二話 再会-1
わたしたちは、3−2の教室に向かった。
そこまで行くのに通る、懐かしい教室。
職員室、1年の教室、階段を上がって、生物室、書道室…。
……先輩のいた教室。
ふいに、その教室の前で立ち止まったわたしの腕を、綾香が引っぱってくれた。
「…行くよ」
「うん」
3−2。
教室に着いた。
ドアの前に立ったわたし達は、少しためらいがちに、
少し懐かしさを感じ、二人で扉を開けた。
すでに何人かが来ていた。
「おぉ!久しぶりだなぁ!!お前ら!」
扉を開けると、一人の男性が嬉しそうに近付いてきた。
「おぅ!!久しぶり!」
綾香はなんのためらいもなく、その人とハイタッチ。
この男性は、高野広司。高校時代の綾香の恋人。
卒業してからは、お互い忙しくて、逢えなくなったから別れたらしい。
それにしても…さすが綾香だ。あっという間に囲まれた。
わたしは教室を見回して、窓の方に向かった。
道路側の窓からは、登下校の生徒が良く見える。
そういえば…よくここから見てたっけ…先輩のこと。
「理奈。またなんか考え込んでるでしょ」
背中からした綾香の声で我に返る。
「…ん。ごめん」
「………べつに謝ることじゃないよ。」
綾香はわたしの隣に立った。
「…まだ、ふっ切れてないんだ?」
「…………わかんない」
綾香はうっすらと笑みを浮かべた。
「…仕方ないか…」
「わたし、ちょっとトイレ…行ってくるね」
綾香にそう言って、わたしはあの場所に行った。
先輩の教室……覗く勇気はなくて、目を逸らした。
書道室を通りすぎ、生物室、階段を降りて1年の教室の前を通る。
職員室を通りすぎ、昇降口を出ると、斜め左に見えるは校門。
その前に立つ大きな桜の木。
あの頃から何も変わらずに咲き続けている一本の桜。
わたしはその木の根元に腰を下ろした。
卒業して何年目の春が過ぎた?
今年もこの桜は変わらずに咲くのに、先輩はもういなくて……
桜の下で、こうして座っていれば、また、会えると思った。
先輩が卒業した後も、昼休みにはここで座ってた。
雨が降った放課後は昇降口で座って、雨が止むまで待っていた。
先輩のいない2年間は、とても長かった。
毎日が長くて、先輩がいないことが、こんなにも苦痛だった。
空を見上げると
桜の花びらのスキマから覗く、綺麗で青い空。
目を閉じると、鮮明によみがえるあなたの笑顔。
今、先輩はどうしていますか
何をしていますか
先輩の心の中に、あの日のわたしは
いますか………?