一話 初恋−2
わたしがあなたに初めて逢ったのは、桜が舞い散る4月だった。
わたしはその日入学式で、式が終わり中学から一緒だった綾香と学校から帰る途中だった。
綾香と校門を出ようとしたとき、後ろで綾香の名前を呼ぶ声がした。
わたし達は校門前で立ち止まり、声のする方を振り返った。
綾香を呼んでいたのは、わたし達より二つ上の綾香のお兄さん-直人-だった。
向こうから綾香の名前を叫びながらわたし達のほうへ走ってくる。
その後ろを走っていたもう一人の男の人が、……あなただった。
直人さんは、向こうから走ってきて少し息を切らしながらわたし達の前に座り込んだ。
「…何よ。そんなに大声で人の名前叫ばないでくれる?」
座り込んだ直人さんに、綾香は少し恥ずかしそうに言った。
「わりぃ、お前ら全然気付かねぇし。ほら」
直人さんはそう言って、綾香に一枚の紙を手渡した。
綾香は不思議そうに、その紙を受け取って内容を読んだ。
しばらくすると、綾香は顔を真っ赤にして、直人さんを睨んだ。
「じゃ、俺は渡したからなっ!」
その様子に気付いたらしい直人さんは、そう言って逃げるように戻っていった。
「は?!ちょっと……これ…、どぉすんのよ……」
綾香の顔はますます赤くなった。
わたしは気になって綾香の持っていた紙を覗き込んだ。
それはどうやら綾香宛の手紙らしかった。
「…?綾香さんへ…。入学式の時に…あなたに……一目ぼれしましたぁあ?!!…っンぐ」
それは綾香に宛てたラブレターだった。
思わず大きい声で叫んでしまったわたしの口を、綾香が慌ててふさいだ。
「…っ声!!でかいっ!!」
「ごめ…でも、これラブレター……だよね?」
確かめるようにそう聞くと、綾香は耳まで赤くした。
「あン…っの、馬鹿兄貴!!!」
「…あ、ねぇ綾香!これっ!『明日の放課後、桜の木の下で待ってる』って…」
わたしは綾香の手でくしゃくしゃにされた手紙を取ってもう一度、最後まで読んだ。
綾香は驚いたように「はっ?!」とだけ言って、少し考え込んだように後はなにも言わなかった。
「と、とりあえず……今日は帰るっ!!」
少し拗ねたようにわたしの腕を引っぱって、わたし達は学校を後にした。
綾香の頬は、少し赤く染まっていて、わたしは綾香に引っぱられながら可愛いなぁなんて思っていた。