表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/20

生まれ来る魔王の子供

異界アウグリア。

そこに存在するネグロスという大陸は、7つの国に分かれていた。

半分以上は魔王が統治する帝国と、魔王の属国。

半分は魔王に対抗し、長年戦争を繰り広げた人間達の国。


戦いは百年に届く長きものにわたり、次第に国力も人民も疲弊していった。

そして遂に、十数年前に停戦協定を結び今に至る。


――――――――――


ネグロスの中央に位置する国家、魔王が治める帝国の中心部である城。

そこで魔王「レグナール1世」は、今か今かと、自身の子の誕生を待っていた。


魔王・・・レグナール一世は過去を振り返っても最強の魔王である。

顔は山羊の頭蓋骨に薄皮を張ったような、おどろおどろしいもの。

身体はオーガのような筋骨隆々の出で立ち。

魔王の証である漆黒と赤の混じるマントと宝石がちりばめられた豪奢なローブを身に纏う。

まさに、魔王という人物にふさわしい出で立ちの彼だったが。


玉座を座ったり、直ぐに立ち上がっては近くの壁まで歩いては頭をぶつけている。

頭をぶつけられた壁は表面が崩れ、外が見えるほどの大穴が出来ていた。


「ああ、レーナは大丈夫か・・・?心配だ・・・!」


玉座の傍に立つ、国の大臣にして老臣の一人であるレイスがその魔王の様子を見ると


「レグナール様、落ち着いて下され・・・皇后レーナ様の陣痛は始まったばかり。

 ・・・慌てず、待たれるのが最善かと」


「むうう・・・!しかしだな!初めての子供だぞ!」


未だにそわそわと、玉座の周りをうろつき回る魔王。

魔軍の兵士たちも気が気でない感じでその様子を見守っている。

ある者は警戒しながら、ある者は怯えながら。

顔が骸骨だというのに表情豊かに見えるその行動は、

周りで見守っているしかできない兵士にとっては恐怖そのものであった。


「レグナール様!国家の長たるものが狼狽(うろた)えてどうするのです!

 兵士も怯えておりますゆえ、落ち着いて下され」


「む・・・むう・・・」


唸ると、玉座に座り直す。

兵士たちもそれを見てほっとしたようだ。

それはそうだ・・・目の前の人物は、腕を振るだけで国を破壊できる魔王。


自分たちが何かでしでかして気に触れるようなことをしたら、この場が吹き飛ぶ。

その時は・・・ここにいる誰も生きていないだろう。


「レグナール様、勇者様―――もとい、レーナ様は頑張っておられます。

 レグナール様も・・・どうか、お気を確かに」


「済まん・・・取り乱した」


レグナールは自身の落ち着きを取り戻し、玉座に深く腰掛ける。

そして、玉座の横に置かれていた飲み物を一気に(あお)った。

落ち着いたかのように見えたが、直ぐに不安が彼を襲ったようで、頭を抱えていた。


「まさか、あの残酷王とまで呼ばれた魔王が、こうも変わるとは・・・」


残酷王・・・彼の異名だ。

他の国を侵略し、併合しては反対するものを皆殺しにしていた。

慈悲も無くその行為を行う姿を見た民衆が名付けたのが『残酷王』という異名。


だが、今・・・目の前にいる強大な魔族の王は。

自分の子供が無事に生まれるかどうかを悩んでいる一人の男にしか見えない。


「・・・無事に生まれなかったら、我がしてきた数々の所業が・・・悪かったのか?」


そんなことまで呟いている。

・・・変わってしまったものだとレイスの大臣ガルディ・ノーマンはそう思った。


(勇者レーナ・・・いや、レーナ皇后。ここまで魔王の心を変えてしまうとは)


魔王を討伐しに彼女は一人、この城まで殴りこんできた。

側近や四天王たちを打ち払い玉座まで昇ってきたのだ。


そして魔王様との激しい一騎打ちの末、魔王様が勝ったのだ。

・・・その後、魔王様はその勇者を妃にすると言い出したのだった。


その後、5年に渡り世界は平和だった。

お二人が結婚してからというものの、魔王様の残虐性は鳴りを潜めた。

そして侵略行為も止め、現在に至るのだ。


――――――――――――――――――――


レグナールは未だにそわそわしながら、玉座に座っていた。


「・・・」


部屋の時計を確認するガルディ。

そろそろ・・・生まれてもおかしくない時間。


レイスである彼も、自身の息子が生まれた時のことを思い出していた。

ああ、あの時自分も慌てふためいて嫁には随分迷惑をかけた、と。

思い出し、ふっと笑う。

やはりこういう時は男というのは誰でも無力になるものだな、と。


「ガルディ、何を笑っ―――」


自分の姿を見て笑ったのだと考えたレグナールが彼を責めようとしたその時。

玉座の後ろの魔王の私室から、赤ん坊の産声が甲高く響いた。


「!」


すかさず、私室へと向かうレグナール。

しかし部屋の扉を開ける前に・・・扉は内側から開いた。

出てきたのは、エルフの助産師。


「生まれました・・・男の子です!」


高々と掲げられた赤ん坊は。

母親によく似た、人間の男の子だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ