そして世界は繰り返す。
この世界がループしていると俺だけが知っている。
その周期は1日。
今日をずっと繰り返している。
このループを抜ける条件を探して、俺はずっと世界をやり直していた。
今日で120回目。
もうそろそろ、俺の正気も限界かも知れない。
「おはようレイラ。ところで、今日は何年何月何日だっけ?」
「国王陛下在位13年8月10日よ。どうしたの、急に」
いつもの会話。
もう120回も繰り返してきた会話だ。
それはループを抜けられていない事を確認する、儀式のようなものだった。
「いや……何でもない」
「マルクったら変なの」
「叔父さんは……ああ、森へ狩りに出かけているんだったな」
「そうよ。明日になれば帰って来るわ」
レイラの父親は森に出かけている。
今、この家にはレイラと俺しかいない。
幼い頃、戦災孤児となった俺を救ってくれた叔父さん。
そして、母のように、姉のように俺の面倒を見てくれたレイラ。
「明日になれば、か」
明日を迎える為には、何が条件なのか。
俺はそれを探して世界をやり直し続けている。
「どうしたの?マルク、熱でもあるんじゃない?」
「やめろよ……子ども扱いするな」
冷たい手が、俺の額に触れる。
子供にするような仕草なのに、俺の心臓は大きく音を立てた。
「ねぇ、マルク。私の事、どう思ってる?」
「な、なんだよ急に」
いつの頃からか、レイラはそう言うようになっていた。
ループと言ってもすべてが同じというわけではなく、俺の行動によって細部が変わっていく。
いったい、神はこの世界で俺に何をやらせたいのか。
「わたしのこと、どう思ってるかって聞いてるの」
うるんだ瞳。
冷たい手の平が俺の額から頬へ滑る。
ふっくらとした唇が愛らしい。
「お、おれ……ちょっと用事を思い出した」
いつもの事だけど、これ以上は無理だ。
これ以上、彼女の視線に耐えられない。
いまさら彼女に好きだなんて照れくさくて言えなかった。
ずっと家族だ。
その関係が壊れてしまうのが、怖い。
この世界がループしていると私は理解している。
その周期は1日。
今日をずっと繰り返している。
このループを抜ける条件はたった一つ。
一人だけループしていると思っているトンチキが私に告白する事。
そろそろ私のイラつきも限界かも知れない。
だいたいあのバカは世界やり直し過ぎ。
どんだけやり直したら気が済むの。
普通、120回もやり直す?
っていうか120回やり直しても正解にたどり着かないとかどんだけ度胸ないの?
好きとか愛してるとかそういうの頂戴?
あー、そろそろ来るわ。
あのトンチキが、ドヤ顔して、今日は何年何月何日だって聞いてくるわ。
120回も同じ答えをするの、もう飽きたんだけど。
「おはようレイラ。ところで、今日は何年何月何日だっけ?」
「国王陛下在位13年8月10日よ。どうしたの、急に」
「いや……何でもない」
「マルクったら変なの」
何でもないじゃねーよ。
また抜けられなかったか、とか思ってんだろ。
抜けられませーん。
ループ抜ける条件、お前が私に告白する事だから。
ねぇ、勇気を出して?
「叔父さんは……ああ、森へ狩りに出かけているんだったな」
「そうよ。明日になれば帰って来るわ」
あーこのやり取りも飽きたー。
お父ちゃんずっと森に行ってるよ。
アンタのおかげでずっと森生活だよ。
父親が外出してんだから、ガツンと来いよ。
うちには母もいねーんだよ。
今、私一人だよ。
男だったら押し倒して来いよ。
「明日になれば、か」
明日にならないんだな、これが。
お前が告白しないと明日がこねーんだよなー。
どうにかして告白してよ。
「どうしたの?マルク、熱でもあるんじゃない?」
「やめろよ……子ども扱いするな」
乙女の手のひら当てられて、顔を赤くしてんじゃないよ。
120回もやってんだぞ。
そろそろ慣れろ。
こっちはその辺の石像触ってるのと大差ない感情しか湧いてこないよ。
つーか顔を赤くするぐらいなら、告白してこいよ。
好きなんだろ、私の事。
もう知ってるからそれ。
「ねぇ、マルク。私の事、どう思ってる?」
「な、なんだよ急に」
なんだよ急にじゃねぇ。
このやり取り、100回目からは毎回やってっかんな。
100回目の時はこれでいけると思ったのに。
こっちが雰囲気作ってんのに、度胸ねぇなー。
こっちから告白してもループは抜けらんないのよね。
あんたから来ないと駄目なのよ。
男なら乗っかって来いよー。
ほらー勇気出して来い。
「わたしのこと、どう思ってるかって聞いてるの」
「お、おれ……ちょっと用事を思い出した」
用事思い出してんじゃねぇよ。
どうせ隣の家の豚が逃げたから捕まえてくれイベントだろうが。
ループする世界でデイリークエやってどうすんだよ。
逃げんなコラァ。
「待って、マルク」
これまではお前が豚を捕まえるのを微笑みながら見ていたけど。
もう限界。
120回もやったらさすがに無理。
ぎゅうっと背中から抱き着いてやった。
サービスだ、胸も当ててやる。
「レイラ……その、胸が」
あててんのよ。
「その……君の事、大切に思っている。けど……」
けどはいらないなー、けどは。
勇気を出して?
「わたし。マルクになら……いいよ」
これで無理ならもうムリゲー。
一生明日が来る気がしない。
「レイラ。俺、君の事が、その」
その。
どした。
ほれ、その先を言え。
「す……」
す?
好きって言う?
言うの?
えーっと、そしたら次は「わたしも……好き」でいいね。
いやー今日で結ばれちゃうかー。
「素晴らしい女性だと思っている」
ばかー。
好きって言ってよー。
「い、行かなきゃ。ごめん、レイラ」
ばか。
意気地なし。
トンチキ。
告白ぐらいしなさいよ。
次はもうちょっと押さないと駄目かぁ。
いっそ脱いじゃう?
いや、清純派がタイプなら逆効果だな。
はぁ。明日はどうやってその気にさせよう。
こうして世界はループしていく。
それを知っているのは、私と貴方。
繰り返す日常。
そんなのも、本当は悪くないと思ってる。
愛してるよ、マルク。