現実世界 最後の日
日本 某県某所。
この物語の主人公 黒田昭典。
彼は夢も無く、ただ毎日会社の一員として社会の歯車として働き続けていた。
彼自身もその毎日にはある程度は満足していた。
仕事をしては家に帰り、寝る。
朝起きてはまた仕事に行き、金を稼ぎに行く。
そんな毎日が続いて、7年近く経ったある日の事。
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今日も起きて、ベッドから這い出る。
よく寝れなかった、頭が痛い、疲れは全然取れていない。
・・・今日が休みでよかったと、そう思う。
暗い部屋に電気をつけ、テーブルの上のパソコンを付ける。
特に・・・ゲームをやるとかそういう事じゃない、人並みにはするけど。
ただ、ネットサーフィンをしようと考えていただけだ。
小一時間ほどパソコンとにらめってを続けていたが。
ふと、頭に自分を客観的に見る考えが浮かんでしまった。
ただ・・・何の生産性もない行動を休日にしている。
いい大人が、何もせずにただ、休日にこう過ごしている。
「・・・はぁ」
頭を掻いて、ベッドに横になる。
何をしているんだ俺、という感覚。
もう少し有意義に休日を使えないかと。
ベッドに横にはなるが・・・。
寝れず、ごろごろと身体を動かす。
そしてしばらくぼーっとしてしまった。
「・・・俺の夢って、なんだっけな」
有意義な休日も過ごせない自分。
いい歳をした三十路手前の自分。
今更・・・どんな夢が見れるというのだ。
子供の頃はいろんな夢があったようにも感じる。
何になりたい、あれがしたい。
だけど、大人になって社会の一部になるとそれも泡のように消えた。
結局は型にはめられて歯車のように回っていくだけなのだ。
・・・。
結局寝れず、何か読んで退屈しのぎしようと思い立った。
ベッドの横の本棚から、本を手繰り寄せる。
色褪せて、所々が擦り切れているマンガ本。
『マジックキング』
小学生の頃に、必死に手伝いなんかして親から貰った金で買った、初めてのマンガ。
当時では結構変わったマンガだったことは覚えてる。
確か・・・魔王が主人公だったけ?
で・・・姫様と結婚して、子供が生まれて・・・。
あと・・・なんだっけ?
・・・大好きだった気がするのだが覚えていない。
気になったので、本を開きページを捲る。
・・・?
古くなりすぎたのか、色抜けのせいなのか。
ページは真っ白に近い状態になっていた。
日に浴びせた記憶も無いが・・・20年前のマンガだ、読めなくなっても仕方ないか。
「はあ・・・」
再びベッドに横になり、目を瞑る。
・・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・。
――――――――――――――――――――
変な夢を見た。
誰かが、ずっと・・・おいでおいでと俺を呼ぶ夢。
だが、俺は一歩も歩けず、その声を聴いているだけ。
その、呼んでいる声は痺れを切らしたのか、俺にどんどん近づいてきた。
そして、俺の首を何かで刎ねた。
意識が一気に遠のいていくのを感じながら俺は・・・。
その瞬間に目が覚めた。
なんていう夢を見てるんだ・・・。
ベッドから起きて、床に足を着く。
変な夢のせいで喉がカラカラだ。
水を飲むために、洗面所に向かう。
男一人、1kの部屋は洗面所も近い。
電気をつけ、水を出して・・・顔を洗い、水を飲む。
今の自分の顔は・・・どんな顔をしているのだろうと思い、洗面台の鏡を見た。
酷い夢を見たせいだろうか。
顔はやつれているように見える。
いや、仕事疲れのせいかもしれないな。
目線を映る自分から外し、振り返ろうとしたその時だ。
「・・・え?」
俺の顔の背後に映る影。
両親でも・・・兄弟でもない。
不気味な影が、こちらを見ている。
「!」
後ろを振り向くと、誰もいない・・・気のせいだった、であってほしかった。
だが振り向いた目の前には確かにそいつがいた。
手には鎌を持ち、全身は黒いローブで見えない。
よく見れば鎌を握る手は骨。
足も無く、顔は・・・骸骨。
死神・・・その言葉が頭をよぎる。
「迎えに来た」
「な・・・しゃべ―――」
死神らしき化け物は、手に持った鎌を横に振った。
ヒュンという音と、俺の前を過ぎ去っていく鎌。
「・・・な・・・え?」
鎌を大振りに振ったのに、風切り音だけが耳に聞こえた。
確かに、壁にもあたったように見えたのに、だ。
だが、俺の身体には異変があった。
まるで・・・血を抜かれたかのような感覚に襲われる。
立っていられなくなり、その場に倒れ伏す。
「失礼をするのはこれが最後です・・・申し訳ありません」
その言葉はどういう意味だ・・・と問う前に。
俺の意識は世界から消えた。
全面的に書き直しました。