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アネモネ  作者: 冨永 健
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開花

"君のそういうところが嫌いでした。"

彼女の口から聞いた最後の言葉は余りにも辛いものだった。


とある夏の日、一般的には夏休みと言われる期間の真っ最中。

その日は特に予定も無く、ただ気分を紛らわすために一人で出かけることにした。


今年が高校三年で受験の年ということもあり、周りの友達は否が応でも勉強モード。

そんな中で予定が合う奴も少なく過去最高につまらない夏休みとなっている。


家からさほど遠くない海に到着した。

夏休みということもあり、子供達の姿がいつもより目立つ。


少し西に向かって歩くとほとんど人気の無い場所につく。

昔から1人になりたい時や、考え事をしている時には良くここに来ていた。


最近ふと思うことがある。

明日、死ぬと分かっていたとしたら、

どんな気持ちになるのだろうか?

何をしようと思うのだろうか?

誰に会いたいと思うのだろうか?


何故こんなことを考えるかというと、僕は生まれつき病気を患っていた。


それもいわゆる"奇病"という類のものである。


病名も無く、いつ発症するかも分からず、世の中に数件しか事例がない病気だ。

しかも、何より恐ろしいのは治療法が無く、改善策がないということだ。


症状としては基本的に普通の健康な人と全く同じなのだが、ある日急に


"死に至る"


というものである。

ある日急にというのは、この病気で15歳という短い人生しか送れなかった事例とは別に80歳まで生きたという事例もある。


そう常に死と隣り合わせで生きて行かなくてはならない。


僕がこの病気と診断されたのは小学2年生の時。

急に高熱にうなされ病院に搬送されたのだが、すぐに体調が回復し普通の風邪という診断だった。

たまたま学校の健康診断を受け損ねていたということから、血液検査をしてもらうこととなりその日は薬をもらい帰宅した。


数日が経ち、診察を受けた病院から急に電話が掛かってきた。すぐに来て欲しいと言われ病院に向かうと、医師の一人が急に顔色を変え、何かを探すかのようにある資料を出してきた。

その中にこの奇病の事例と特徴が書かれていた。


血液検査の結果、見たことの無いウィルスが見つかったと言うこと、そのウィルスが資料に書かれているこの奇病のウィルスと同じと言うこと。

その日以来、両親は僕に対してどこか優しく、どこか他人行儀になってしまった。


当時は受け止めることが出来ず混乱していたが、いつしかそれが普通となり、人としての心がどこか欠落したような性格になった。



一人で海を見ながらぼーっとしていると、後ろから足音が聞こえた。

気になって振り返るとそこにはどこか見覚えのある顔がこちらを見ながら立っていた。


「やっぱり!神崎君じゃん!」


声を掛けてきたのは同じ高校で同じクラスの女子。

青島あおしま 里音さとねだった。


「何でこんなとこに一人でいんの?もしかして黄昏ちゃってたり〜?」


僕の病気のことは親以外には話していない。

もちろん基本的には健康体の人と何一つ変わらないから隠していたとしてもバレることはない。


「いや、一人で暇だったからちょっと散歩の途中」


「そうなんだ!私も!友達がみんな塾行っちゃて〜。そんな日に限って私だけバイトも塾もoffなんだったんだよね」


「で、ここには何しに?」


「うーん。特には。たまにねここに来るんだ。ほら?一人になりたい時とかってない?」


自分と同じ理由で同じ場所に来た同級生に少し驚いた。


海から見える船にかかる蜃気楼が今日は一段と濃い気がした。

それくらい今日は暑いということだ。


「もしかして、何か悩んでるの…?」


「ほほーん、あまり話したこともない女子に対して急にそんなこと聞いてくるんだ〜?」


どこかいたずらな表情を浮かべながら言ってきた。

いやでも確かにそんなに話した記憶もない。


「ごめん、そんなつもりじゃなかったんだけど。

どこか寂しそうな表情をしているように見えたから…」


僕自身そうだったからどこか重ねてしまっていたのかもしれない。


すると急に笑い声が聞こえた。

「ごめん、ごめん。ちょっとからかいたくなっちゃって。」


笑い疲れたのか一つため息をついた。


「実はね…。最近彼氏と別れちゃって…。本当なら今日はデートの予定だったんだけど、無くなって。気が付いたらここに来てたんだ。」


先ほどとは打って変わってどこか寂しそうな顔でそう言った。


「あっ…そうなんだ。なんか、ごめん。」


波の打ち付ける音がよく聞こえる。

少しの沈黙のが続いた。


「謝んないでよ!むしろ良かった。多分1人で居たらもっと凹んでたもん。何ならここから身を投げ出してたかも」


冗談っぽく言ってるがどこか冗談には聞こえない彼女の言葉に何も言い返すことは出来なかった。

"彼氏に別れたくらいで死のうなんてバカか"と。

彼女にとってはそれ程の事なのかも知れない。


「だからもうちょっとここで話に付き合ってよ?神崎君が良かったらなんだけど。」


「僕も特にすることも無いし。君が死なずに済むなら居るだけ居るよ。」


僕はこういう女性が苦手だ。

愛だの恋だのとそれしか頭にない女性。

それを理由に死のうなんてもっと他に大事なものがあるだろう。


もっと大事なもの?


僕の思う大事なものって何なんだろう?

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