初恋-6
もうすぐ夏休みですね。
もうすぐあなたと逢えなくなります。
きっとあなたにはなんともない事でしょうね。
そのうち、あなたがつけてくれたあのあだ名も、
忘れてしまうでしょ?
七月
露もあけ、じんじんと地面を、容赦なく太陽が照り付けます。
夏休み前の終業式の日。
わたしは、また、あなたに会いました。
「よぉ!これから帰るの?」
あれ以来、あなたはわたしを「桜ちゃん」と呼びました。
「そうですが。先輩もですか?」
何気なくそう答えると、あなたは驚いたように言いました。
「…え…なにか良いことでもあったの?反応がえらく素直だねぇ」
「……特になにも。先輩こそ、顔がにやっけぱなしですよ」
わたしがそう答えると、あなたはパッと顔を押さえ、恥ずかしそうに言いました。
「えっ!やっぱそんな顔してる?」
わたしの胸に不安がよぎりました。
「…彼女でも、できたんですか?」
あなたはさらりと答えました。
「できたらいいねぇ。
いやさ、明日から夏休みじゃん?もう、浮かれちゃって浮かれちゃって。
さっきもね、担任に『帰りに事故るなよ』って言われちゃってさぁ…」
「……子どもですか。」
わたしは安心しました。今はいないんだ、と。
「では、わたしはこれで」
わたしは帰ろうと、校門に向かいました。
「え?ちょっと待ってよ。せっかくだから、一緒に帰ろう?ね。」
「…は?なんで」
「いいじゃん。なんとなくだよぉ」
「…そんなことしてると、誤解されちゃいますよ」
「ま、いいんじゃない?さ、帰ろう!」
わたしの胸の中で、何かが、崩れる音がしました。
ねえ、先輩。
わたしをからかってるんですか?
だったら、お願いです。
わたしに構わないで
わたしに笑わないで
わたしに触れないで。
ねえ、先輩。
わたしはあなたに笑いませんよ?
だから、お願い。
そんな風に、笑わないでください…。