第十一話《小さなパトリシア》
エリックがパトリシアとの思い出を口にしているあいだ、リライナはリビングのカウチに寝そべって耳を澄ましていた。この夜にエリックがそうして昔話をしたのは、リライナが強く望んだからである。彼はカウチに深く座り込んで、無意識に前のめりになったり、また、背もたれに落ち着いたりしながら、ちらちらと娘の様子をうかがって、胸がときめいているとでも言いたげに輝いている目を見ると、たまらず続きを話すのであった。このときのリライナは、彼の目にときおりパトリシアとして映ったりした。
始終、リライナがじっとしていることはなかった。足を小さくばたつかせて、両腕をついて手のひらに顎を乗せ、それから腕の中に顔をうずめたりする――もしもリライナが、まだ苦悩の渓谷でさまよう『ただの少女』であったなら、きっと自分の耳をさえ、その細い腕の中にうずめていただろう――においに染まりやすい風のように、いささか感受性の強い『潮風に育まれた少女』でなかったならば。
「もっと聞いていたい」リライナは父の目を見つめながら言った「優しい風に包まれている気になれるから」
「それなら飲み物が欲しいな。ここから少し気恥ずかしくなるんだ」とエリックは言って、『小さなパトリシア』の目に『ふたつの海』と形容をあてた刹那、娘の目の淡い色を思いながら、「ふたつの空」と口の裡で呟いた。
エリックはカウチから立ち上がり厨房に行った。リライナにパトリシアとのことを聞かせるのは彼にとって楽しかったし、パトリシアにそっくりな娘の目が、木々の枝のあいだから見える日のようにちらちらと輝くのだから、いささか饒舌になりもした。しかし、エリックはほんの少しだけ、ひとりになる時間が欲しかったのである。彼はかごの中から酒瓶を取り出して、数年ぶりに酒を飲んだ。すると、喉の渇きはみたされるばかりかますます強くなった。
だが、エリックが二本目の酒瓶を開けようとすると、
「ああ……。わたし、お父さんとお母さんの子どもなんだ」とリライナがうっとりしたような口調で言うのが聞こえてきた「本当なの、本当の――本当。お母さんから色をもらって、お父さんからは心をもらった。ああ、満たされていくのがわかる。ねえ聞いてる? ヴラジーミル?」
静かな厨房で、エリックが押し黙りながら窓の外を見ると、いくつかの星が見え、月の光は目も眩むほどに感じられた。酒がもたらした疑似的な盲目、そして愛娘の純粋な言葉は、エリックに優しかった。
どんなときでも、雨でも、曇りでも。空にはたしかに星がある。そしてエリックは、ちょうど今、自分のそばでこんなにもまばゆく輝いていた小さな星を見出しながら、また、自らの無知と、思い出から滲んだ情熱を湛えながら、静かに涙をながしたのである。




