カワウソの唄
過去にアップしていたものの再投稿です。
私は誰でしょう。
私は誰でしょう。
そう、この国で最後のカワウソです。
仲間はいません。
私は何のために生きるのでしょう。
誰の記憶に残ることもないのに。
友人とこの川で競争することも、恋人と幸せな家庭を築くことも、孫の毛繕いをすることもありゃしません。
私は誰でしょう。
私は誰でしょう。
そう、孤独なカワウソです。
仲間なんていやしません。
命は何のために生きるのでしょう。
他者に自分を押し付けることでしか幸せを見つけられないのに。百年後にはどうせみな塵になっているのに。それでも笑っているのは空しさを隠すため?
私は誰でしょう。
私は誰でしょう。
そう、さすらいのカワウソです。
仲間を探しています。
私は何処へ向かって泳げばいいのでしょう。
待っててくれる相手などいやしないのに。向かいたい場所などどこにもないのに。この世界に見るべきものなどどれほどあるというのでしょうか。
私は誰でしょう。
私は誰でしょう。
私はカワウソ。
この世で最後の気高きニホンカワウソ。
それでも私は泳いでいる。明日も、明日の明日も、明後日の明後日も、きっと当て所なく泳いでいる。ここで止まると負けな気がするのです。
あなたは何のために泳ぐ?
終着点などないこの命を。
生きる意味など与えてくれないこの川を。
僕は美味しい魚を食べるために泳ぎたい。
ただそれだけなのです。
それだけなのにな。
陽気なカワウソは長い独り言を終えると、息を大きく吸い込み、真っ黒に淀む川の奥底へと潜っていった。
ありがとうございました。