第一話
ガヤガヤと周りが凄くうるさい。
はあ……ったく、静かにしてくれよ。俺はまだまだ寝てたいんだ!
「佐嶋!頼む、起きてくれ!」
はぁ?誰だよ、そんな切羽詰まった声出してるやつ。って、俺こんな声の友達いたか?
って、あー、もうわかったって!起きればいいんだろ、起きれば。
はいはい、なんだ――――
「よ……?」
はっっっ?!?!
俺は慌てて身を起こして、辺りを見渡す。
周りを取り囲む赤青緑黒とカラフルな頭の男達。それに、どこもかしこも真っ白で……すっげぇ清潔そうで……って病院じゃねえか!??!
俺が身を起こしたのをポカーンと見ていた男達もハッとして、俺に話しかけてきた。
「良かった!佐嶋、目を覚ましたんだな!」
「佐嶋様……良かった……!」
「うう…佐嶋……」
赤髪はなんだか泣きそうな顔で、青髪の奴はホッとした顔、黒髪は泣き出していた。
というか、病院……病院?病院…………え?俺なんかした…?病気?怪我?それになんだこの状況ッ?!知らない奴等に囲まれて……いやいやいや、そんな泣き出されても俺お前のこと知らないしっ……!
「え、いや……ど、どちらさま……ですか?え、ごめん知り合いだったっけ?ごめん、ほんとに俺記憶力ないからさ……」
「え?僕の事わかんない?橋田だよ!橋田凛!」
「は、佐嶋嘘だろ?凛の事忘れたのかよ?」
「いや、ごめんなさい……橋田?さんのことも、よくわかんないし……それにここにいる人みんなちょっとわかんないって言うか……」
よーく、よーく考えてみたけど、全く覚えてないし、聞いたこともない。こんな派手な髪の友達もいなかったと思うし……というかまず髪染めちゃダメじゃん!?え??高校デビュー!?高校デビューしようとしてんの??!?
◇◇◇
その後いろいろあって、本当に覚えてないのを理解してくれたのか、彼等はそれぞれ自己紹介をしてくれた。
赤髪の男前そうな奴が里中。里中とは高校から知り合った友達らしい。ん?高校……?まあ、と、とりあえず、んで!青髪の眼鏡が町田。町田は俺の委員会が同じで、それで見舞いに来てくれたっぽい。委員会って……俺この間卒業……んん?まあまあ……うん……で、そして緑髪が中宮で、黒髪のモジャモジャが橋田らしい!中宮とは俺と一緒に橋田を奪いあって喧嘩していたライバルらしい。俺が橋田の記憶をなくして、なんだか嬉しそうだが……って!?
俺が男を好きになる??!?何の冗談だよ!!
と、いうか、高校……?高校って言ったか!?俺は確かに高校に今年入る、新入生だったはずだ。
確かにその高校を受験したし、受かったときはとても嬉しかった…………でも、今の俺は高校二年。
それじゃあ、こいつらの話をそのまま聞いたら、丸一年、いや!一年半ほどの記憶がなくなっているって事じゃねえか!!?
~~
と、しばらく考えていたら、俺の父さんと母さんがやって来た。
父さんと母さんは全く変わっていなかったが、話していたら、ちょこちょこと食い違うところがある。
どうやら、俺は本当に記憶をなくしてしまったらしい……一応医者の先生にも見てもらったが、脳には特に問題がないし、しばらくすれば徐々に記憶を取り戻していくはずだと言われた。
父さんと母さんは心配していたが、まあなんとかなるだろ、と楽観的に考えることにした!ネガティブに考え込んでも俺の頭じゃ解決してねえし!
で、医者の先生にはもう退院してもいいと言われた。
俺は覚えていないんだが、俺が入院することになった事故は案外大したことないものだったらしい。だが、俺が目を覚まさないので、父さんと母さんはものすごく心配したと言われた。はあ……また一つ、親不孝をしてしまった……。それに、頭はさほど打ってないらしいのだが、なら何故俺には記憶がないんだろう?まあ、難しく考えても仕方ないし?とりあえず飯だ!飯!早く家に帰ってカレーが食べたい!(夜飯がカレーかは知らない。)
◇◇◇◇◇◇◇
家に帰ると弟の駿が居た。これも記憶のせいか、身長が大きくなっている気がするし、それになんだが俺よりイケメンになっている気がする。
くそっ……同じ親から産まれたっていうのに何であいつは俺よりイケメンなんだ!?はあ……っとため息をついて、自分の部屋に入ろうとしたら母さんに呼び止められた。どうやら、大事をとって後一週間は学校を休むと連絡したらしい。まあ、休めるなら思いっきり休もうと思い、俺は自分の部屋を開けた。
◇◇◇◇◇◇◇
部屋を開けた瞬間、大量の本棚と綺麗に片付けられた部屋に、そっと部屋を閉めた。
おかしい。どう見てもおかしい。俺はそもそも勉強は嫌いだし、あんなに勉強の資料があるのはおかしいし、それに俺は片付けが出来なかったはずだ!
もう一度部屋を開けて、そっと入る。
ああ、何度見てもやっぱり見間違いじゃないようだ……
っ!俺の漫画は何処にいったッッッ!!???
必死の小遣いで買った、“悩殺ヒーロー橘”は?
俺のあの巨大ロボヤツシのフィギアは!?
おい、待て!昔の俺!!いや、未来の俺?と、とりあえず何処にやったんだ!!?
俺は部屋中をぐちゃぐちゃにしながら必死に探して探して探し回った。だが、見つからない。えっ?マジ?マジで言ってる?ほ、ほんとに捨ててしまったのか?、いや、まだだッ
クローゼット。
俺にはまだそこに、そこに希望がッッッ!………………
あああああああ!!、見つかった……俺の愛しき漫画達……!!!
くそっ、なんて奴だ!こんな狭いクローゼットに俺の漫画を押し込むなんて!あっ、ちょっ、フィギアアア!?お、折れてるやん、……うおおおお、俺ええええ!!!!?
◇◇◇◇◇◇◇
あれから二、三日後。
未来の俺が書いたと思われる日記が見つかった。ますますわからない。俺は、日記なんてもんはだいたい三日坊主になるから書いたことなんてなかったのに。
読んでみると、どうやら高校生の俺は前世の記憶とやらを思い出したらしい。
ああ、あー、分かるよ、高校生の俺君。君、宿っちゃった?右手に。
あー、俺もあったなあ!前世とか異世界とかさ~。
まあこの高校生の俺はどうやら前世、エリートな俺様だったらしい。ちょこちょこと痛いナルシが書いてある。
それから、俺はこの日記を半分くらい読んで、そっと閉じた。これ、俺が書いてるんだよなあ……たしかに高校生の未来の俺なんだけど、なんか、なんか……うぅ…………
◇◇◇◇◇◇◇
それからはたいした発見もなくあっという間に月曜日になり、俺はとうとう学校に行かなければいけなくなった。
弟の駿もそういえば今年から高校生だ。何処の高校か聞いてみたら、どうやら俺と同じ高校らしい!
きっと今の俺より駿の方が高校を知ってそうだし、どーせなら学校案内でもしてもらおうか、と声をかけた。
「よっ、駿!お前いつの間にそんなでかくなったんだ?それにイケメンになりやがって……兄ちゃん悲しいぜ。」
「何言ってんの兄さん、俺達毎日会ってんのに……ああ、そういえば記憶ないんだっけ?はは、昔の兄さんみたいだ。って言っても高校に入る前の兄さんだしそんな昔じゃないか。でも良かったよ。兄さん高校に入ってからほんと酷かったし。」
「は?俺なんかしたの?うえー、こええ!全然覚えてないから尚怖いわ!学校……大丈夫かなあ……って、ちょっとくらい教えろよ!お前知ってんだろ?」
「まあ……でもホントに少しだけだよ。兄さんが急に俺様になって生徒会長してるってとこくらい?まあ、兄さんのことだしなんか適当にしてるんだろうなあって思ってたけど、案外ちゃんとしてて面白かったよ。あはは、そういえば兄さんのファンクラブなんかもあるんだっけ?凄い面白い高校だよね、あそこ。」
「な、なんだそれ……!?俺、生徒会長なんかしてんの?この俺が!?それにファンクラブってなんだよ!…………っておい、待て!、ちょっと置いてくなよ!」
駿はクスクスと笑いながら家を出ていった。俺はなんとしても今の悪夢のような恐ろしい話の続きを聞かなきゃいけないと、急いで支度をして、駿の後を追いかけた。