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マナミンさんの正体見たり!

 マナミンさんとの待ち合わせの日、おっさんは緊張して名古屋駅にいた。

 休日でも外にはあまり出かけないおっさんである。

 寮から最寄りの駅まで若干遠く、往復に1200円の交通費のかかる名古屋になんて、用事でも無ければ来る事は無い。

 そんな名古屋駅で女性と待ち合わせなんて、待ち合わせ自体20代の頃以来なので、随分と久しぶりな感じでオドオドしていた。


 「おつさんですよね?」


 キョロキョロして落ち着かないでいたおっさんに、後ろから女性の声で話しかけられた。

 おっさんのなろうアカウント名はおつなので、マナミンさんはおつさんと呼んでくれている。

 

 来た!


 そう思ったおっさんは、ぎこちない動きで振り返る。

 そこにはサングラスにマスク姿の女性らしき人物が立っていた。

 オシャレに興味の無いおっさんに女性のファッションなど皆目見当もつかないが、何となくチグハグな感じのする服装であった。

 

 「マナミンさんですか?」

 「そうです。」

 「乙です。初めまして。」

 「こちらこそ初めまして。」


 こうしてマナミンさんとのファースト・コンタクトが幕を開けた。




 彼女が案内してくれた喫茶店に入って向かい合って座り、注文したコーヒーが運ばれてきて初めて、おっさんはマナミンさんをまじまじと見る事が出来た。

 飲み物を飲むにはマスクを外すし、店内ではサングラスも不要だからだ。

 サラサラの髪を揺らし、彼女は信じられない可愛かった。

 有名人に例えれば、アナウンサーの中田まな美さんだ。

 いや、例えではない位に似ている気がする。

 双子と言われても納得すると思う。 


 ……って言うか、本人じゃないのか?

 

 テレビをほとんど見ないおっさんなので詳しくはないが、中田さんの事は流石に知っていた。

 その見事なおっぱいで多くの男性を魅了しているアナウンサーだからだ。

 おっさんとて男である。

 可愛い女性は好きなのだ。

 その中田さんにそっくりなマナミンさん。

 おっさんの頭は混乱した。 


 「あのぅ、あなたって中田まな美さんなんじゃないですか?」


 マナミンさんとの会話がまるで頭に入ってこず、上の空で尋ねた。


 「そうだったらどうします?」


 ドキッとする様な笑みを浮かべ、彼女は言った。

 おっさんは益々混乱した。

 

 あの中田さんがなろう作家のマナミンさん?

 おっさんはこんな綺麗な人とメッセージをやり取りしていたのか?

 しかも、このおっさんをヒモにしてあげると言っていた女性なのか?

 

 おっさんの頭はグルグルとして定まらない。

 その結果、これってテレビ番組かと、おっさんは心の中で推理した。

 芸能人が変装して一般人に混じり、正体を明かして一般人の反応をモニターするという、おっさんの大嫌いな番組の事が頭に浮かんだ。

 ドッキリとかが嫌いなおっさんである。

 

 随分とまあ、手の込んだ仕込みだな。

 マナミンさんの名でなろうに投稿していた作品も、番組の仕込みなのだろうか?

 からかえそうなおっさんを見つけ、入念なやり取りを交わして信用させ、勘違いした所をカメラに収めるつもりなんだろうか?

 人を何だと思ってやがる!

 ふざけんじゃねぇぞ! 


 おっさんは一人怒っていた。

 テレビ番組のおもちゃになって堪るかと考えた。

 なので、番組をぶち壊すつもりで言ってみた。


 「あなたが中田さんなら、おっぱいを揉ませてくれませんか?」


 おっさんはエッセイ内でおっぱいを揉みたいと連呼していたので、初対面のここで言っても不自然ではない筈だ。

 何と言っても、中田さんはその見事なおっぱいを雑誌で披露していたからだ。

 まあ、初対面でおぱいを揉ませて下さいなど、常識的にはあり得ないが……。

 お笑い芸人の何とかラジオの片方が頭をよぎったが、まあ、気にしても仕方ないだろう。

 おっぱいに罪は無い。

 

 放送する事を考えて作られるテレビ番組であれば、この段階で撮影は取りやめだろう。

 もしも彼女がプロで、おっさんを騙す為に揉ませてくれたら、それこそラッキーだ。

 何て言ってもあの中田さんのおっぱいなのだから。


 「おつさんって、エッセイ通りの方なんですね……」


 そんなおっさんに彼女は顔を赤らめ、俯きながら言った。

 おっさんの心に、今更ながら罪悪感が沸いてくる。

 やっぱ冗談、そう言いそうになった時、マナミンさんが強い口調で口にした。


 「おつさんが望むなら良いですよ」


 マジですか?!


 おっさんは心の中で叫んでいた。




 まな美さんと言うべきか、マナミンさんと言うべきか、兎にも角にも彼女のおっぱいは柔らかかった。

 おっさんの横に彼女が座り、さりげなくおっぱいを揉ませてくれたのだ。

 ふわっと香る彼女の匂いと共に、おっさんは夢心地であった。

 至福の時を過ごしている間、マナミンさんの顔はやや紅潮していた。

 堪らなくエロい。

 しかし、それ以上は自重する。

 おっさんは一応、紳士を自認しているからだ。


 結果、カメラは現れなかった。

 疑うおっさんに免許証を見せてくれ、中田まな美さん本人である事も分かった。

 本名で芸能活動をしている事は知っていたので、これで確定である。 

 スマホでなろうにログインし、マナミンさんである事も確認出来た。 

 つまり、アナウンサーのまな美さんが、このおっさんをヒモにしてくれるらしい。

 理解出来ない展開に、おっさんは考える事が出来ないでいた。 


 そんな彼女は別れ際にスマホをくれた。

 ガラケーしかないおっさんとの連絡用に用意してくれていたのだ。


 おっさんも期間工とはいえ働いているので、スマホくらいいつでも買えるのだが、買い替える理由がないのでガラケーのままだったのだ。

 それでは不便だからと、わざわざ買ってくれたらしい。

 私の為を思ってと、固辞するおっさんに彼女は言った。

 そこまで言われれば受け取るしかないだろう。

 

 


 彼女と別れ、寮への帰途、聞いた事のない電子音が響いた。

 携帯の呼び出し音らしいが、自分の音ではない。

 しかし、音は背中から聞こえてくる。


 彼女から貰ったスマホだ!


 おっさんは慌てて背中の鞄から彼女に貰ったスマホを取り出す。

 どうやらラインでメッセージを受け取った音らしい。

 背中にあって気づかなかったのだ。

 スマホは持っていないがタブレットはあるので、大体の使い方は分かる。

 待ち受け画面にはアイコンがあり、未読?数が映っている。

 16とかいう数字があった。


 え?!

 

 おっさんは目を疑った。

 

 いつの間に?!

 

 そんな驚きに囚われる。

 マナミンさんと分かれて30分も経っていない筈なのだ。 

 慌ててアプリを起動させた。


 『今日は楽しかった』『今何してるの?』『私はタクシー』『今名古屋駅に着いた』『新幹線に乗るの』『今発車したわ』『ねえ、聞いてるの?』etc……


 ヒエッ!

 

 声にならない声が出た。

 ラインはやった事がなかったが、短いメッセージがびっしりと画面を埋めている。

 これはヤバイのではなかろうか?

 読んでいないので、巷で嫌われている既読スルーというのではないと思うが、気づかなかったというのもマズイ気がする。


 『ゴメン! 初めてで使い方がよく分からなかった!』


 タッチスクリーンでの文章作成は慣れていないので、若干苦労して返信した。

 言い訳めいた言葉を送る。 

 するとすぐに返事が入った。


 『そう? なら仕方ないわね。でも、これで分かった訳だよね?』

 『うん、大体分かったよ』

 『よかった!』


 そして彼女とのラインでのやり取りが、彼女が東京に着くまで続いた。

 その日は別の仕事も入っているらしく、彼女が仕事場に着いて初めておっさんは解放された。

 次の日は夜勤なので時間があるとはいえ、初日にしてクタクタであった。


 この子はヤバイのではなかろうか……。

 

 思わずストーカーという単語が浮かび、そんな馬鹿な、と即座に打ち消すおっさんがいた。

 あのまな美さんがこんなおっさんをストーカーする筈がないからだ。

 現代人なのでスマホに依存しているだけだろう。

 おっさんには思いもよらないだけなのだ。

 そうに違いないと思い込もうとするおっさんであった。

モデルは田中みな実さんです。

ファンの方、申し訳ありません。


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