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死神クロコと世界の秘密

擦り切れて、ほとんど読めなくなった本。

大切にとってあった、その本。

・・・何故か異世界であるここにその本がある。


「・・・これは、その1巻の初版です。今となってはこれしか残っていません」


その本を持ちながらクロコはそう説明した。

残っていない?。


「あまり売れなかったイメージはあったけど、そんなに少なかった?」


「ええ、残念ながら。初版だけしかすられていませんし。

 他に残っていたとしても、本と呼べるほどの状態ではありません」


本をこちらに返してきた。

受け取ると、表紙を眺める。

『マジックキング』と、ギリギリ読める位に古ぼけている。


「それでも、あなたはこの『マジックキング』が大好きだったんですよね?」


「・・・クラスの皆からは、そんなの知らないなんてよく言われたもんだけど」


渡された本をめくる。

やはり、白紙に近い状態で読めなくなっている。


「子供の頃のあなたは・・・マジックキングにのめり込んでいましたね」


「ああ・・・」


初めてのお小遣いで買うくらいだ。


「初版には特別な力があります・・・いえ、特別な力を持ちやすいと言えます」


「?」


どういう意味だ?

この初版本に、特殊な力があるとでもいうのか?


剱田 仁(つるぎだ じん)にとって、それが初めての連載でした。

 つまり、彼にとってこの本は・・・特別な思い入れがあったんです。

 自分の漫画家としての初めての集大成、それが詰まっていると」


マンガ家にとって、初めての単行本。

それは、確かに特別な思い入れがあるだろう。


「そして、その初版本はこれしかないと言いましたね?」


「・・・ああ」


「要するに、今ここにある本に剱田 仁の全ての思いが集約されたという事です。

 そしてこれを開いた貴方を呼び寄せることとなった」


「俺を・・・?」


「ええ、こんなになるまで取っておくという事は、

 それだけ好きだったという事でしょう?」


だけど、それは小さい頃の話だ。

今も、それが有効だったのだろうか?


「ええ・・・それに、踏ん切りがつくのも早いかと思いまして。強引に連れてきた次第です」


踏ん切りって、そんなに未練がなさそうに見えたか?

いや・・・俺の事を見てたとしたら、そう思われても仕方ないのかもしれない。


だが、確かに。

結婚もしてなければ、恋人もいない。

未練があるとすれば、冷蔵庫に残った饅頭を食べてなかったことくらいだ。

あ・・・しまった、パソコンのフォルダ消しておくんだったな。


しかしそう言い切った彼女の様子が変わった。

顔を伏せ、喋りだす。


「すみません・・・」


申し訳なさそうに頭を下げる。

クロコの目には、涙が溜まっていた。


「踏ん切りをつけるためとは言いました・・・

 しかしあなたを殺し、勝手に連れてきた。

 理不尽と思われても仕方のない事だと思いますが、でも。

 私は、この世界を救いたくて・・・!」


「・・・」


腕を組み、考える。

確かに殺されたし、勝手にこっちに連れてこられた。

だが今は別に不幸だとは思わないし、それを恨みには思っていない。

むしろ、感謝できる位だ。


10歳の頃に両親は交通事故で亡くなった、それ以降はずっと里親の元で暮らしていた。

その時は苦痛だとは言わないが、里親は俺にあまり興味が無かったのだろう。

進路を決める際も、就職の際もほとんど口を出すことは無かった。

・・・そして就職して外に出ていく際にこういわれたのだ。


「お前の親父に借りがあったからここまで育てたんだ」


その無表情の視線は、俺に一切の愛情を向けていなかったことを示していた。

そして、その目はこうも言っていた。


『二度とここに帰ってくるな』と。

俺は、彼らにとってただの重荷だったと、そう言われているようで。

思わず何も考えず、その場から走り去ってしまった。


あの時はつらかった、本当に。

多少の縁とは言え義理の親子になった人からの拒絶だ。

・・・心が折れそうになるというのはあの時の事を言うのだろう。


だが、こっちはでは。

魔王という父と、勇者という母ができた。

お互いに俺を愛してくれている。

それが嬉しかったし、代えがたいものだと感じた。


――――――――――――――――――――


目の前のクロコを見る。

申し訳なさそうにじっと、その場で正座している。

・・・なんだか、武士が切腹するような光景にも見えてきた。


「私は・・・説明役です。役目が終えれば・・・」


そう言うと鎌を自分の首に掛けた。

・・・予想通りに動かれてしまった。


「どうか・・・世界を作って・・・救ってください」


その行動を見た瞬間。

魔法で鎌を弾き飛ばしていた。

咄嗟に魔法を使った右手に、魔法の残滓が残る。


自分を死に追いやるほどの事をしたと、彼女はそう思っている。

だがそれは・・・この世界を守ろうと考えて行動した結果だ。

そして目の前の彼女は、死ぬのを嫌がっている気もした。


鎌は窓を突き抜け、中庭に落ちて行った。

自分の持っていた鎌が無くなり、呆然とするクロコ。


「俺は、君が言うようにあっちの世界には・・・直ぐに踏ん切りがつくような人間だ」


「・・・」


クロコの目が、じっとこちらを見る。


「だから、俺は殺されて恨んでる、なんてことはない。

 そりゃ、殺した相手が突然目の前に現れたら、びっくりして構えるけどな」


最初を思い出す。

魔法使おうとして止めたっけ。


「・・・私を、許すんですか?」


「別に、生きたいなら生きればいい。俺は死ぬことは強制しないししたくも無い。

 俺はここに来て、愛してくれる両親がいるっていう喜びを再度知れたんだ。

 感謝こそすれ恨みはしないさ」


しゃがんでクロコの顔を覗く。

目は赤く腫れ、涙はまだ流れている。


「で、でも、私は」


「じゃあ、言い方を変えよう。俺はどうすれば世界を進められるんだ、案内役さん」


「え・・・?」


「え?じゃないぞ。俺、まだ子供だぞ。しかも、魔王の息子にして皇子」


自分を指さし、クロコに言う。


「出来る事だって限られるし、今何をすればいいかもわからない」


「・・・今は、旅立ちに向かって友人を作ることです」


「ほら、それだよ」


鬼の首を取ったようにクロコを指さす。


「それ・・・?」


「お前は案内役で説明役・・・今でもそれは変わらないだろ?」


クロコに、手を差し出す。

握手のつもりだったけど、クロコは動かない。


「俺を導いてくれよ、な?死なれたりしたら後味悪いって」


「・・・いいんですか?元の世界に帰れないんですよ、もう」


「あれ?クロコ言ったよな、踏ん切りが早そうだって」


「い、言いました!けど」


「なら、問題ないさ」


そう言って強引に握手する。

始めは、成すがままだったが・・・力を入れてそれに答えてくれた。


――――――――――――――――――――


涙をぬぐうと、クロコは話を始めた。


「・・・ディラン様は、18の時に城を旅立ちます。

 それが、第3巻の最後の光景です」


「じゃあ、そこで世界が終了になるのか」


「はい・・・ですが、それは本来のディラン様の場合。

 今のあなたは、自らで考え行動ができます。

 それこそ自分の物語を作るという事も」


なるほど・・・主人公が俺になっているわけか。

主人公が動いている以上、マンガの世界は生きているってことになる。

世界は止まらないという事か・・・俺が生きている間は。


「・・・ちょっと待て、つまり父も母もマンガ通りに行動してるってことなのか?」


「おおむねは・・・ですが筋書き以上の事は出来ません」


なるほど、この世界には台本があるってことか。

父と母の愛情も台本通りだと思うと、少し複雑だが。

だけど、偽りのない愛情だと、俺は思っている。


「俺が死ななければ、世界は止まらない・・・そういうことだよな?」


「主人公ですからね、ディラン様は」


「マジックキング第二部の、な」


自分を主人公だと自覚した。

後は・・・世界をどうしていくか考えないとな。

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