンへ。

「今夜は外国のお料理より取り見取りよ。ちょうどイオンで世界の食卓フェアやってて」

 母は機嫌良さそうに伝える。晩御飯のメニューはジャンバラヤ、ピロシキ、タンドリーチキン、ドネルケバブ、フォー、ヴィシソワーズ。

デザートにゴマ団子、マカロン、ベルギーワッフルだった。

「わぁっ。とっても美味しそう♪ 全部食べ切れるかな? ありがとうございます、おば様。グローバルな食卓ですね。あのカフェみたいに」

 桜子は満面の笑みを浮かべる。

「……豪華だな」

 和春は妙に気まずいで椅子に座った。

「桜子ちゃんが今日泊まりに来ることは昨日のうちに聞いてたからね」

「……そうなんだ」

「おば様、ナイショにしててくれてありがとうございます♪」

「どういたしまして。桜子ちゃんはここに座りなさい」

 母はにこにこ微笑みながら、和春の向かい側の椅子を差した。

「はい、失礼します」

 桜子は嬉しそうにその場所に座る。

 そこ、母さんの席なんだけどな。

 和春はちょっぴり迷惑がるも、ともあれ食事開始。母は普段は誰も使ってない予備の椅子に座った。

二十分ほどのち、三人が食事を終えようとしたところ、

「ただいまー」

 父が帰って来た。まもなくキッチンにやってくる。

「おじゃましてます。おじ様」

「やあ桜子ちゃん、お久し振りだね。ますますかわいらしくなって。和春の嫁さんに最適だな」

「おじ様ったら」

 桜子は頬をほんのり赤らめた。

「何言うんだよ、父さんは」

 和春は当然のように迷惑がる。

「ハハハ」

 父は上機嫌で笑いながら、スーツから普段着に着替えるためリビングへ。

「ふふふ、和春も照れてるわよ。桜子ちゃん、お風呂ももう沸いとるから、このあとどうぞ」

 母は笑顔で伝える。

「ありがとうございます。でも、和春くん先にどうぞ。私、夕飯のお片づけを手伝うから」

「あら悪いわね、桜子ちゃん」

「いえいえ」

「じゃあ、俺、先に入るね」

 和春は夕食を平らげるとすぐに椅子から立ち上がり、風呂場へと向かっていった。

風呂椅子に腰掛け、髪の毛をこすっている最中、

「アロ~ハ、E・カズハル!」

 全裸のハロハロが突如彼の目の前に現れた。

「あの、ハロハロちゃん。俺の入浴中に小さな昆虫に変身して入り込んでくるのはやめようね」

 和春は優しく注意する。こういうことが度々あり、和春はもはや驚く様子は無かった。

「生E・サクラコ、本当にかわいいね。ねえE・カズハル、今夜はE・サクラコとベッドの上でエッチなことするんでしょ?」

「……何言ってるんだよ。すっ、するわけないだろ、そんなこと」

 にやにや顔で質問してくるハロハロ。和春は焦り顔で即否定した。

「E・カズハル、せっかくE・サクラコが民泊しに来てくれて絶好のチャンスなのにつれないなぁ。普通現実世界の男にとっての女の幼馴染っていうのは、お互い仲良いのは幼少期くらいのもので、思春期を迎える頃には敬遠疎遠されるのが普通なのだ。E・カズハルは現実世界の住人のくせにラブコメマンガやエロゲー、ラノベの設定みたいに恵まれてるんだから、E・サクラコを大切にしてあげなきゃダメだぜ」

「大切にするってそういうことじゃないだろ」

 ハロハロの力説に、和春が迷惑顔で反論していたその時、

「おじゃまするね、和春くん」

 浴室扉がガラガラッと開かれた。

「うわぁっ!」

「ひゃぅっ!!」

 和春とハロハロはびくーっと反応する。桜子が入って来たのだ。

「あれ? 女の子……」

 桜子はハロハロの方に視線を向けた。

 その瞬間にハロハロは何かの小さな昆虫に姿を変え、目にも留まらぬ速さで窓から外へ逃げていった。

「ねえ、和春くん。さっき南国風の女の子がいなかった?」

 桜子はきょとんした表情で尋ねてくる。

「きっ、きっ、気のせい、気のせいだよ」

 和春が慌てて説明すると、

「……そうだよね? まあ、いいや。和春くん。お背中流すよ」

 桜子はあっという間に普段の表情へと戻った。何事も無かったかのように和春に接する。

「あの、桜子ちゃん。よく俺が入ってるのに平然と入って来れるね」

 和春は桜子から目を逸らそうとする。 

 桜子はハワイ風のハイビスカス柄ワンピース水着姿だったのだ。

「昔はよくいっしょに入ってたんだし、全然抵抗ないよ。それに私、水着着けてるし、和春くんだって前隠してるでしょ。いっしょにプールに入ってるようなものだよ」

 桜子は和春の下半身をちらっと見て、にこやかな表情で主張した。

「そういう問題じゃないって」

 それでも和春は居た堪れなく感じていた。目のやり場にも非常に困ってしまう。

        *

「どうしよう。E・サクラコにテッポウウオが獲物を狙って捕えるくらいまでの短い間だけど姿見られちゃったよ」

 和春の自室に戻ったハロハロは苦笑いで四人に報告した。

「あらら」

「ハロハロお姉ちゃん、間に合わなかったんだね」

 ムサカとパンナコッタはハハッと笑う。

「その後は、何事も無かったかのように普通に接してるけど」

 ブリトーはモニター画面に入浴中の桜子と和春の様子を映した。

「幸いなことに桜子さんは、お部屋の様子を見る限りメルヘンチックなお方でしょうから、わたし達の姿が見られても全く問題ないかもです」

 ボルシチは冷静に分析する。

「それじゃあさ……」

 ハロハロはあることを提案した。

 それから少し時間が経過した浴室内。

「和春くん、男子の水泳は大変だよね。五〇メートル途中で足付かずに泳ぎ切らないと夏休み補習に呼ばれるみたいだし。女子の方はノルマないし、遊びみたいなものだよ。和春くん、一学期最後の授業までに泳ぎ切れそう?」

 桜子は湯船に体育座りをしてくつろぎながら、嬉しそうに話しかけてくる。

「まあなんとか。じゃあ、俺、もう出るね」

「和春くん、もう出るの? 早過ぎだよ」

 桜子は困惑顔で注意した。

 和春はハロハロが姿を消してからすぐに逃げ出そうとしたのだが、桜子に捕まえられ、背中を洗われさらに湯船にも力ずくで入れられてしまったのだ。彼は嬉しいという気持ち以上に恥ずかしいという気持ちの方が遥かに凌駕していた。

「やっほー♪ 和春。桜子ちゃんも来てるんでしょ?」

 そこへつい数分前に帰宅した雪乃もすっぽんぽんで乱入してくる。

「あのっ、雪乃ちゃん、素っ裸はダメです。気遣いが足りてないです。雪乃ちゃんにとっては幼く見えるかもしれませんが和春くんは年頃の男の子なので、せめてタオルは巻いてあげて下さい」

「あぁんっ! もう、桜子ちゃん大胆ね」

 桜子は慌てて湯船から飛び出し、雪乃のおっぱいを両手でぎゅぅーっと押さえ付け壁際に押し込む。

「桜子ちゃんも気遣い足りてないと思うけど」

 和春は困惑顔で主張しながら湯船から出て、桜子の背後を通り過ぎ脱衣場へと逃げて行った。

「桜子ちゃん、和春見栄張って逃げてっちゃったし、水着脱いじゃいなよ」

「そうですね。脱いじゃおっと♪」

 こうして桜子もすっぽんぽんに。

「おう、桜子ちゃん、いいヌード♪ めっちゃデッサンしたい。ますます成長したね」

「雪乃ちゃん、そんなに見つめられると恥ずかしいです」

「ごめん、ごめん。おっぱい、触っていいかな?」

「それは、ちょっと……でも、私も雪乃ちゃんのおっぱいしっかり触ってしまったので、ちょっとだけなら、いいです」

「サーンキュ♪」

「ひゃぅっ! 雪乃ちゃん、優し過ぎてかえってくすぐったいです」

「めっちゃ触り心地ええ♪ もっと欲を言えばお顔埋めて吸い付きたぁい」

「それは、さすがにダメです」

「冗談、冗談」

こんな会話が聞こえて来て、

姉ちゃん、桜子ちゃんに猥褻行為はやめろよ。

和春はついつい耳をそばだててしまう。罪悪感に駆られた彼は籠に置かれてあった雪乃の薄ピンク系統の下着類はもちろん、桜子の白系統の下着類からも目を背けてバスタオルで体を拭き、急いでパジャマに着替え、リビングへやって来ると、

「あら和春、十分くらいで出てくるなんて烏の行水ね」

母から微笑み顔で突っ込まれる。

「だって母さん、桜子ちゃんと姉ちゃんが……」

「和春ったら、小学四年生頃までは雪乃や桜子ちゃんとよくいっしょに入ってたくせに」

 かなり気まずそうな和春を眺め、母はくすくすと笑う。

「大昔の話だろ」

 和春は当然のように不愉快になった。

「桜子ちゃんが昔みたいにいっしょに入りたいって言ってたから、入ったらって言ったのよ。そしたら桜子ちゃん嬉しそうに走っていって」

「母さん、その時引き止めてくれよぅ」

「どうして? べつにええやない。幼馴染同士なんだし」

 和春と母とでそんな会話をしていた時、

「雪乃ちゃんともいっしょに入れて私のお風呂タイムはいつも以上に楽しめました♪」

「うちも久し振りに桜子ちゃんと裸の付き合い出来てめっちゃ嬉しかったわ~」

 桜子と雪乃も上がってリビングへやって来た。

「俺はとても疲れたよ」

 和春はげんなりとした表情だ。

「それじゃ和春くん、お部屋に戻ってテスト勉強の続きやろう」

「うっ、うん」

「二人とも頑張ってね」

 雪乃に見送られ、和春が前、桜子が後ろを歩いて二階へ上がっていき、

「アロ~ハE・カズハル、E・サクラコ」

「うわぉっ!」

 部屋に入った瞬間、和春は思わず仰け反った。

 和春のベッド上に置かれた例のテーブルクロスから、世界の料理キャラ達の住居が浮かび上がってハロハロを先頭に五人全員、飛び出て来たのだ。

「ちょっ、ちょっと、あっ、あの」

「あらまっ! 美味しそうな香りもしてる」

 慌てる和春、桜子も目を丸める。

「和風でなまらめんこいお顔の桜子さん、ドーブルィヴェーチル。わたしは、ウクライナ料理のボルシチです」 

「Ciao! 桜子お姉ちゃん。あたし、イタリアンスイーツのパンナコッタだよ」

「サクラコちゃん、アハラン ワ サハラン。アナイスミー、ムサカ。エジプト料理だよ」

「メ ジャモ ブリトー・サルサ・ベルデ。メキシコ風アメリカ料理、テクス・メクス料理よ。エンカンターダ」

「フィリピン発祥、ハワイ料理としても親しまれているハロハロなのだ」

 世界の料理キャラ達は陽気な声で、桜子にごく普通に自己紹介した。

「あっ、あっ、あの……」

 和春はかなり焦る。

「はじめまして、世界各国の料理の皆さん。私、日本人の光久桜子です」

 桜子は爽やか笑顔で自己紹介して、ぺこんと頭を下げたのち、

「皆さんテーブルクロスから飛び出したおウチから出て来て大きくなれるなんて、すごいですねぇ!」

 目をきらきら輝かせ、五人のすぐ側へぴょこぴょこ歩み寄る。

「さっ、桜子ちゃん、この子達のこと、不思議に、思わないの?」

 和春は驚き顔で問いかけた。

「さすがにけっこうびっくりはしたよ。でも、飛び出す絵本や喋るお人形さんの進化版だって考えれば、そんなに不思議には思わなかったよ」

 桜子はとても嬉しそうに主張する。

「そっ、そう?」 

 和春はかなりホッとした。

「ハロハロさん、桜子さんにあのことを謝っておきなさい」

 ボルシチは困惑顔で命令する。

「うっ、うん」

「えっ!? ハロハロちゃん私に何か悪いことしたっけ?」

 桜子はきょとんとなった。

「アタシ、E・サクラコんちのお部屋に無断で忍び込んで、下着を何枚か盗みましたのだ。エ カラ マイ」

 ハロハロは土下座姿勢になり、ハワイ語で謝罪の言葉を述べた。

「なぁんだ。そんなことか。いいの、いいの、私、全然気にしてないよ」

 桜子は爽やかな表情で言う。

「マハロ。E・サクラコ」

 桜子の寛容さに、ハロハロは再度深々と頭を下げ感謝の意を表した。

 その直後に、

「桜子ちゃん、和春。勉強頑張ってるとこ悪いけどちょっとの時間失礼するね」

 ガチャリと扉が開かれ、雪乃が入り込んで来てしまった。ムサカ達は目にも留まらぬ速さでテーブルクロス内に戻って雪乃の目には一切映らず。

「姉ちゃん、いつも言ってるけどノックくらいしろよ」

 和春は迷惑そうに注意する。

「まあいいじゃん。うち、和春と桜子ちゃんのために、期末テストの主要科目予想問題集作ってあげたよ。これも活用してね」

 雪乃は期末テスト予想問題集と題された冊子を手渡してくる。

「ありがとうございます! 中間よりも良い点良い順位が取れるように頑張ります!」

 桜子は嬉しそうに受け取る。

「ありがとう。五教科九科目分あるんだな」

 和春もちょっぴり躊躇うように受け取りつつも、感謝の気持ちは感じていた。

「ほな二人とも、テスト勉強頑張ってね。エッチはまだ高校生なんやからしちゃダメよ」

 雪乃はにやけ顔でそう言い残し、この部屋から出て行った。

「邪魔だから二度と入ってくるなよ」

 和春は不愉快そうな顔でこう注意しておく。

「それじゃ、勉強再開しよっか?」

桜子はちょっぴり頬が赤らんでいた。

「そうだね」

 いつか絶対姉ちゃんにこの子達の姿見られそうだな。

 和春が不安げにそう思っていると、

「一応戻っておいたぜ。べつに姿見られてもいいとは思ったけど」

「わたしも、雪乃さんにもわたし達の姿を見られてしまっても良かったのではないかとも思いました」

「あたしもそう思ったぁ」

「ワタシもだよ」

「わたくしも同意よ。途中で戻ろうかと思ったわ」

 ハロハロを先頭に、他の四名も次々と飛び出し人間サイズ化した。

「私も雪乃ちゃんにも見られてもいいと思う。むしろその方がいいんじゃないかな?」

「俺もそうも思うけど、とりあえず今はナイショにしておこう」

その後も世界の料理キャラ達の姿は雪乃に見られることなく、和春と桜子はテスト勉強に励み、ムサカ達は迷惑にならないよう静かに和春所有のマンガやラノベを読んだり、携帯型ゲームなどで遊んだりして過ごすことが出来、あっという間にまもなく日付が変わる頃になった。

「和春お兄ちゃん、桜子お姉ちゃん、ブォナノッテ」

「アロハ ポE・カズハル、E・サクラコ。二人で最暖月のホノルルのように熱い夜を楽しんでね」

「ティスバフアラヘール! イラッリカー、サクラコちゃん」

「和春君、桜子ちゃん、Buenas noches.」 

「ナ・ドブラーニチ。ヒュヴァーウオタ。グナット。お二人とも、寝冷えしないように気をつけて下さいね」 

 世界の料理キャラ達は就寝前の挨拶をして、世界地図上に乗っかるような動作でテーブルクロス内に戻っていく。

「おやすみーっ。出会えて嬉しかったよ。和春くん、とっても素敵で美味しそうな外国の女の子達だね」

 桜子は全く不思議がることなくその様子を眺めていた。

「あの、桜子ちゃん。あの子達の存在は、他のみんなには絶対ナイショにしてね」

「もちろんだよ。二人だけの秘密にしようね♪」

 桜子がこう言ってくれて、和春はホッとする。

「桜子ちゃん、もう一つお願いがあるんだけど、俺と同じ布団で寝るのは、やめて欲しいなぁ。出来れば母さんの寝室で」

「それは嫌だよ。私、和春くんと同じお布団で寝るぅ!」

 この要求は、桜子は受け入れてくれなかった。和春は当然のように困惑してしまう。

「じゃあ俺は、床で」

「ダメだよ。そんな所で寝たら夏風邪引いちゃうよ。いっしょに寝るのは私と和春くんだけじゃないよ。この子もいっしょだよ」

 桜子はほんわか顔でそう伝えると、

「じゃーん、これ見て。和春くんにこの間取ってもらったナマちゃん。川の字に寝よう」

 トートバッグからそれを取り出し、敷き布団の上に置く。

「……」

 和春は困惑顔を浮かべながらも、無いよりはマシかなっと思った。

「和春くんも早く寝よう。夜更かしは体に毒だよ」

桜子はおかまいなく、いつも和春が使っている夏蒲団に潜り込む。

「わっ、分かった」

 和春はそれからすぐに電気を消して、ゆっくりとした動作で慎重に同じお布団に潜り込んだ。

「おやすみ和春くん」

「……おやすみ」

 そんな会話を交わしてから二分も経たないうちに、桜子の寝息が聞こえて来た。

「……眠れない」

 和春は極度の緊張で目が冴えてしまっていた。

 それから三〇分くらい経っても、状況は変わらず。

間にあのナマケモノのぬいぐるみがあったため、体が引っ付き合うことは避ける事が出来たのだが、それでもやはり気になってしまう。

「E・カズハル、今、E・サクラコと交尾する絶好のチャンスだぜ」

「うわっ!」

 ハロハロが突然目の前に現れ、和春はびくーっと反応した。

「E・サクラコの寝顔、とってもかわいいでしょ?」

「たっ、確かにかわいいけど」

 和春は桜子の寝顔をちらっと覗いてしまった。

「まず手始めに服を捲りあげて、ブラジャー外しておっぱいじかに触っちゃえ」

「そんなこと、出来るわけないだろ」 

「E・カズハルの性格はムリキみたいだな。そんなんじゃ子孫残せないぜ」

「ハロハロちゃん、めっちゃ蒸し暑くなって来たから早く戻って」

「E・カズハル、見ろ。好都合だぜ。E・サクラコさっき寝返りながら布団退けて、おへそ丸出しになったぜ。アタシがもっと室温と湿度上げればE・サクラコはきっと無意識のうちにパジャマを脱いで下着だけに。もっと上手くいけば全裸になるぜ」

 ハロハロはわくわく気分で呟く。

「それ非常に困るから」

 和春は迷惑していたが、ついつい桜子のおへそをちらっと見てしまった。

「ハロハロちゃん!」

「あいたぁ!」

 突然、ブリトーに背後からバンジョーでバコンッと頭を叩かれた。

「ペルドン和春君。ハロハロちゃんがご迷惑かけて。すぐに引き戻すから」

「あーん、E・ブリトー。もう少しだけぇ~」

No! 和春君困ってるでしょ」

「やっ、やめてぇぇぇ~」

 ブリトーは嫌がるハロハロを、テーブルクロス内のメキシコ付近に押し込めた。室温は一気に5℃くらい下がる。

「それじゃ和春君、Que duermas bien! ハロハロちゃんのことならもう心配ないわ。自分用の地域以外からは、自ら侵入も脱出も出来ないからね。望み通りにしてあげたわ♪」

 ブリトーはにこにこ顔で伝え、テーブルクロス内に戻った。

「あっ、ど、どうも」

そんな仕様もあったのか。よかった。

 和春はこれで一安心する。

 布団に潜り込もうとしたら、

「Hola、和春君」

「うわっ!」

 再びブリトーが飛び出して来た。和春はちょっとだけ驚く。

「早くともお互い高校卒業、出来れば結婚するまでは、桜子ちゃんのうずら豆に和春君のチョリソを突っ込む行為はしないように、健全なお付き合いをしなきゃダメよ」

 ブリトーはそう伝えるとウィンクして、再びテーブルクロス内に戻った。

……姉ちゃんの変態思考そっくりだな。

 意味が分かってしまい、和春は呆れ顔を浮かべる。彼は再び布団に潜り込んだが、やはり桜子がすぐ隣で眠っていることもあって、なかなか寝付けなかったのだった。

 

          ☆


朝、七時四〇分頃。

桜子ちゃん、いないな。

 和春が目を覚ました頃には、すでに桜子の姿は無かった。和春はいつも通り制服に着替え、一階ダイニングへと向かっていく。

雪乃は今日は一コマ目の講義がないため、まだ睡眠中だ。

「おはよう」

「おはよう和春くん」

「おはよう和春、今朝の朝食、桜子ちゃんも手伝ってくれたわよ」

「そうなんだ」

桜子もすでに制服に着替え終えていた。制服は持って来てなかったので、一旦家に戻ったらしい。

「私はイギリス料理のスコッチエッグを作ってみたよ。食べてみて」

「美味そうだ」

 和春は椅子に座ると、最初にスコッチエッグに箸をつけた。

「桜子ちゃんの手料理、すごく美味しいよ」

 塩、コショウ、ナツメグ、トマトケチャップで味付けされた牛豚合い挽きと、うずらの半熟卵の味が、和春の口いっぱいに広がる。

「ありがとう。嬉しいな♪」

桜子は満面の笑みを浮かべる。彼女はゆで卵は半熟派なのだ。

和春も同じく、半熟派である。


今日以降も、桜子はあの子達といるとお料理の香りに癒されて、すごく幸せな気分になって頭が冴えて勉強が捗るからと、毎日のように和春のお部屋を訪れて来て、さすがに毎日お世話になるのは悪いからと食事とお風呂は一旦おウチに帰って済ませて来て、夜も二時間程度、和春といっしょにテスト勉強をして過ごしたのだった。 

息抜きにと、パンナコッタ達とテレビゲームなどで遊んであげる時間も少し作りつつ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ