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ベルバリーズ王の謁見

ベルバリーズは魔国の東に隣接する、小規模国家である。

農業が盛んで人材にも富んでいたが、位置が悪かった。

圧倒的な戦力と武力を持つ魔国に対して抗うか、協力体制を敷くか。

それで国内で揉めていた時に、侵攻を受けた。

そして魔王レグナールただ一人に軍を蹂躙され、敗北。

王ロジーク4世は抵抗することを止め、属国となることを決めた。

それ以降はレグナールの力に恐怖し、部下の一員として働くことになったのだが。


――――――――――――――――――――


謁見の間に姿を現したそのロジーク王は、壮年の男性。

中肉中背で、疲れ切ったような顔。

謁見用に仕立てたであろう立派な正装とは正反対のような顔だ。

それに遅れたことに対する恐怖感もその顔にはにじみ出ていた。


「ま、魔王様、お久しぶりでございます」


「ロジーク・・・貴様、属国の長の分際で、皇帝を待たせるとはどういう了見だ」


レグナールが立ち上がると同時に玉座の間に雷が落ちる。

それは、レグナールを中心に発せられた『サンダーボルト』の魔法だった。


「ひ・・・ぇ!」


怯え、腰の抜かすロジーク。

隣の姫レフィニアは一切反応していなかった。


「はぁ・・・あなた!」


一言溜息をつくと、レーナが諫める様に声を上げた。

その声を聞くと、レグナールの身体が一瞬止まる。


「遅れた理由も聞かず、罰するのは皇帝の正しい姿ですか?

 それに先ほど私に言われたこと・・・忘れてない?」


「・・・」


レグナールは玉座に座り直すと、再度ロジークを見た。


「・・・短気を起こすところだった」


ロジークは冷や汗をハンカチで拭っていた。

隣に座る少女、レフィニアはその様子を驚きもせずにじっと、見ていた。


「・・・助かります、レーナ皇后様」


「良いのよ、この人・・・感情の制御が苦手だから」


「・・・」


レーナをちらりと見ると、レグナールは頬杖をついた。

不機嫌そうというよりは、自分の短気に呆れているようだ。


「それで・・・遅れた理由は何だ?」


「は、も、申し訳なく・・・・途中で馬車の車輪が脱輪しまして」


「・・・それは大変でしたね。あなた、これはしょうがない事。

 私たちの国の道路に悪路があってそこで足を取られたのなら責任は私達にある」


「・・・む、むう」


レグナールはタジタジになりながら、レーナを見る。

・・・こう見ると、惚れたものの負けというのがよくわかるというものだ。


・・・。

しばらく雑談が続いた。

お互いの国の近況の事、他国との接触・・・云々。

大概が他愛のない特に気になるようなものもなかったのだが。

一つだけ、不穏な話が混じっていた。


「何?フォーリスが動いた?」


「は、はい、ただ・・・国境際まで軍を動かしてきただけですのでいかんとも」


レグナールは顎に手を置くと、何やら思案している。

その様子を見守るレーナとロジーク。


「留意はしておこう、何かあれば援軍を送ると約束しよう」


「魔王様、ありがとうございます・・・ほら、レフィニア、お前も頭を下げんか」


頭を下げつつ、自分の娘にそう言う。

しかし、レフィニアはぼーっとディランを見つめていた。


「そういえば・・・紹介がまだじゃないの、ロジーク?」


「あぁ!これは失礼・・・レフィニア、自己紹介を」


レフィニアの背中を押し、促すロジーク。

片膝を上げると、自分の着ている服のスカートをつまみ、丁寧なお辞儀を一つ。


「・・・レフィニア・アルメーダ・・・です」


「ほう・・・剛毅な娘だな」


レグナールはそう感心したように呟く。

自分の姿がどれだけ怖いかは身をもって知っている。

そして、目の前で一切怖じることなく立派な挨拶をした少女。


「ロジーク、貴様の娘には勿体ないほどの胆力を持っていると見えるぞ」


「はは・・・世間知らずなだけで、御座いますよ、はい」


そう言いつつも、ロジークは流れる冷や汗を拭く。

・・・気に触れたら、殺されると思っているのだろう。


「・・・そうだ、こちらも紹介しておこう。

 ロジークは生まれた時に会ってはいるが、大きくなってからは初めてだろう」


――――――――――――――――――――


俺は立ち上がると、息を一回吸う。

そして、目の前にいるロジークとレフィニアに向かって言う。


「ディラン・レグナール・・・よろしく、ロジーク王、レフィニア姫」


そう言って、二人の反応を見る。

頭は下げなかった。

・・・皇帝の息子が、臣下に頭を下げるのはおかしい。

しかし、身体は少し反応していた。


(社会人の癖で・・・頭を下げるところだった・・・!)


長年の癖は取れにくいものだと感じた。

・・・。


「殿下に置かれましても、ご壮健そうで何よりでございます」


ロジークは儀礼的にそう返し、頭を下げる。

まあ、そう返されるだろうとも思った。


しかし、気になったのはレフィニア・・・彼女の反応だ。

こちらをじっと見ているが、何を考えているのかが分からない。

ただ気になってみているだけならいいが、どうにもそうじゃない気がする。


こちらも彼女を観察してみることにする。

・・・彼女は綺麗な長い金髪をハーフアップに纏めている。

俺と同じくらいの年齢だとは聞いたが、彼女の顔は大人びていた。


いや、大人びて見えるのは彼女の顔に表情が見えないからだ。

これでも元社会人、営業も行っていた時期もある。

人の喜怒哀楽に関しては多少敏感だ。

それで言うと・・・彼女にはその喜怒哀楽自体が見えない。

こんな場にいるのに何も感じないという事があるのだろうか・・・?


お互いに、じっと見あう俺とレフィニア。

それを見た母、レーナは何を思ったのか。


「・・・ディラン、レフィニアさんを連れて、中庭で遊んでいらっしゃい」


「え?」


「ほら、行ってらっしゃい」


俺の背中を叩くと、連れて行けと促す。

・・・どう思われたんだか・・・。

だが、言われた以上は従った方がいいだろう。

それに、レーナ・・・つまり母の目には。


子供は出て行った方がいいという意味合いもあるように見えた。


――――――――――――――――――――


「行ったか」


自分の息子と、ロジークの娘を見送るレグナール。

レーナも同じように見つめていた。


「ロジーク、話はそれだけでないだろう?」


「ええ、魔王様・・・」


ロジークは汗をぬぐう。

先ほどの冷や汗ではなく、緊張のために出る汗を。


「・・・実はご相談がありまして」


「相談?先の国境への対応とは違うのか?」


玉座を座り直し、足を組む。


「・・・は、はい・・・その」


もごもごと何かを言っているが。

その言葉が聞こえてこない。


「ロジーク王、緊張するのは分かるけど・・・ちゃんといった方がいいわ。

 あなた、怒らないで話を聞いてあげて」


「怒ってはおらん・・・だが、しっかりと話せ、ロジーク」


ロジークはかしこまると。


「レフィニアを、嫁に差し出したいと思っております・・・」


「・・・嫁?」


今度は腕を組むレグナール。

しばらく思案すると。


「我にはレーナが居る、要らん・・・それに年が離れすぎではないか?」


「い、いえ・・・そうではなく」


「・・・ああ、なるほどね」


レーナは先ほど出て行った二人の行った、中庭を見る。


「ディランのお嫁さんにしたいってこと?」


「は、はい・・・」


「そう」


レーナは何か考え、レグナールの顔を見る。

その顔は、何やら複雑そうな顔だ。


「ディランには、まだ早いのではないか?」


「・・・許嫁ってことでいいじゃない?

 それに歳の近い異性が近くにいればディランの成長にもいいと思うけど」


「・・・」


レグナールはしばらく思案した後、腕を組むのを止める。


「好きあうのなら好きにさせればよい。我は干渉せぬ」


「あら・・・前向きね。可愛い可愛い一人息子だから、

 手放したくないって言うと思ったんだけど」


「それは・・・そうだが。自分で考えられる歳だ、自分で決めさせるべきであろう」


レーナはクスクスと笑う。

その様子を見たレグナールは


「何が可笑しい・・・!?」


「だって、そう言いながら、足が落ち着いてないんだもの」


自分の足を見る。

・・・そわそわと動いていた。

その姿をまじまじと、ロジークは見ていた。


「あなたも心配なのね、私もそうよ」


レーナはロジークを見る。


「でも、お互いの気持ちが大事。相違わないのならこの話は無しよ」


「・・・それでよいかロジーク?」


「それは・・・」


顔を伏せたまま、動かないロジーク。

納得がいかない、というより。

どうしていいかと、焦っているように見える。

・・・彼はなぜそこまで焦っているのかレーナは気になった。


「ロジーク王、もしかして・・・フォーリスから、何か言われたんじゃないの?

 国境沿いの話もそれに関連しているのではないのかしら?」


「え・・・!?いや、その・・・」


「話せ、嘘は許さん」


レグナールが彼を睨んでそう言う。

その眼光には力が宿っていた。


「・・・っ、その・・・フォーリス王カギュラから、その・・・レフィニアを

 側室として差し出せ、と・・・そ、そう、脅されまして、その。

 国境に軍を送ってきたのも、それが、原因かと、その」


一瞬、場が凍った。

・・・まだ、6歳の女の子を側室に迎える?


「あのロリコン・・・!まだ懲りてなかったのね」


レーナは不機嫌そうに椅子を叩いた。

レグナール、つまり魔王を倒すための冒険中に、寄ったことがあった。

その時の彼女は16歳・・・戦いが終わったら側室にと、そう誘われたのだ。

無論、答えは大振りのパンチだった。


「・・・魔王様に差し出したとなれば、カギュラも諦め、手を引くと。

 そうなれば・・・国境から軍を引き、平和裏に、その」


「そんな理由で、貴様・・・!実の子を他に差し出すのか!」


怒り、立ち上がるレグナール。

両手には魔法の波動が宿る。


「い、いえ!それだけではありません!

 魔王様の息子、ディラン様なら、我が娘を幸せにできると思い・・・!」


「・・・あなた、落ち着いて。

 ロジーク王だって、断腸の思いで言ってるのよ?

 ・・・実の子を、他に差し出すなんて、考えただけでも・・・胸が痛くなるもの」


レーナがそう呟くと、レグナールは魔法の波動を止める。

実の子を差し出すと聞いて我を忘れるのは、彼も自分の息子が可愛いからだ。

そう、それはロジークも変わらない。

その顔は苦悶の表情と言っていいほどに歪んでいた。


「・・・」


立ち上がったその身体を今一度玉座に戻すレグナール。

深く一つ息を吐くと、ロジークを見た。


「ロジーク、レーナの言葉・・・貴様の考えと思っていいか?」


頷くロジーク。


「勿論で御座います・・・」


「だがロジーク、我が魔軍を国境に送ればそれで済む話ではないのか?」


恫喝目的で来たのならそれだけで軍を引く可能性もある。

相手が精強な魔軍なら尚更といったところだろう。


「魔王様・・・援軍の約束までして下さり恐悦です・・・が。

 わ、私としましても戦になることは何としても避けたいと思っております。

 特に今の時期は収穫の時期と重なり、領民を思えば戦争などしている時では」


「・・・」


レグナールはその言葉を黙って聞いていた。

確かに、国境沿いに魔軍を送れば争いになる確率が格段に上がる。

戦にでもなれば収穫期のベルバリーズに出る損害は無視できないものだろう。


「ロジーク、お前は国の為ならば我が子でも捧げる覚悟を持っているという事だな」


「・・・そう、思っていただいて、構いません。しかし」


「む?」


「もし・・・娘が不幸になることがあれば、私は自分の命を絶つ覚悟があります」


そう言ったロジークの目には、確かな覚悟の炎が見えていた。

レグナールはその目を少しだけ覗き、そして。


「まあ、よい。お前の覚悟は分かった・・・ガルディ!」


ガルディの名を叫ぶと、またどこからともなく現れるレイスの老人。


「あの二人の様子を見てこい」


「は・・・陰から見てきます」


また消えた。

ロジークはその消える様子を眺めていた。

はっと我に返ると、二人を見る。


「・・・レフィニアが、粗相を起こしていないといいのですが」


「大丈夫じゃない?いい子に見えたけど」


「ああ、我もそう見えたが」


ロジークは、自分の子供が粗相をしてないかと慌て始める。

先ほどの覚悟を決めた顔が嘘のように。


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