地獄からの脱出
僕にはあの注射器の中身が何か分からなかった。
暫くすると体が思うように動かなくなり、口は動くも上手く喋れなかった。
「う、うぅ...うぁ...」
「薬が効いたみたいだね。」
1人の白衣を羽織った男が僕に近付いてきた。
次の瞬間、後頭部に衝撃が走った。
白衣の男がトンカチのような先に重りのついた棒で思いっきり叩いてきたのだ。
「うぐっ...」
「まだまだぁ。」
次に足の指。その次はスネ。少し休憩を挟み、二の腕に耳。この拷問が始まって1時間足らずで僕の心と体はズタズタだった。
あの時自殺していたらどれだけ楽だっただろうか、そう思うと涙が止まらなかった。
まずそれ以前に騙されたからと言って仕返しをするべきではなかったのだ。
歯を食いしばるも、あまりの痛さに声を上げる。
「ぐぁ...」
まだ薬の効果が切れない。
それから、白衣の男は容赦無く僕の体を痛めつけた。
ご飯を食べ自室へ戻るとら隣の部屋や向かいの部屋から声が聞こえた。
「殺してくれ、頼むから。」
「クソがっ!痛めつけてねぇで早く殺せ!」
「なら俺を殺せ!」
あまりの酷さに自殺志願者が沢山いた。
正直な所、僕も死にたいという気持ちでいっぱいだった。
次の日も拷問が続いた。
次の日も、その次の日も。
1週間ぐらい経っただろうか。もう抗う気力もなく、拷問にひたすら耐えるだけの生活を送っている僕だが、ある日突如として好機が訪れた。
看守を務める男が、僕の部屋を開けて拷問部屋へ向かわせようとした時、どうやって抜け出したのかわからない囚人が1人、逃げようと暴れ回っていた。
それを見てすかさず走った。
最初に説明をされた時にある程度の建物構造は理解していた。
階段を降りて左へ。次は右。
食堂を抜けてトイレへ。
トイレには窓があるが脱獄出来ないようケージのようなものが取り付けられていた。
別の場所へ逃げようとも、他の場所は分からない。
そのタイミングで棟内の警報音が鳴り響く。
流石にモタつきすぎてしまったようで、看守の男や警備員の男、この施設にいる人間が総出となって僕を捉えようと必死だった。
万事休すかと思った時、一つの光明が差した。
ケージの角4つのうち3つはネジが取れていた。
この施設は古く、全く修繕されてない箇所が沢山あるようだ。
拷問で疲れ果てた体を、脱出しようと奮い立たせた。
「んぐっ!」
「ガシャン!」
ケージが外れたが、反動で床に叩きつけてしまった。
急いで窓をくぐろうと策を講じる。
大便の扉の把っ手に足を乗せて、窓枠をくぐり抜けようとする。
「いたぞ!」
そこへ看守の男が駆けつけた。