第三部 あらすじ
杜家の父親と、北の大国キュウとの間に、ちょっと困った縁があることが発覚!
しかし、だからといってやって来るキュウの使節を迎える準備に韶華が加わっているのはなぜなのか。
と、問いたげな将兵の視線を無視して、水芳宮に向かった韶華であったが、真の問題は、宮都に残した妹、瑠璃の身に起こった。
痩せ女の目を盗み、凍える地の妖が幼女を拐う!
宮都甘棠に流れる妖怪大戦争勃発の噂!
韶華は一路、北へと向かう。妹を取り戻すために――
そして見知らぬ国で、見知らぬ人々の、見知らぬ時のもつれを知ることになる。
――もつれたなら、ぶったぎればいいじゃない。
棠梨の将の紫石の双眸が天を仰ぐ前に、韶華は北方の凍てついた刻を動かすことができる、のか?
全(25くらいだが29くらい…の分割に再考中)回
白果舎からの帰り、韶華は絳雪酒楼にいる弄月を見かけた。
のんびりと杯を傾ける男は、一国の主とも思えない奇人ぶりである。
とはいえ、あれでも知らぬところで苦難を越えてきたはず。とくに、
皇帝が長い間、後宮に妃を置かない。
という事実については、韶華とて驚きを禁じ得ない。たとえそれが、世継ぎをすでに得ているからだとしても、許されることではないというのは、子どもでも分かる。
それでふと、尋ねる気になった。
「いろいろ策を練ったんだろうけど、よく可能だったねえ」
「まあね。始めは、若くして妻を亡くした男の嘆きは深い、で済ませてきたよ。それが効かなくなってきてからは……聞いてない振りを続けたね」
餠乾をかじり、弄月を遠くを見つめた。
「それも厳しくなったので、とくに理由もなく、ちょっとした宴を開いて、貴族たちを呼んだのさ」
「あれですか、酒に酔った暴言で抑え込もうとか?」
「暴言は決まりなんだ……」
「話を続けて下さい」
暴虐を疑われ、悲しそうな目をした男はしかし、韶華の考えるところの暴言とあまり変わりのない言を口にした。
「杯に月を映して、目を潤ませてから、私は言ったんだよ。”余の側にいる女は、みなすぐに儚くなってしまう……”ってね」
「なんですかね、皇帝が妃への刺客を認めてるように聞こえますが」
「そこまで断言はしてないよ……含めてはみたけど。妃を殺すのは、妃を出してない家の者だろうなあ、という。とりあえず、それでやつらは面色をなくしてだね、私に妃をとは言わなくなったよ」
「皇帝に妃を与えて権力を握りたい貴族でも、自身の愛児が殺されるのは、嫌なのかあ……」
「ああ、いや……」
弄月は否定しておきながら、一瞬、続く言を迷った。
「まあいいか。きみは知らないだろうけど、あの頃にね、宮都でものすごく売れた小説があったんだよ。理想の女人を求めて、重重と妻にしては、これは違うと殺して行く男の話が。そのなかにある台詞が”我の側に……”なんだ」
「つまり……弄月大人は、自身を連環殺手になぞらえた……」
さぞ貴族たちは恐ろしかったであろう。
なんだろなー気にいらなかったら殺しちゃうカモーいやあオレ理想高いしィ。
誰がそんな男のところに嫁に出すか。
酔っての言であるから、真に取ることはしなかったにしても、後宮を空のままにしておくことを、貴族たちは選んだのだろう。犠牲を出さぬために。
「それ……なんていう小説なんですか?」
「なんだったかなあ……十六年くらい前だから……」
宮城の書庫を漁ればあると言われたが、韶華は固辞した。とくに読みたい書籍でもない。
もっとも漁ったところで、その小説は見つからなかっただろう。つい最近、とある理由により書庫から流出している。
弄月も忘れていて幸いであった。
連環殺手の悪人ぶりが知名になった小説であるが、内容は、その男に愛児を奪われそうになった父親が、返り討ちにするまでのものである。
異説、青髯男。著、陰羽。
官能小説作家として名望をあげる前、というより、それで知られるようになったのだといっても良い。
初版にしかない書後には、幼い二女を見ながら、嫁に出したくないと涙しながら書いた、らしいということが伝えられている。
おわり




