初恋−4
あなたはまだ、わたしの名前を知りません。
わたしは、あなたに対して少しの意地を、張っていたのかもしれません…
その頃には、もう名前を言うことなんて出来ませんでした。
五月
桜が散り、あなたと初めて会ったあの樹は、
薄いピンク色から、緑色に変わりました。
だけどわたしは、あれからずっと、放課後になればここで座っています。
別に、あなたを待っていたわけではなかった。
ただ、綾香がそっけなくなってから、放課後はずっと、一人だったから。
今日も、わたしはここで座っていました。
いつの間にか寝ていたらしく、ふと、目を覚ますと、隣にあなたがいました。
その時、隣で寝るあなたに戸惑う自分と、少し、嬉しいと思った自分がいたことに、
わたしは気付かないふりをした。
「……あ、おはよ。ごめん、俺も寝ちゃってた?」
あなたはすぐに目を覚まし、わたしに笑いかけました。
わたしは、いつの間にかあなたに見とれていた自分に気付き、
すぐに目を逸らしました。
「……こんばんは。もう夕方ですよ。何やってんですか、こんなところで。」
わたしは立ち上がって服をはたいた。
「君こそ、こんなところで寝てたら風邪ひくよ」
あなたはわたしに向かって手を伸ばしました。
「…………なんですか?」
「起こして」
あなたは笑ってそう言いました。
わたしは仕方なくあなたの手を引きました。
「ありがとね」
あなたの手は、思ったより大きくて、ちゃんと男の人だった。
あなたは、わたしの名前を知っていますか…?
いつになったら、聞いてくれますか…?
いつになったら、呼んでくれますか…?