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導きの死神

クロコから聞かされた話。

この世界は俺の読んでいた『マジックキング』の世界。

そして、作者死亡で打ち切りになった・・・先のない世界。

その打ち切りの時間は俺が18の誕生日の旅立ちの日。

そしてその先は俺自身が作って行くことになるという事だ。


・・・まだ気になっていることがあったので、クロコに問う。


「君はどうして、自分で行動できるんだ?」


この世界がマンガの筋書き通りなら彼女にも影響があるはず。

そう思って聞いたのだが。


「私は案内役・・・他の方に比べると、自由が利きます」


「・・・そういうものなのか?」


「ええ、ディラン様に分かりやすく言うと・・・私はメタい存在といった所かと」


「なるほど」


そう考えると、クロコが自由に動ける理由が分かった。

クロコは・・・マンガの主要人物の枠からは外れているのだろう。

解説役と案内役を兼ねているという事は読者に近い存在とも言えるしな。


「分かった・・・それは理解できた。けど、もう一つ」


「?」


「なんで、今になって?原作者が死んで、20年は経ってるはずだ」


その時間。

本来なら、死んだ直後とかにクロコが動くんじゃないか?


「・・・ああ、それは簡単です。

 ディラン様、あなたが、そのマンガを開いたお陰です」


「これを?」


ボロボロで擦り切れた表紙のマンガ。

確かに、クロコに襲われる前に開いた覚えがある。

だが、あれが原因なのか?


「特別な力・・・いえ、魔力とでも言いましょうか。

 その魔力が宿った本を開いた・・・」


「・・・それで?」


「私は現実の世界に干渉出来るようになりました」


そして、俺をここに招いたって訳か。


「・・・『マジックキング』を愛していた、あなたなら。

 この世界を救えると、そう思って」


クロコはこっちの顔をじっと見る。

その目はとても澄んでいた。


「なんか、悪いな。昔は好きだったけど、ずっと忘れてたし」


クロコは首を振る。


「いいえ、表紙が擦り切れてボロボロになっても、ずっと、持ってたじゃないですか?」


手元のマンガ本を見る。

・・・そうだな、無意識に・・・大切にしてたのかもな。


「ああ、そうだな」


そう一言呟き、マンガ本を部屋の宝箱に入れた。

宝箱の中には、父から貰った短剣。

母から貰った、手製のお守りなんかが入っていた。


「・・・すごいですね」


クロコが隣に立って覗いていた。

少し恥ずかしくなる。


「・・・旅立つ時には、全部持っていくことになりそうだ」


この短剣もお守りも。

奥に入っている、薬の詰め合わせも。


「全部、この世界では特別なものです。

 ・・・魔王様も勇者様も、薄々感じているのでしょう」


「俺が死ねば、世界が終わると?」


「ええ・・・主要人物でも重要なお二方ですから」


・・・責任重大だな。

18までは死なないことは確定はしてるが。

・・・それ以降は、俺の死=主人公不在=マンガの最後だ。

普通のマンガなら、作者が次の主人公を用意する所だが、

『マジックキング』の作者はもういないのだ。


「・・・6歳のガキが、今からできることなんて限られるよな」


クロコには友人を作れと言われたが。

当人のクロコを見る。


「1年後に、魔国の属国であるベルバリーズから、

 第一王女であるレフィニア王女が謁見に来られます」


「ベルバリーズ?・・・ああ、たまに使節団が来るあの国か」


ベルバリーズ王国は魔国の属国の一つ。

現在も友好国・・・というより、前は恐怖で従っていたみたいだが。

現在は父の変わり様に安心しているきらいがあるらしい。


「・・・ベルバリーズの現王、ロジーク4世。彼は残酷王と呼ばれた頃の、

 魔王レグナールの侵略に恐怖し、属国になりました」


クロコは、下げていたポーチからスマホのようなものを取り出していた。

・・・この世界に似つかわしくないもの。


「・・・それは?」


「これは、預言書・・・いえ、これから先のストーリーですね」


羅列されている、主な出来事。

だが、俺にはなんて書いてあるかが分からない。


「主人公なんですから、ネタバレは駄目ですよ」


「・・・ああ、そういう事」


「その都度、私が言いますので、お任せください」


そう言うと、スマ―――いや預言書をしまった。

俺が隅々まで全部内容を覚えていたらどうするのだろうか。

そう思ったが今は黙っておくことにした。

・・・ほとんど内容覚えてないし。


「・・・とにかく、ベルバリーズの王女とは仲良くなっておいた方がいいです。

 後々、あなた様の味方になります」


「そうか・・・分かった」


「あと、私は常に傍にいますので。・・・御用の時はお呼びください」


そう言い残すとクロコは風のように消え去った、まるで最初からいなかったように。

・・・案内役、か。


――――――――――――――――――――


あれから1年後。

クロコが言うように、謁見の手順が組まれ始めた。

王直々に、娘を紹介しに来るという。


謁見当日のよく晴れた日。

父は玉座に座り、母は隣の専用の椅子に腰を掛けた。

俺は・・・二人の間に挟まれるように椅子に座っている。

格好は正装、幼稚園の頃に着た、お遊戯用の王子様みたいな格好だ。

だが、作り物ではなく、本物だ・・・宝石とかも。

ただ、こんな格式ばった正装なんてほとんどしないので居心地が悪い。

というよりも若干苦しいまである。


「ロジークめ、どれだけ待たせるのだ」


頬杖をついて、イラついている。

それもそうだ、既に予定時間からは1時間は経っている。

母は・・・落ち着き払っているが。

たまに父を見ては、落ち着かせようと何度も声をかけていた。


「・・・魔王様!使節団が到着されました!」


近衛兵の一人が片膝をついてそう報告する。


「遅い・・・!さっさと通せ!」


「は、はは!」


兵士は恐怖でおののきながら、謁見の間から出て行った。

その様子を見た母は。


「あなた・・・気が立つのは分かりますけど。

 遅れた訳を聞くまでは怒らないでくださいね」


「・・・むぅ」


母に言われ、大人しくなる。

俺も、父のその姿を見る。

その視線に気づいたのか、父は気まずそうにこっちを見る。


「ディラン、我のように短気にはなるなよ」


「ええ、そうですね・・・というよりも分かっているのなら努力したらどうです?」


勇者レーナであった頃の顔をしている。

顔には、覇気が宿っている。

普段は優しい母の顔が、鬼のように見える。


「そんな目で睨むな・・・我も努力はしている」


そう言う父の姿は小さく見える。

恐妻家・・・というわけではないが、母の方が強くは見える。

本気で戦ったら、父の方が強いのだろうけど。


「ま、魔王様ぁ、遅れて・・・申し訳ございません」


しわがれた声が謁見の間に響く。

3人が目の前を見ると、護衛と共にベルバリーズの王と王女が、跪いていた。



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