悪夢の始まり
悪とは何か。
それは正義無しでは成り立たないもの。
それは人間が生み出した差別をする言葉。
言い換えれば「正しい」は悪がなければ認知されない。
僕は悪に負けた。
あの時、あの放課後。
小学校の頃から虐めを受けてきた僕は、悪に負け自殺を図った。
でも、死ななかった。
息をのみ勇気を振り絞り、校舎の屋上から1歩踏み出し、落ちたはずなのにそこは見たことの無い世界。
やっと死ねると思ったのに、やっと楽になれると思ったのに。何故感覚がある?ここはどこ?君は誰?
目の前には体育座りで僕を見る少年。
「君はどうして泣いているの?」
僕は少年に問いかけたが、ピクリとも反応しない。
しばらくして口が開いたと思ったら、
「やり直してよ、僕の人生。僕はもっと楽しく生きたかったのに。」
僕は悟った。
この少年は僕だ。それも小学生もしくはそれより前の虐められる前の僕。
「でも、僕はもう...」
「チャンスをあげるよ、悪のない世界で。」
?
意識が遠くなり、僕は眠ってしまったのだろうか。
気づくとそこは家の中だった。
僕はあの日、屋上から落ちたはず。何故生きているのか。
しかしもっと不思議なのはここからだった。
僕が通っていた高校から電話がかかってきた。
恐る恐る受話器を握り応答する。
「もしもし、吉野君の担任を務めております浅野です。正人君はいらっしゃいますか?」
「...はい、僕です...」
「なんだ、吉野か。もう授業始まってるぞ?早く来いよ?」
「は、はい...」
正直学校へ行くのは怖い。
でも、あの時の僕は言っていた。悪のない世界へ連れていくと。
ならば行く価値はあるはずだ。
僕は身支度を済ませ恐る恐る学校へ向かった。
自転車をこいで30分少々。家から8kmほど離れたところにある平井高校。
もう既に1時間目も終わろうとしていた。なのにも関わらず校舎裏の駐輪場ではガラの悪い不良がカツアゲをしていた。
平井高校は県内でも五本の指に入る学力のある学校。
不良がいたとしても髪を染めても授業には出るのが基本だった。
それなのに何故か授業に出ない生徒が多数、校舎裏ではカツアゲ。一体僕は何を見ているのだろう。
悪のない世界とはなんなんだろう。僕は疑問に思った。
その刹那、僕は誰かに腕を切りつけられた。