抜け殻
なんてこった、
脱皮をしたら、
本身がどこかへ行ってしまった。
こんなことってあるかしら。
残った私は抜け殻のほう。
かっしゃかしゃに乾いて、
かっすかすに薄い身体じゃ、
何をするにもか弱いよ。
あらゆる重みというものが、
どこかへ行ってしまったのよ。
目に映った景色は頭の後ろへ透けちゃって、
鼻に香った匂いは頭の上へ透けてゆく。
耳に聞いた声は頭へ届くこと無しに、
通り一遍のお返事を、
ぼろぼろ口からこぼし出す。
ほんとですよ。
まじっすか。
そうですね。
ほんとですよ。
まじっすか。
そうですね。
ああ、
薄っぺら、薄っぺら。
あすこの一番星にも負けてない、
さんざめくよな夢だって、
しっかと胸にあったんだ。
それなのに、
この薄っぺらの、
抜け殻の、
かっすかすの、
私の目には、
映らない。
映らない。
こんな薄っぺらくて、抜け殻で、
どうして生きてゆけるのよ。
本身の重みを思い出そうとだって、
やっているんだ。
だけどそれだって、
かっしゃかしゃに薄っぺらくて、
思い出されもしないのよ。
だからって、
何でかペンを握るのよ。
思い出されもしないのに、
ペンを握って書き出すの。
思い出されもしないのに。
いっそのことは、
それだって、
忘れてしまえばいいんだよ。
そしたらまるきりほんとの抜け殻で、
半分死んだみたいに生きてける。
きっとそうだと思うのよ。
なのにだよ、
やっぱりペンは握るのよ。
思い出されもしないのに。
書き出すことは止めないの。
薄っぺら、薄っぺらって、
かっすかすの頭でも、
半分死ぬのもできないで、
書き出すことは止めないの。
かっしゃかしゃの抜け殻なのに、
思い出されもしないのに、
やっぱりペンは握るのよ。
それでもペンは握るのよ。