お帰り、グレン
今日も何時もと変わらない一日を送る。
朝食を軽く食べて、運動して魔術の練習をする。魔術は最早伸び悩んで居る。理論的にはもっと上の魔術が有るはずだけど魔術に関する文献は殆ど無いから独学も同然で試行錯誤の繰り返しだ。
一応今使える魔術を纏めると、こんな感じね。
火の魔術
瞬間移動の魔術
回復の魔術
魂の魔術
水の魔術
風の魔術
召喚魔術
因みに私が前に考えた輪廻回帰に使う器は回復魔術の応用だ。細胞が一部でも有ればそこから肉体を作れる。
まぁ、その話は置いておくとして、魔術のレパートリーはこんな感じね。これ等はほぼ、全て実験の果てに出来た産物だ。
「もう、他には無いかなぁ……グレンが居ればもっと良い知恵が…駄目ね……」
グレンはまだ帰って来ない。思わずネガティブになった自分に渇を入れる。
結局新しい実用的な魔術が出来る事もなく、昼の時間になった。
一日の習慣で変わった事と言えばアデラが来るようになった事かしら。
アデラと私は椅子に座って向き合うように話している。
内容はやっぱり今までの人生ね。
あの日戦った日から既に一週間は経っている。彼女は戦った日の翌日に来た。いきなり少し話したいと言われて驚いたわね…。
「歳を感じるな」
人生経験の話をしてるとアデラはため息を着きながら言った。
「不思議よね?、本当なら生きていても物凄い老婆のはずなのに」
三桁になった歳なんて言いたくないわね。
そう言えばアデラが大きな魔力を手に入れた方法はやっぱり魔力の結晶だった。あの城にはどうやらもう一つ魔力結晶が有ったようだ。アデラはそれを使ったみたい。
その後、鍛練を積んでいったけど私には敵わなかったと言った。仕方ない話だと思う。話しに聞く限り、魔術の練習だってアデラの千倍ぐらい多く出来たし、回復魔術も有ったから体術やナイフを使った武器術等を不眠不休で練習できた。
全て無駄なく私の糧になったんだからアデラと差が出るのは仕方ない。最もアデラ自体も既に一騎当千の実力だけどね。
この日は適度に雑談して終わった。
そんなこんなで日々は過ぎていく。
アデラとも話す様になって少し経った頃、念願がついに叶った。
「セリア…」
この日は普段通り、魔術の練習をしようと外に出た時だった。
私は玄関先でジッと目の前に居る"彼"を見た。変わらない、金髪の髪色。顔も全く同じだ。
ずっと会いたかった、ずっと待っていた彼が私の前に立っている。
「ただいま、セリア」
彼は…グレンはあの頃と変わらない笑顔でそう言った。
グレンと死別してから百年。途方もなく長かった。
私は直ぐに駆け寄って、グレンに抱き付いた。
「グレン、本当にグレンなの!?」
「勿論だよ、遅くなってごめんな」
グレンは私の背中に手を回しながらそう言ってくれた。
「ずっと会いたかったよ、グレン…」
ずっと再開を望んだ。私にとってグレンが居ない百年は長すぎた。
「オレもだ、セリア」
グレンはそう言って微笑んだ。
私達は暫く、抱き締め合ったままでいた。
「グレンは今まで何していたの?」
家に入ってから、お茶を入れてグレンに問いかけた。
途方もない時間待った。当然積もる話が有る。
「どの辺から話そうかな…まず、オレが生まれ変わったのはな、ここじゃない別の世界なんだ」
グレンの言葉で直ぐに理解できた。グレンは元々、こことは違う、科学と言う物が有る世界で生まれたと言っていた。
つまり今回は、異なる世界で生まれたと言う事だ。
「そうだったのね。時間が違ったりはする?。私から見るともう、あの時から百年も経っているけど」
「余り時間のズレはないな。今回オレから見ても百年経ってるよ」
そう、グレンから見ても百年ぶりなのね。私と会うの。
「此方の世界に来るために結構苦労が有ったんだよ。幸い魔王として生まれ変わったからほぼごり押しで此方にこれたけど、そこまでに百年かかったよ」
「魔王?」
「あぁ、自然発生で生まれた感じかな。向こうの世界じゃ千年に一度、魔王と勇者が生まれるって言われてるよ。結局勇者には会わなかったけどな」
「今の今まで何してたかと言うと、ずっと鍛練してたよ。空間に裂け目を空けるためにね」
「それで、百年かかったのね?」
グレンも結構苦労していたみたいね。
当然かな、違う世界を渡るなんて簡単に出来る事じゃないわ。
「うん、幸いなのが、成人の姿で生まれた事かな。そうじゃなかったらもう十年間近く掛かってたと思う」
沢山、積もる話は有った。私はグレンが亡くなった後の事を話した。私自身、かなり強くなった事や、あの愚王を討った事。その後命を狙われた事。
私はこの百年間の話をグレンに伝えた。
「そうか、セリアも大変だったんだな」
そう言った後グレンは少し怒った表情で私を見て、次の言葉を発した。
「オレの仇を討とうって気持ちは嬉しいけど、死ぬかも知れなかったんだろ?。出来ればもう少し安全に生きてて欲しかった、まぁ、死んじゃったオレが悪いんだけどね」
どうやらグレンは心配して怒ってくれてるみたいね。私は素直にそれは謝った。
「でも、セリアが生きててくれて良かった、百年経ったって気付いた時には絶望したよ」
グレンは私が魔女だって事を知らなかった。普通の人間だと思ってた。だから、生きてる可能性が低すぎると思ったみたい。
「そうなってても、必ず見つけ出すって直ぐに思い直したけどね」
グレンはそう言って私に笑みを向けてくれた。
そうなってたら私とは逆になってたわね。私がそう言うとグレンは小さく笑ってそうだなと言った。
グレンと散々話して次の日になった。椅子にずっと座ってるのはきついから、床に座ったり、マットで横になったりしながら話した。
「今後どうするか」
グレンは考え込んだ表情で言う。
「オレ的にはさ、もうこの世界から出ていった方がいい気がするんだ」
確かにグレンの言う通りだった。堂々と表を歩きづらいこの世界に居るよりも違う世界で新しい暮らしをした方が良い。私はそんな気持ちをグレンに伝えた。
「そうか、なら早速、他の世界に行こうか」
「待って、その前に、アデラに別れを伝えたいわ」
グレンにはアデラと何があったか、と言う事は言ってある。快く了承してくれた。
そして、タイミング良く玄関からノックが聞こえた。