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”自由の翼”1


 Project:Mermaid


 当計画はマーメイドという生物兵器を造りだす事を目的としている。その名称は、人間を造りだす(ManMade)から名付けたものである。

 以下に成功作の特徴をまとめていく。

 ヒトと同じ姿形である事から、現代社会に紛れることを可能としている。

 肉体・思考成長の両方を早く済ませる為、戦闘適齢期になるまでの期間は数年で済む。その反面、衰退は緩やかになっていく事から長期の運用を可能としている。

 またヒトよりも高い筋力や治癒速度を有しており、一体での複数戦に治療での前線撤退を防ぐ。

 唯一の欠点は、虹彩の色が赤になってしまう事。

 ヒトに紛れる特徴を持つマーメイドにとって致命的だが、何度修正を試みても不可能であった。

 しかし虹彩の欠点を補うほどのスペックは有しており、まずは一体の作成を行う。その後U.N.F.への提供か、あるいは必要であれば外部への販売をする。

 計画責任者 西園寺(さいおんじ)圭吾(けいご)





─2018年 ショッピングモール


 葉月はづきももは友人二人と、洋服屋のある五階に来ていた。

 ショッピングモールは円形の吹き抜けを中心にしており、そこへ合わせる様に様々な店舗が並んでいた。そして店舗間の所々には通路がのびており、トイレや倉庫やらが設置させていた。

 ももはトイレへと向かう為、友達と一時的に別れていた。そこから合流しようとした時であった。

「きゃあ!」

 ドォン、という重低音が身体に響いた。それとほぼ同時に襲ってきた地震のような振動。

 その揺れはバランスを崩すほどのものであり、壁を支えにするしかなった。しかしその大きな振動は、地震と違って一度きりであった。

 ももはひとまず吹き抜けがどういう状況か、確認しようと歩こうとした時―。

「ひっ!」

 今度は天井の照明が停電した。先程の振動のせいか、はたまた別の要因か。

 だがももにとって原因を知る事よりも、友達が安全かどうか知る方が大切であった。

「…っ! そうだ、スマホ…」

 動揺する頭を落ち着かせる様に呟くと、スマートフォンを取り出そうとした。


「おい!」


 その時、野太い男の声がした。

 声のほうを見たももの視界に、大きな影を覆った。

 その影は、鈍く光る鉄の塊―拳銃を自分へと向けてきた。



 白い光を持った照明が、モールを明るく照らしていた。

 その二階をヒールブーツを履いた男性が、しっかりとした足取りながらも足音を鳴らさずに歩いていた。

 男性は一九〇センチはある長身で、黒色をした髪に少しクセのある毛先をしていた。その顔立ちは整っているものの、無表情ぎみであり感情の読み取りにくいものであった。

 すると男性は右耳につけているイヤホンマイクへ手を伸ばした。

「こちらつるぎ、二階は異常なし」

『分かった。他の階からもまだ報告は入っていない。三階へと向かってくれ』

「了解」

 若い声の男性と通話していたイヤホンマイク。男性─剣はマイクをミュートにすると、その指示に従って三階への階段を上った。

 三階もまた、店舗とそこへ訪れる人々で賑わっていた。そんな人々に悟られぬよう、歩きながら周囲を観察していた剣はふと、前を歩く女に目を留めた。

 その後姿に魅力を感じたわけではない。腰の位置で服がわずかに膨らんでいるからであった。

「……」

 その女の背後へ、剣は一瞬で詰め寄った。そして腰にある膨らみの正体を引き抜くと、持ち主の背中に押し付けた。

 自分の持ち物が取られたにも関わらず、女は振り返りもせず無言のまま足を止めた。

 また剣は周囲の人々に騒がれないよう女に密着しながら手元も隠していた。その思惑通り、人々は目もくれずにただただ通り過ぎていった。

「右手の通路へ」

 耳元の囁くような命令に大人しく従った女の背中には、腰に隠し持っていた物─拳銃が押し付けられたままであった。

「両手を見える位置に」

 誰もいない通路へ着いた時、二度目の指示にも従い女は広げた手を肩より高く上げた。

 もっとも剣は奪った拳銃の引き金に指を置かず、安全装置すら外していなかった。威圧するだけであり、撃つつもりがなかったからだ。

「U.N.F.でしょ? 私たち”自由の翼”は―」

「御託はいい。さっさとお前らの計画を教えろ」

 だが女は自分が不利な状態にも関わらず、いきなり話し出した。それを剣は軽蔑するように睨みながら切り捨てた。

 真後ろにいる剣の表情は見えないとはいえ、威圧するのが背中の感触以外にある中、女は何が楽しいのか顔に笑みを広げた。

「計画? そんなものはないわ。ただ、この腐った社会から国民を助けることを目的としているの」

「建物を爆破するだけの、テロリスト共の発言とは思えないな」

「U.N.F.は腐った社会側にいるもの。だから私達の行動も理解できない」

 自身の所属する”自由の翼”という組織が否定されても、女はまったく気にしていなかった。

「それに、貴方に話すこともないわ」

「情報を守るのも結構だが、自分の心配をしたほうがいいぞ…!」

 そう言うと剣は、女を壁に向かって後ろから押さえつけた。

「…それに爆発が起きればお前も無事ではないだろ」

 そして体へ更に銃口を押し込んだ。生存本能につけこんで情報を引き出そうとしていたからだ。

 しかし女は顔を強ばらせるどころか、笑みが消えないままであった。

 そんな様子にまったく情報を引き出せない。そう判断した剣は拳銃を離すと、女の首を腕で締め上げた。

「─ぐっ!」

 小さなうめき声をあげた女が、抵抗もできずに気絶した。

 そのまま倒れることで音が鳴らないように、その体を剣は静かに床へと寝かせた。そして再び、イヤホンマイクへ手を伸ばすとボタンを押した。

「こちら剣、実行犯の一人を拘束した」

『実行犯だと?』

 若い声の男性と会話を再開しながら、懐から結束バンドを取り出した。そして女を後ろ手に縛ると、彼女の所有物である拳銃の弾抜きも慣れた手つきで行っていた。

「ああ。爆発物は所持せずに、銃を隠し持っていた。予測した計画とは違う可能性が出てきた」

 剣が言い終わった瞬間―。

 全身に響く轟音と地震のような振動が、モール中を襲った。さらに続けて停電も起こった。

 しかし停電といっても真っ暗ではなく薄暗いものであり、人や物を視認できる程度であった。だからこそ、吹き抜け側では動揺した店員や利用客で騒ぎが起こり、全員が一階から出ようと波を作っていた。

「遅かったか…」

『どうした?』

 振動が起きた後、吹き抜け側を覗いていた剣が呟くように言った。

「振動と停電が起こった状況だが、不自然な停電にアナウンスが機能していない。どうやら今回の奴らの狙いは、建物そのものではなく機能だけらしい」

『─分かった。ここからは佐藤隊との連携に切り替える』

 足元に眠っている女が拳銃以外所持していない事と、音と振動から剣は爆発が起きたものだと確信した。

 そんな剣に若い声の男性が答えると、スピーカーから違う男性の声がする。

『こちら佐藤隊。剣か?』

「ああ。部隊の展開と、全体の状況は?」

『主な部隊員はこっちで待機中だが、先行している何名かは中にいる。中からの報告とここからの探知で分かったことだ。停電は爆発が原因で、設備への配線を潰した』

 切り替わった通話先からの報告を、剣は静かに聞いていた。

『民間人が避難を始めているが、自動ドアも含めて潰された場所が多すぎている。…それと五階だけ動きがない。テロリスト共はそこだが、数が不明だ』

「数が判明したら報告を。それと、制圧作戦は俺一人で行う」

『何を勝手なことを…!』

 自分一人と言い出した剣に、通話先の男性は不満を露わにしていた。

 だが静かに聞いていた先程と打って変わって、矢継ぎ早に続ける。

「部隊は外にいるんだろ。突入するにも民間人と設備をクリアして、主謀犯に見つからずとなると時間がかかる」

『だからそれらを解決する作戦案を…』

「それが問題なんだ。元々、この作戦は”自由の翼”の活動を未然に防ぐはずだった。ところがいま、想定していたものと違う動きをされている。これ以上後手に回るつもりはない」

 話しながら吹き抜けへと出た剣は、人の波をうまく逆流しながら階段を探していた。そこに返事を待っている様子はなかった。

『…了解した。引き続きこちらで調査を行い、情報が入り次第連絡する』

 一方的だと諦めたのか、言い分を受け入れたのか。どちらにせよ、男性はしぶしぶ承諾していた。

「それと、三階に拘束した女がいる」

『……了解した』

 ついでといわんばかりの言葉に、男性は同じような返答をした。すると音声は切れないものの、マイクから離れたのか遠くから複数人の声が聞こえ始めた。

 一方で人の波から抜け出した剣は、見つけた人気のない階段を駆け上がっていった。

最後までお読みいただきありがとうございます


一言のコメントから感想まで、してもらうと有難いっす

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