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君、警戒心なさすぎじゃない?

まだあらすじを全うできてません。とりあえずここまで……!

 社畜歴5年。中々にブラックを極めているこの会社の資材部で新卒から働いている。その間に憶えたのは、たまの休みで読む漫画だ。

 たかが漫画と侮るなかれ。俺の実家は中々反動的で、今時漫画は絶対許さない、読むなら小説を読め、ただしライトノベルは許さない。そういう家だった。おまけに大学も実家通いだったから推して知るべし。

 大学を卒業して東京の会社に勤務し。労働基準法で言えば俺の人権は無視されているが、それでも家にいた頃よりは遙かに自由だ。少なくともインターネット通販で堂々と本を買える。受け取りはサービス残業のために中々困難だが。

 そんな中で、ハマったのは所謂超能力ものや異世界転生・転移ものの漫画たちだ。

 超能力の方はテレポート、サイコメトリー、パイロキネシス――その中で1番憧れたのはサイコキネシスだ。

(自分の意思ひとつでどんな重たいものも動かせる。最高だ。この能力があったらあのクソ上司のヅラを吹っ飛ばせるのに)

 考えるのはそんなしょうもないことだ。まぁ、実際にそんなことはできないのだけど。

 異世界転生・転移は単純な願望が出ただけの話だ。ここではないどこかへ行きたい。大学生までは就職してどこかへ行きたいと願っていた。就職してからは、この会社以外のどこかへ行けるならどこへでもいいと思った。

 まさか、偶々残業なしで帰宅できた日。お目当ての漫画が発売日だったから本屋へ向かったその帰り道。その願望が叶えられるとは思わなかったではないか。夜道、横断歩道を渡ろうとした俺に、トラックが突っ込んでくるなんて――


 目覚めると、真っ白い空間にいた。

「は?」

 倒れていた俺はがばりと身を起こす。辺りを見渡した。白い、真っ白い。漫画で言えば作画コストがまったくかからない状態だ。自分の身形と荷物を改める。服はスーツにコートそのままだが、荷物は何もない。鞄どころか財布もスマートフォンもない。ついでに買ってきたばかりの漫画もない。1番衝撃の事実を受け止めかねながらも、自身はそれよりシチュエーションに顎を添えた。

 トラックが眼前に迫った記憶はある。しかし、そこからの記憶がない。今の自分は生きているのか死んでいるのかすらわからない。普通ならトラックにぶつかった痛みなどが残っているものではないか? と思った。そこで思い至ったのが、自分が異世界転生ではなく異世界転移をする可能性についてだ。漫画の読み過ぎ? どうとでも言ってくれ。とにかくこのときの自分は異様にハイテンションだった。上下の感覚すらなくなるほどの白い空間で、俺は拳を振り上げた。

「やい! 男神だか女神だかわからんけど! 俺をどうする気だ!」

『どうするって、どうされたいですかぁ?』

 すると、どこからともなく柔らかな女性の声がした。死角を取られた。そこに、ギリシャ神話の彫刻のように白い装束を纏った、美貌の女性がいた。この世ならざる美しさだ。展開で言えば彼女が転生女神だろう。そう思いながらも自身は勢いよく手を上げた。小学校時代から質問するときの姿勢は「元気が良くてよろしい」と褒められていた。

「はい! この様子だともしかしなくても俺、次は転生じゃなくて転移ですよね?」

『そうなりますね~。私がうっかり死んだと思って回収したらまだピンピン生きてたから~』

 やけに間延びする話し方をする女神だ。そんなことを思いながらも、自身は気になっていたことを訊く。

「この展開で言うと俺、異世界に行くことになるんですよね?」

『そうなりますね~。最近の流行りですし』

「あっ流行りとかあるんだ……じゃ、じゃあなにかスキルください!」

『スキル?』

 女神は垂れ目を瞬く。それに焦れったく俺は言った。

「ほら、異世界に転生する人間が何かしらスキルとか異能とか魔法とか持ってる場合あるでしょ。チート能力とか。転移する人間にも何かくれませんか」

『うーん、まぁ、あげられなくはないんですけどぉ……いいんですかぁ? 次、あなたが行くことになる世界は――』

 そこで、ぴたりと女神は口を噤んだ。そしてにっこりと笑う。

『いいでしょう。それでどんなスキルが欲しいんです?』

「サイコキネシスでお願いします!」

 元気良く、俺は答えた。

「俺自身も宙に浮けるどころか、象でもトラックでも宙に浮かせられて且つ余裕な、そんなスキルが欲しいです!」

『あー、意外に無欲ですねぇ。他の転生者・転移者さんはもっと無茶苦茶な注文つけてきますけど……まぁ、ありじゃないですか。いいですよ』

「やったー!」

 無邪気に喜ぶ俺。異世界転移するということは即ち社畜生活から解放されたことも意味する。ついでに締め付けのやたら厳しい実家からも。諸手を挙げて喜ぶ俺は、気付かなかった。

 そんな俺を見て、意味深長に口元を綻ばせる女神に。

『さて、それでは早速行ってらっしゃい』

 そう言って、女神は空中で円を描く。すると、真っ黒い空間が見えた。よく見ると星空だ。どうやらこれから向かう異世界は今は夜らしい。そう言えば俺がトラックに遭遇したときも夜だったしな。時間が連動しているのかも知れない。そう思いながらも、そう言えば、と俺は女神に問うた。

「そう言えば聴き忘れてたんですけど、この異世界ってどういう世界なんです? あらましだけでもざっと説明してもらえると嬉しいんですけど。女の子いっぱいヒャッハーとかできます?」

『とりあえず男女比は普通ですね。恋愛観もあんまりあなたのいた世界と変わらないんじゃないですか』

 冷徹な声が俺のハーレム願望を萎縮させる。なんだ、その辺は同じなのか……そう思いながらも円の中に片脚を突っ込むと、女神は笑って言った。

『そうそう、これ以降は私は一切の責任を持ちませんので。あとの人生楽しんでくださいね~』

 そう言って女神は俺の背中を押した。

 真っ暗な夜空。星がきらめく。その中で、俺は――落ちていた。

「と、止まれ止まれ止まれーっ!」

 必死で怒鳴る。否、怒鳴ろうとして、落ちていく中で舌が絡む。それでも意思は伝わったらしい。俺の体は緩やかに落下速度を下げ、地上に降りる頃にはたとん、と地面を踏めた。あぁよかった。グロテスクなミートソースにならずに済んだ。それはよかった。それはよかったのだが。

 周囲は真っ暗。街灯もろくにない。その中で、ひとり、俺は立ちすくんだ。

「飯と仕事と住むところ、どうしよう……」

 せめて英語が通じればいいのだが。仕事で培ったスキルを呟いていると、道の向こうからライトが照らされてくる。

 それが所謂三輪トラックのライトだと気付いたのは、その車がだいぶ近くに来てからだ。窓から、誰かが顔を出してくる。

「おじさ……お兄さんどうしたの? こんなところで」

 英語だった。あるいは英語に近い言語か。少なくとも理解はできた。その人物の声は20代ほどだろうか。暗くてよく見えないが、彼も仕事だろうか。そう思っていると、「乗ってく?」とその人物は言った。

「ここから先に俺の取った宿があるからさ。困ってるなら連れて行くけど」

「あの、でも俺、今お金持ってなくて」

「じゃあ取引だ。俺の車洗ってくれる? それ約束してくれたら宿代払ってあげるよ」

 そう言って、その人物は助手席を示す。俺はこれ以上断る気にもならず、厚意に甘えることにした。洗車なら社用車で慣れている。任せろ。そう思いながら、俺は三輪トラックの狭い助手席に乗り込む。

 そこで気付いた。間近で見た人物は、雲を紡いだ真っ直ぐなショートボブ。触れたら溶けてしまいそうな白い肌。目はルビーを溶かしたよう。15才かそこらの、とてつもない美貌の少年だった。少年はハンドルを握ると、俺に人懐こく笑った。

「それじゃ行こうか」

 ――俺は不安になった。この少年、ひょっとして自分の美貌を自覚してないのか? こんなに怪しい男をホイホイ車に乗せるのか? 異世界だとひょっとしてそこらの危機管理意識が違うのか?

 俺はのちのち、自身の感覚が正しいことを知る。

 ただ、その前に、ある衝撃的な事実を知ることになる――。




Next......

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