第二話
俺達の高校はだいたい歩いて三十分くらいにある、男子校だ。
何故、俺がわざわざそんな色恋のイの字もないような男子校を選んだのか。
簡単に説明すると、家から近くて、家から近いうえに、近くに本屋と古本屋が三つもあり、尚且つ、家から近かったからだッ!!
◇◇◇◇◇◇◇
駿と共に歩いていると、ちらほらと俺達と同じ制服の生徒がいる、んだが、…………なんだか俺達の方をチラチラと見ている気がする……自意識過剰?だといいんだが……
俺がキョロキョロとしていると、クスクスと笑って駿は言った。
「佐嶋様って呼ばれてるんだよ。知ってた?」
は!?なななな、なんだそれ??!
「は!?佐嶋“様”!?様ってなんだよ!おい、待てよ。嫌な予感がする……」
こういうときの嫌な感じってのは、めちゃくちゃ当たるもんなんだよ!そういう原理になってんの、知らないけど!
「おーい!佐嶋~!おっはよーう!」
って、言ったそばから~!!げ……しかも、モジャモジャじゃん。それに、緑髪の奴もいるし……
「あー、、、おはよ~……」
「おい!ちゃんと聞いてんのか!」
はいはい、聞いてるって!も~、別に前の俺の友達でもないんだし~…………ってあれ、そうだよな?いや、友達なのはあいつ、あー、里中?だけだし、って、まあそれはいいんだよ!はあっ、……とにかく駿にもっと詳しい話を……
「おい。駿行くぞっ!……って行かないのか?」
「えっ?兄さんこそ……橋田君ほっといていいの?」
橋田?あいつ橋田っていうのか、へえ~。
「いや~、大丈夫だろ!多分。あー、あの橋田?さんは知り合いってだけだしさ、行こうぜ!」
「いや、そういう訳じゃなくて……ってまあいいか。兄さん記憶ないんだもんね……うん、行こ。」
「うええ?!佐嶋、待ってよ!」
「おい、待てよ!」
ああ、うるさい。なんてうるさいんだ!俺が何をしたっていうんだ……はあ。これから初登校だってのに、不安しかねえ!
◇◇◇◇◇◇◇
後ろから緑髪とモジャ橋のうるさい声を聞きながら、俺達は無事学校の校門まで来ることができた。
「会長!おはようございます!」
あ、青髪のー…………町田!
「お~、町田さん!おはよう!」
「町田でいいですよ、会長。で、会長、今日は……?」
「えっ!、?今日、なんか大事な何かあったっけ……?」
「いや……あの、橋田君は……?」
「あー、なんか、多分俺達の後ろの方にいると思う!で、なんか橋田さんに用事でもあったの?」
「えっ!?会長……もしかしてですが、もしかして、もう目が覚めたんですか!?!」
「いや、目が覚めたってなんだよ?元から目は覚めてるよ!っていうか、どうしたの?突然。」
俺がもっと町田君と喋ろうとしたら
「はいはーい!ちょーっと皆聞いてくださーい!」
と、当然駿が周りに向けて大声をあげた。
「え!え!?どうしたんだよ、?え、目立っちゃってるよ!おい、俺こういうの……」
「はいはい、兄さんは黙っててね?
…………はーい!ちょっと聞いて欲しいんですが、今、皆さんも見た通りこの兄さん…あー、佐嶋秀はですね、記憶喪失です!むしろ、今までの兄さんが変だったんだけど……、まあそういうわけだから!」
そう言って俺の手を掴みながら走っていく駿。
「あっ、えっ!そ、そういうわけだからーーー!」
俺は、ハチャメチャに動揺し、駿の言葉を繰り返すことしか出来なかった。
◇◇◇
俺は駿に手を引っ張られ、校内に走っている最中、俺はさっきまで居た場所を振り返ってみる。すると、やっぱり、ポカーンとした人達とガヤガヤと俺たちについて話してる奴で溢れていた。
はあ……初日も初日、しかもまだ登校しようとしたってだけでこの有り様。前途多難だ……
はあっ……ったく、駿の奴~!俺はひっそりさあ……なんていうか、その……平穏に行きたいんだよ、!これじゃあさ~……んんん!まあ、俺のため?なんだよな~、はあっ……兄想いな弟を持つと困るぜ……
それから俺は、教室もわからないので職員室へと行くことにしたんだが……駿とは別れて、職員室への道を探す。
駿に聞くのが一番早いんだが、まあなんといってもあの暴走っぷりだし、それに……結構助けてもらってるからこれ以上は……なあ?
まっ!そういうことで、俺は職員室へと旅に出掛けたのである!
◇◇◇
初めて校内に入るが、なんだか無駄に広い!誰かに聞こうにも、なんだかヒソヒソしてて聞きにくいし……
困ったなあ……俺って完全に何処にでもいる村人キャラなんだから、あんまりそういうのは……
「あっれー?カイチョーじゃん!」
うっ……金髪のなんだかジャラジャラした怖い人に話しかけられてしまった……俺ただでさえ人とのコミュニケーションが……
「何してんのこんなところでぇー?あっ、もしかして、サボりぃ?」
「いや、職員室……探してまして……」
「あははは!!!!カイチョーさすがに場所覚えてよ~!もぉ、しょーがないねぇ、ついてきてー。」
「えっ、?教えてくれ……?」
「あはー、ついてこないと置いてくよ~?」
な、なんだか俺にもよくわからないが、案内してくれるらしい!人ってホント見た目じゃないんだな……知り合いっぽいけど、声かけてくれて道案内してくれるくらい優しいし……今日はやっぱりいい日なのか?金髪君!怖いなんて思ってごめんな?俺、今度から金髪の奴にもいい奴はいるんだって思うことにする!
◇◇◇◇◇◇◇
“職員室”と書かれた看板が見えてきたと思ったら、金髪君は、バッと俺の方を振り返り、近くのドアを指差した。
「ここだよ~!もーカイチョー、ちゃんと次は覚えてね?あっ、ついてったほーがいー?」
「大丈夫っ……あっ、ありがとう!ホントに!えっと……ごめん。」
「あっはは、カイチョーどーしたのー?んじゃね~?」
「あっ、ほ、ほんとにありがとう!!!!」
俺は金髪君が歩いていくのを見送って、ようやく職員室のドアと向かい合った。えーっと、誰を呼べばいいんだっけ?ハッ!!き、金髪君に聞けば良かったあああ!!!も、もう遅いし…………
くっ……仕方ない、あの作戦で行こう!
コンコン。ガラガラガラー。
「失礼します、あの、佐嶋です!先生お願いします!」
「おー、佐嶋!怪我大丈夫だったか~?」
「あっ、はい。えっと……」
どどど、どうしよ!?俺みたいなカスコミュニケーションでこのコミュニケーションお化けと戦わなきゃいけねえの!?ハッ!?待て待て待てーー!!!おい、俺の口!宿れよ、なんかー、あるだろ!?ほら、なんか何でもいいから上手く喋れそうな、あれだよ、あー……
「んー?佐嶋どうしたー?」
ひいいい!!!!
「あっ、河原木先生、佐嶋君そういえば先日お母さんの方から電話があってですね……………………」
「え?あー、はい。了解です。…………佐嶋、お前記憶ないんだって?」
「あっ、は、はい!そっ、そうなんです……」
「まあ、確かにこないだまでとは全然違うなー……よし、じゃあひとまず教室案内するから。あっ、篠崎先生、ありがとうございます。」
「いえ、大丈夫ですよ。じゃ、佐嶋君もまたね。」
しのさき、と言うらしい眼鏡の先生は、俺がパニクってるのを華麗にササッと解決してくれると、そのままさらりと去っていった。イケメン……こ、これがイケメンって奴なのかッ!
……くっ!負けた……
「それじゃあ、行くか、佐嶋。」
「あっ……はい!」
俺は先生に案内され、教室へと歩いていった。
◇◇◇◇◇◇◇
「そういや、佐嶋、記憶喪失ってーことは、俺の名前も覚えてないのか、な?」
「あっ、えっとー、はい……」
「あははは、いいんだよ!んじゃー、今更だが自己紹介でもするか~。俺の名前は河原木 達也!んー、前のお前には、達也とか呼ばれてたけど……まあ、何でもいいぞ?あっ!やっぱ、待て!先生はちゃんと付けてくれよな?ははは。」
「わかりました……河原木先生。」
明るく笑っていた先生は、俺が言うとキョトンとして、こちらの方を向いた。
「はーん……確かにこれは変わってるなあー?」
「あっ、あの、それのことなんですけど……」
「ん?どーした。」
「俺、覚えてなくて……記憶喪失前の俺がどんな感じだったのかっていうのも。それで、少しだけは聞いたんですけど……先生から見た話も教えてほしいっていうか……」
「あー、そうだなあ……」
先生がうーんうーん、と考えているのを見て、俺はどんどん不安が広がっていく。お、俺どんなやべぇ奴だったんだ!?
「「あ。」」
俺が前を見て、二年の教室を見つけて、先生は案内しているはずなのに、今気づいたという感じで、同時に声をあげた。
「あー、うん。話はまた今度な?……ついたみたいだ。」
「あ、はい。」
この先生、なんだか不安だ……。