表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/16

密談

 大量のプレゼントを一人で開けていたのでは夕食に間に合わない。結局、ジークに手伝ってもらってガサガサと包みを開ける作業を繰り返した為、大理石のテーブルの上はカラフルなラッピングの紙でいっぱいになってしまった。


 ベルンハルトはそれを拾って回収し、お土産と称した大量のプレゼントを開けて喜ぶアンナを横目で見て密やかに満足げな笑みを浮かべていた。この男、洋服に関する美的センス以外はアンナの好みを熟知しているのだ。


「このクマのぬいぐるみかわいいね。クマおじさんみたい」

「ああ、それはおまけで店主が付けてくれた物ですね」


 一か所の雑貨店で大量に購入した為、喜んだ店主が付けてくれたのだ。黒いクマのぬいぐるみはつぶらな瞳がチャームポイントで、首元に白い三日月模様が入っている。大きさはアンナがぎゅうっと抱き着けるほどに大きい。


「ふふふ、このリボンをこうして…できた!」


 何かのラッピングに使われていたのだろう。真紅のリボンを手に取り、アンナは黒いクマの首に結ぶ。あまり上手でない結び方だが、ベルンハルトはそれを直そうとは思わなかった。目を細め、懐かしそうに笑った。

 

 てっきり、言葉を並び立てて大喜びするかと思っていたアンナは拍子抜けしたが、リボンを結ばれたクマのぬいぐるみを見て満足げな表情を浮かべた。


「これでクマおじさんに、そっくり! 今日は抱っこして寝ようっと」

「ええええ! 今度、狼のぬいぐるみも持ってくるから、アンナ!」


 満面の笑みで黒いクマのぬいぐるみをぎゅうっと抱きしめるアンナ。そのぬいぐるみを引き剥がそうと躍起になってアンナにべたべたとまとわりつくジークを、ベルンハルトはひょいと摘み上げた。


「ベルンハルト! 犬を持つみたいに持つな!」

「犬みたいなものでしょう」

「違う! オレは誇り高き狼だ!」


 じたばたと暴れる男の子をそのまま揺り椅子の上にぽいと投げ込む。揺り椅子は軋んだ音を立てて動いた。


「姫様、すぐに片づけてお食事に致しましょう」

「私もお手伝いするー!」

「アンナが手伝うならオレも!」


 言われたことをきちんと守り、食器を丁寧に扱うアンナのお手伝いは大歓迎だ。しかし、だいたいにおいて動作が雑なジークのお手伝いの申し出にベルンハルトは渋面を作る。しかし、ここで断っても、配膳した端からつまみ食いをされてしまうだろう…。わずか数秒の間にそれらをシュミレートしたベルンハルトは深いため息をついた。


「いいでしょう。ジークにも手伝ってもらいましょう」



***


 ジークへのお土産は分厚いマナーの本だと思っていたが、思わぬところでおいしいお肉がディナーに出てきた。もちろん、アンナの為に用意したものだったが、ありつけたのだからジークのものでもある。


 おいしいディナーと、デザートにプディングまで食べたアンナは浴場へと行ってしまった。ジークはこの後に用事があるので出かけなくてはいけないが、アンナにおやすみを言いたい。あわよくばおやすみのキスもしたい。今まで一度もできたことはないけれど。


 なので、お気に入りの揺り椅子の上で貰ったマナーの本を読んでいると、居間の扉が開いて黒い燕尾服の男がすっと入ってきた。


「ジーク、少しお話があります」

「なんだ?」


 珍しくベルンハルトは言葉を探すように口を閉ざした。いつもペラペラとよく喋る彼とは思えない様子にジークは思わず背を伸ばす。


「ジーク…いえ。ジークヴァルト様」


 略称ではなく、きちんと呼ばれジークは不安そうに金色の瞳を瞬かせた。


「姫様は、もうじき14歳になられます」

「ああ。ここの外に出す、のか?」


 ゴクリ、とジークは喉を鳴らした。ベルンハルトは黒い瞳を逸らし、イスに腰掛けさせたままの自身に似たぬいぐるみへと目を移す。首には赤いリボンが巻かれている。


「ええ。ここに居ては、姫様は幸せにはなれませんから。学院へ行っていただくつもりです」

「…アンナはここに居るのが幸せだって言うだろうけど。お前は、それで本当にいいのか?」


 金の瞳の強い視線が、黒い瞳を射抜く。ベルンハルトはそれを受け止めて頷いた。


「私はこの城と森の番人の身ゆえ、ここを離れることはできません」

「それは知ってるけど…」


 ジークは何か言いたげに言葉を濁した。言葉を探すが、十一歳の男の子には自身の今の気持を上手く表現することは難しく、短く舌打ちをした。


「でも、まだあと三年あるだろ。その間にゆっくり考えれば…」

「そうですね。…貴方と姫様が同い年で良かったです」

「まあ、オレも十四歳になれば学院へ通うから、何かしら助けてはやれるけど。アンナが嫌がるんだったらやめてあげてよ」


 ジークの言葉にベルンハルトは何も答えず、静かに微笑んだ。ジークが6歳の時からの付き合いだ。この男がこういう顔をするときは何を言っても無駄だと知っている。


 最初に出会ったその時から姿の変わらぬこの森の番人は、彼の大切な姫様を愛するがゆえにとても頑固だというのもよく分かっていたから、ジークは溜息を吐いた。たった三年でベルンハルトの決意が揺らぐとは到底思えないが、流れに身を任せようと思った。


 ベルンハルトがふと顔を上げ、話の中断の無礼を謝り、退出の礼を取って出て行った。アンナが浴場から出たのだろう。冷たいレモン水を取りにキッチンへ行くのだ。


「ベルンハルト、お前は本当にそれでいいのかよ」


 ジークの声は静かな居間の赤い絨毯に落ちて、ゆっくりと消えていった。


 ジークヴァルト十一歳、アンナ十一歳の秋の日のことだった。

 

アンナは、お土産のスポンジとバスソルトと石鹸を持っていそいそとバスタイムです。


次話、おやすみなさいのその後で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ