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第11話:仲間達との同道行

「馬でも使えれば移動は楽になるんだがなぁ」

「仕方ないですよ。光輝獣の活動圏に入ると、動物達は怯えて動けなくなってしまいますから」


 本日の稼ぎ場として定めた南部街跡を目指して、アランヴィルより出発して数時間。現在まで光輝獣の襲撃に遭うこともなく、僕達は順調に道程を消化していた。

 これといった問題もなく、かなりいいペースだ。このままなら予定よりも幾分早く目的地へ到着できるだろう。

 集団で徒歩による移動ということで、やはり単独で行動していた時よりも進捗は鈍る。ただし移動時間を使って各自の役割分担を再確認し、突発的な戦闘へも十全に備えられるという心理的安心感は得難い。

 徒党を組む相手によっては、暫定的な仲間の存在が足枷ないし障害のように感じてしまう場合もある。特に戦力として揃えられた頭数でありつつ、報酬の配分問題で存在を疎まれるような立場だったら、同道している連中すら警戒の対象になってしまう。

 いつ心変わりした仮の仲間に切り捨てられるか、分かったものではないからだ。特に一仕事終えた後の帰り道が危険だ。戦いが終わり用済みとなった助っ人を、報酬惜しさから亡き者にしてしまおうという、卑劣で姑息な考え方をする冒険者は存外多い。

 しかもそれを咎める者はまずいない。道理も何もあったものじゃないが、それが冒険者の常道となってしまっている。その浅ましさはつくづく嫌になる。

 その点、ジード達は信用が置けた。後ろ暗い謀略とは無縁で、良識も理性もある。金目当てに不当な裏切りを図るなど、万が一にも発生しないだろうと確信が持てる。

 数多くのクズと関わり、否応もなく揉まれてきた僕の観察眼では、だ。これで彼等が真意を巧妙に隠していて、僕を嵌めたとしたなら、それはもう比類なき強かさを賞賛するよりない。それぐらいには認めている。


「あの、ユキ君」

「なにかな」

「ユキ君と私は同い年ぐらいですよね」

「うん?」

「魔族の中には若いまま長く生きる方々もいるので。もしかして淫華族もそうなんですか?」


 魔族の平均寿命は人類と概ね同じ70~80歳前後だ。しかしアルシアの言うような例外も一部には存在する。

 例えば『妖精族』。片手に乗る程度の大きさしかない最小の魔族で、背に翅を有しているため自由に飛び回ることができる。

 体が小さく比例して力も弱い一方、生まれ持つ魔力は極めて大きい。魔法を使わせれば精度・威力・範囲、そのどれもが絶大で、その強さは全魔族中でも1、2を争うほどだ。

 そして彼女達は20代から30代前後で肉体の成長が止まり、以降は老いることがない。若さを保ったまま実に150年生きる長命種でもある。

 優れた魔法制御力と長寿に起因する豊富な知識から、世界に名だたる賢者の多くが妖精族で占められている。


「いいや。外見と年齢は一致するし、特別長生きでもない。妖狐族や巨人族と同じだよ。今は22歳。それがどうかした?」

「あ、やっぱり年下なんですね。私が24歳だから、私の方がちょっとだけお姉さんになりますね」


 アルシアは細くはにかむ笑みを向けてきた。

 僅かばかりに腰を曲げ、僕の顔を覗き込むように見詰めてくる。

 なにか知らないけど、妙に嬉しそうだ。


「今までパーティーの中で一番年下だったからな。弟分ができたってんで喜んでるわけよ。なぁ?」

「そ、それは、その、やっぱりちょっとだけ……え、でも、そんなに分かり易かったなんて」


 からかい半分なジードの視線に、アルシアは慌てるやら恥ずかしがるやら。

 目を伏せたかと思えば顔を上げ、僕とジードを交互に見やってまた俯く。狐耳は先端がへたれ、銀毛尾は前から後ろへとゆらゆら波打っていた。

 こんなことで一喜一憂する様は、正直にいってちょっと子供っぽい。それとも純真というべきなのかも。


「歳はキミが上でも、冒険者としてなら僕が先輩だと思うけどね」

「ユキ君はいつから冒険者をしてるんですか?」

「13の時からだ。今年で9年目になるか」

「そんなに若い頃から!」


 アルシアが驚きの声を上げる。

 口に手を当て、目を二度三度と瞬かせながら、僕の顔をまじまじと見てきた。


「そりゃスゲェ。俺は18から冒険者稼業だが、13で飛び込んできた怖れ知らずをそうは見ねぇな」


 ジードの声は感嘆を告げ、僕へ向けた双眸は憐れみと同情の色を含んでいた。

 彼の言わんとすることも分かる。

 冒険者はマトモな仕事じゃない。いつ死んでもおかしくない危険で異常な職業だ。確かに大きく儲けられる可能性はあるけど、それ以上に損をする割合の方が圧倒的に多い。

 畑を耕し作物を育てたり、商品を売ったり、家具や器具を作ったり、普通の仕事で日常を送れるなら、そっちの方が遥かにマシだろう。それでも冒険者をやるという者には、色々な理由や事情がある。ましてや未熟な子供が選ぶということは、順当な生活の送れない背景があるということ。周りに真っ当な大人がいれば、子供が冒険者などという無法者になることを、まず許さないからだ。

 ジードの眼差しはそれらを踏まえているからこそ、痛ましさを感じさせた。

 このあたりはベテラン故の機微か。単純に驚いているだけのアルシアとは違う。

 でも昨日会ったばかりのよく知らない相手へ、その過去を思い憂い抱くとは、人が良いにも程がある。人格者というやつだ。

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