動揺した男
男の物語は、小さな動揺から始まった。
自動販売機でコーヒーを買い
カンを取り出し、席に着こうとした所で
男は、自動販売機から電子音が流れ出るのを聞いた。
機械を見ると、硬貨投入口の横の数字が点滅していた。
暫く眺めていると点滅していた数字は
7が4つ並んで止まった。
その販売機にラインナップされた
全ての飲料ボタンが光った。
隣の販売機で飲物を選んでいた女性が
男を見て微笑んだ。
恐らくおめでとう、良かったですねの意味らしかった。
男は、何故かその微笑みに動揺し
「あ、当たったみたいなんで
良かったらお使い下さい。」
と、その権利を女性に譲った。
……………
恐怖と閉塞感と苛立ちの中で
世界は今、物語を必要としている。
男は、ほんの些細な物語が
少しでも、ほんの少しでも
人の役に立てばと
思わずには、いられなかった。