幼なじみ
僕は...花音にカッコイイと言われた。
空気がそんなこと言われるとは。最もうざくて気持ち悪い奴がそんなこと言われるなんて
そう思ったのは僕だけではなかった。
また、にぎやかだった話し声が静止する。
みんな一瞬だが時間が止まった。でもすぐに元に戻った。
「どうして......カッコイイんです、か?」
僕は恐る恐る聞いた。本来は素直に喜ぶべきなのにあまり喜べなかった。
僕は、
幸せになってはいけない存在だと
思っていたからだ。
「だって、謙也くんって休まずに学校にちゃんと来るしみんなサボりがちな掃除だって
しっかりやってる。それに..................ううんなんでもない!」
最後、何を言おうとしてたのかわからないが僕は、みんなをサボらせる為に掃除をしている。みんなのご機嫌を取らないとまた冷酷な視線を浴びせられる。それよりは、分かってて利用された方がマシだし気持ちも楽だ。
空気なのに、気を使わなくてはいけない。本当に僕は中途半端だ。
僕と花音の間にはしばらく沈黙が続いた。
「もっと話そう!」
沈黙は花音により破られた
「う、うん」
会話自体完全に花音のペースだったが十分楽しめた。
僕は、うなずいてばかりだったが久しぶりに会話ができたと思った。
あっという間に授業が終わり皆帰りの支度をしている。
僕は部活に行く支度をした。
とは言ってもただグラウンドの整備をするだけだが。
後輩たちはすぐに卒業できるが僕は卒業できない。
僕が教室を出た瞬間、
僕は廊下の隅でクラスメートの不良たちにたかられている花音を見てしまった。
花音はやつらに体を触られていた。
かわいそうだった。
それでも、花音は何も言わずただじっとしていた。でも、辛いに決まっていた。
僕はこうなることは分かっていた。僕みたいな人間に近づいた花音は、必ずこういう人目をつけられ辛い目に遭うと。
でも僕は
花音との会話を楽しんでしまった。
つまり僕は、花音が不幸になる事よりも目先のくだらない利益に目が行ってしまった。
僕は自分の欲求の為だけに花音の将来を踏みにじった。本来なら、普通に花音は生活できたはずなのに!
僕は一瞬で幸せな気分からいつもより憂鬱な気分に引きずり落とされた。
おまけに僕は、
僕に話しかけてきた花音が悪い、
と自己暗示して逃げるようにして部活に行ってしまった。
もし僕があの場には入れば、僕は不良たちから『睨まれる』。
それは、僕が一番怖くて嫌いな行為
だけど
僕はすごく後悔した。
どうして、助けなかったのか。
部活の時間は整備と見学だけだったがその時間はとても長かった。常に物凄い罪悪感が僕を襲っていた。
僕は、自分がこの上ない臆病者だとますます思い知らされ、生きてるだけで、人に害を与えるクズだと悟った。
僕が消えれば、花音はあんなこと二度とされない。原因は僕だから。
部活が終わり、
僕は誰もいない自分の家に向かって歩いていた。足が重く、顔は、ずっと下を向いていた。どうして誰もいない家に帰るのだろう。
僕は通学路の踏み切りのど真ん中つまり線路の上で動けなくなった。
そしてその直後、「カンカンカン」という独特な音が夕方の物静かな空に鳴り響いた。
「お母さん、待っててください。今すぐに行きます」
ゴーーという音を立て電車は僕に近づいてくる。
僕は静かに目を閉じた。
でも、
僕に当たったのは鉄塊ではなかった。
それは、柔らかくて、暖かかった。そして僕はその物体に倒されたおかげで
死ななかった。その物体は僕を包み込むようにしていたから地面に着いてもあまり痛くなかった。
「死ぬなんて、ダメだよ。
絶対に......許さない......から」
この声は......紛れもなく花音の声。
僕は、恐る恐る目を開けた。
花音は僕の上に乗っかり涙を流していた。
涙は僕の頬に落ち地面へと流れた。
「どうして?」
僕はそう言うと、
今までの精神疲労のせいか、
気を失った。