初恋−3
もしかしたらあの人にとってわたしは、何でもないただの後輩だったのかもしれない。
だけど、わたしにとってあの人は、紛れもなく「初恋」の人でした……。
四月
入学式も終わり、あの人と初めて会ってから半月が過ぎた。
たまに頭をちらつくあの人に、自分が恋心を抱いているなんて、
この時のわたしは気付きもしなかった。
ただ、なんとなく、名前も知らないあの人が、
教室の前を通るたび、ドキンと鳴った自分の胸が、
不思議で不思議で仕方なかった。
綾香にこの間のラブレターの事を聞くと、
「あんなやつ、振ったよ!!当然!
だってさ、一目ぼれなんて信じられるわけないでしょ!?
それに、あたし、あいつのこと名前だって知らなかったんだよ!?」
それなのにスキって言われても困る!!だって。
少し照れながらそう言った。
入学してしばらくたつと、綾香は部活に入った。
そのせいか、帰宅部のわたしとは帰る時間が合わなくなって、
一人で帰ることが多くなった。
その頃からあなたに、よく逢うようになりました。
『桜の木の下で落ちてくる桜の花びらを、
地面に落ちるまでに左手でキャッチできれば、恋は実る。』
そんなおまじないが流行ったころ、わたしは馬鹿みたいに実践してた。
この日も、まるでそれが、帰る前の儀式のように当たり前に
落ちてくる花びらを追いかけていた。
でも全然つかめなくて、私を素通りして落ちていく花びら。
まるで神様に、『あきらめなさい』と言われてるみたいで、
余計にムキになって追いかけた。
「なに?またやってんの?懲りないねぇ、君も。」
必死で花びらを追いかけてた私に、あの人は、突然話しかけてきました。
まだ、あなたの名前も知らなかった頃です。
「…いいじゃないですか………ていうか、毎日毎日…一体なんなんですか?」
わたしは花びらを追いかけながらそう言った。
あなたは私がいる桜の木の下まで来て、ドカッと座りました。
「大城裕太、3年生。ねぇ、なんでそんなに必死なの?好きな子いるの?」
あなたは座ったまま、花びらを追い掛け回すわたしを、目で追っていました。
わたしは立ち止まってあなたのほうを見た。
あなたのそんな態度に、わたしは思わずあなたを睨んだ。
「…あなたには関係ありません。」
あなたは、わたしのこんな態度に顔を歪めることもなく、笑って言いました。
「ふぅん。ま、いいけど。じゃ、俺帰るわ!頑張ってね」
あなたは、わたしに大きくを振りました。
それが、あなたの名前を知った日でした。
あなたは年上でした。
「……大城…先輩………」
わたしの目は何故か、あなたの後ろ姿を、ずっと追いかけていました。
あの日、あなたにあんな態度をとったこと、今とても後悔しています。
だけど、その時はきっとあれが精一杯だった……。
わたしはあなたの前で笑ったことはありません。
あの頃わたしは何故か、あなたの前では笑ってはいけないと、そう思っていました…―――