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アネモネ  作者: 冨永 健
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7部咲

最後の花火が打ち上がり、花火大会も終わった時。

僕は聞きたかった話を聞くことにした。


「聞きたいことって言ってた話今でも良い?」


「おー、そうだった。どうぞどうぞ。」


「何故、今まで全然関係の無かった僕に、あの日以降気にかけてくれるの?」


彼女はそんなことか!と言わんばかりの顔をして答えた。


「それはね、さっきも言った通り君が私以上に思い詰めた顔で海を見てたからかな。うーん、上手く説明は出来ないけど、あの時君を見つけたのも、話しかけたのも、そしてここに来たのも、一緒に花火を見たのも。全部何かの縁なのかなって思って。」


思っていた回答とは違っていた。


「それだけ?」


「うん、それだけ。ファミレスで君に明日幸せになれるかもしれない!って思うようにしてるって話したと思うんだけど。君は今幸せ?」


正直幸せとはどういう気持ちなのか僕には分からなかった。


明日死ぬかもしれない恐怖を超える幸せなどあるのだろうか?

ただ、僕の中を昔からこの疑問がずっと巡っている。


しかし、ここまで人に入れ込んだのは初めてだった。

同時に彼女がどういう人なのかもっと知りたい気持ちもどこか芽生えている。


「分からないよ。」


「そっか。でもね、私は今幸せだよ。まだまともに話し始めてたった数週間だけど偶然出会った君と偶然一緒に花火を見て。君が笑ったり、冗談言うたびに何故か嬉しくなるの。不思議だけどね。」


僕も同じだ。

一線を超えてはいけないと思う反面、どこか彼女といる間だけ、自分の弱さも考えもありのままを出せる。


「分からない。でも、少なくとも青島さんと今花火を見ている時は嫌なことも全部忘れることが出来た。素直に綺麗だと思った。もっとこの時間が続いたらいいなって思った。」


そこまで言った瞬間ふと我に帰った。


「あっ、待って!今のは…!」


そう言いながら彼女の顔を見ると、

ニヤーっとした顔でこちらを見ていた。


「ほほーん、女性に対してその発言は驚きですな〜。」


時すでに遅し。


そんなつもりは無かったと言えば嘘になる。

実際、まだ出会って間もないはずなのだからどこか彼女のことが気になって仕方なかった。


今日見た花火もずっと終わることが無かったらいいのにと思っていた。


「はぁ…。青島さん。」


「何?」


「あなたのことがとても気になります。」


「えー!そこは好きです!とか付き合って!とかじゃないの?」


「えっ、あっ、そういうの期待してたの?」


「えぇ…。ふふっ。私も君のことがとても気になります。付き合って下さい、神崎…あれ?下の名前なんだっけ?」


比呂ひろ。神崎比呂です。是非お願いします。」


「ごめん、初めて知った。これからよろしくね、比呂!っていうか、こういうのは男の子から言って欲しかったな〜」


「ごめん、青島さん。」


「里音でいいよ!」


「えっ、じゃあ、里音…さん…。」


呼びなれない名前にタジタジしていた。


こうして僕は人生で初めて彼女というものが出来た。

同時に初めて"幸せ"の意味を感じた気がした。


同じく花火大会を終えて帰路に立つ人たちが落ち着くのを待ち、僕達も帰ることにした。


行き道に寄れなかった屋台の方に行き、売れ残った商品を安く買える事が出来たのでいくつか買い、食べながら帰ることにした。


里音の最寄駅に着くと今日の出来事がどこかまだ現実だと思えない様な気持ちだった。


「じゃあ、私、ここで降りるから。また明日ね!」


「うん、今日はありがとう」


「おぉ、素直になったね!ううん、こちらこそ。帰ったらLINEするね!」


そういうと彼女は電車が出発するまでずっと手を振ってくれていた。


電車の中で1人になるとだんだんと実感して来た。


周りにはまだかなりの人が乗っていたがどこか1人だけの空間の様な気がした。


自分が今日言ったこと、今日聞いた話、今日見た彼女の姿。


幸せも束の間。

僕は少しの胸の違和感と共に病気のことを思い出した。


幸い、軽い違和感のみで終わったので大事には至らなかったが、このことを彼女に伝えるべきか。


しかし、普通の人だと思って付き合ってくれた彼女にいきなりこの話をするのもどこか酷な気がした。


「いつか…いつかタイミングを探して、伝えよう。それまでは、それまでは…」


僕は今日初めて出来た彼女に対して、決して小さくない秘密を作ってしまったのだ。




それからは付き合ってることを学校ではバレないように、あえて会うのは放課後になってからと決めて過ごすようになった。


あえて学校近くの場所では遊ばずに、一つ隣の駅近くの喫茶店に行ったり、カラオケに行ったり、ゲーセンに行ったりと、今まであまり体験してこなかったことに新鮮さを覚えながらも楽しくすごしていた。


そんな生活も初めて約2ヶ月が経とうとしていた。


「今日はどこいく?」


「どうしようか?というより塾の時間は大丈夫なの?」


季節は11月、受験シーズンも佳境を迎えており、周りの友達もみんな年末にかけて追い込みをかけ始めている時期である。


「今日は18時からだからまだ大丈夫だよ〜」


「里音はどこの大学に行きたいの?」


「急にどうしたの?私はあれかな家から近いしあの大学に行けたらなって思ってるよ」


里音のいっている大学はレベル的にも安全圏で今の実力でも多分合格出来るだろう。


「里音ならもっと上を目指してもいいんじゃないかな?」


「何で?だって比呂もあの大学志望なんでしょ?だから私もって…」


里音は前に僕に志望校の話をしてきた。

僕は特に希望もなかったので今の実力で行けるレベルの大学を適当に選び答えた。

それを間に受けた様で里音も同じ大学を目標に進路を決めようというわけだ。


しかし、僕の命はいつまで持つか分からない。

仮に大学に入学出来たとしてそのまま里音と一緒に卒業出来る確証なんてない。


それなら里音の実力に見合う進路を選んで彼女の道を進んで欲しい。

ただ、それだけの想いだった。


「今ちゃんと塾に通って毎日勉強して、結果もついてきてるのに勿体ないよ。里音ならもっと上を目指せる。合格も出来る。だから…」


「はいはーい、この話終わり!時間もあんまり無いし喫茶店行こうか?」


話を遮る様に終わらせるといきつけの喫茶店に向かい足を進めた。


僕は早く自分の真実を彼女に伝えないといけないと思った。しかし、伝えることで今の関係が終わってしまうのでは無いかという恐怖心が生まれずっと言えずにいた。



冬休みも近くなったて来た頃、僕は里音とある計画を立てていた。

"旅行"である。今まで付き合ってはじめての長期休暇ということもあり、お互いにバイトの給料を貯め、旅行を計画していた。


「で、どうする?どうする?」


「うーん、西に行くか東に行くか…」


「よし、京都に行こうか!」


「えっ、またいきなり間を選んだね」


「だって観光地が多いイメージあるし」


こんな感じでいつも唐突に物事が決まる。

そんな感じも最近だいぶ慣れてきた。


12月も終盤に差し掛かった中。

僕たちは初めて地元を出て2人で過ごすのだ。



終業式まであと1週間という時に僕は学校を休んだ。

病院へ定期検診に行かなくてはならなかったからだ。


実は特に体に変化が無くても、月に一回定期検診を受けることが義務付けられていた。

先に言った通り事例が余りにも少なく、未だ治療法も無い。


そういうことからいざという時に対処をするために、定期検診を受けて数値などに少しでも異常が無いかを確認し無くてはならない。


定期検診に行く際はいつも母親と2人で行くことにしている。


「あんたのこの定期検診に付き添うのもこれで何回目だろうね」


「さぁ、小学2年からだから数十回目?」


「未だに慣れないのよ。ありがたいことに今の歳まで何事も無く育ってくれて嬉しいんだけど…」


「大丈夫だよ。死ぬときは事前にちゃんと言うから」


「こら!そんなこと冗談でも言わないの!少なくとも私より長くは生きるの!」


「はいはい。」


こんな会話が出来るのも時間がそうしてくれたのだろうと思う。

少なくとも発覚した時にはとてもじゃないが母親に対し冗談なんて言える空気じゃなかった。


病院に向かっていると携帯が鳴った。

里音からのLINEだ。


"今日風邪こじらせちゃったみたいで熱出てきたから学校休むね〜"


最近寒さが急にキツくなったことから体調を崩したらしい。


"大丈夫か?無理せず早く良くなってください"


"もちろん!すぐに直して来週は旅行だね!"


はじめての大きな予定に僕もどこかワクワクしていた。

正直、僕も未だに定期検診には慣れない。

というより、里音と付き合い始めてから定期検診が怖くなった、という表現の方が正しい。


もし何か変な数値が出たら。

そう頭によぎる度に正常ではいられない気がした。


あの日、自分の死を受け止めたのに、いつからかまたそれを否定するようになっていた。


病院に着き、僕は呼び出される。

色々な検診を受けだいたい小一時間くらいかかる。


その間、母親は待合室でずっと待っている。


僕が病室に入ると、待合室の母に誰かが話掛けた。


「あ、あの、もしかして比呂君のお母さんですか?」


母親は初めて見る顔に不思議そうに答えた。

「そうだけど。もしかして比呂のお友達?」

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